59話 お祝いムードも束の間
準決勝の戦いを見て会場中大盛り上がりである。
決勝を早くしろと言う声があちこちから聞こえてくる。
「他人の戦いを観るのは確かに楽しいですけど、凄い盛り上がり方ですわね。」
「今まで来たことはなかったのか?」
「色々と忙しい身でしたからね、観に来たいとは思ってましたが都合が合わなかったのですわ。」
同じ街に住んでいたのに観戦に来ることもできない。
貴族とは自由な時間が限られている。
しかし櫓達と行動をこれから共にするので、そんな不自由からも暫くは解放される。
今も普段では出来ない事であろう、奴隷の子供達に囲まながら決勝について一緒に喋っている。
子供達はネオンの勝利を疑っていなかったが、櫓とシルヴィーは良くて五分五分だろうと思っていた。
コロシアムのステージに上がってきた司会は、決勝に勝ち上がったネオンと魔法使いの女の子を呼び込む。
ステージに二人が上がったのを確認し、試合開始の合図が出される。
魔法使いはこれまでと同じく開始と同時に魔法の詠唱を開始する。
「まずは近づかずに様子見です、狐火!」
右手と左手に拳大の炎を作り相手目掛けて飛ばす。
魔法使いは魔法が間に合わないと判断し、回避行動をとる。
魔法は途中で詠唱が続けられなかったり、明確な魔法のイメージが崩れてしまったりすると、魔法がキャンセルされてしまう。
ネオンによって魔法がキャンセルされてしまい、再び詠唱しなおすが、その時にはもうネオンはかなり距離を詰めていた。
「これなら発動前に間に合います!」
ネオンは一気に魔法使いとの距離を縮めると、剣を居合いの形で振り抜く。
しかしその剣は魔法使いには届かず、空中で止められている。
ネオンにしか見えていないが、魔法使いがコートの中に隠していた左手で魔法道具を使用している。
それに魔力を流した瞬間にネオンの身体に目掛けて針が飛んできて、それが刺さった瞬間ネオンは動けなくなってしまった。
魔法使いが詠唱を終えて炎魔法がネオンに向けて飛んでくる。
「っ!?」
派手な爆発音が響き渡り、魔法使いも客も準決勝までの様にこれで終わりだと思っていた。
しかしボロボロではありながらネオンは立っていた。
それを観て皆驚いている。
「咄嗟に狐火をぶつける事で威力を分散させたか。」
「それでも完全には防ぎきれずダメージは受けてしまいましたね。」
櫓とシルヴィーの様な熟練の冒険者達には何が起きたか見えていた。
しかしダメージはかなりありネオンはふらついている。
「さっきの金縛りの様なものは無くなりましたが、今度はダメージで動けませんか。」
ネオンが動けないのを観ると、距離を取り魔法使いは再び詠唱をし直し止めをさそうとする。
「口だけは動きますから、本職に挑んでみましょうか。」
ネオンは一人呟きながら、練習していた魔法の詠唱文を思い出し、現象をイメージしながら詠唱を始める。
「我が魔力を糧とし、空を衝き、敵を焼き尽くせ。火柱!」
二人の詠唱が終わるタイミングはほぼ同じであった。
ネオンの元にバランスボールほどもある火球が飛んできて、ネオンに着弾すると大爆発を起こす。
同時に魔法使いの足元に魔法陣が現れ、そこから火が上に向かって勢いよく噴き出している。
爆発の煙が収まり魔法陣が消えると、二人とも地面に倒れていた。
司会が意識の確認をしようとすると、魔法使いが杖を支えに立ち上がる。
ネオンは意識を失っていたので、リタイア扱いとなり決勝の勝敗がついた。
会場からは割れんばかりの拍手が送られているが、子供達はネオンが負けてしまい残念そうだ。
「準優勝でもよくやったよ、帰ったら皆でネオンを祝ってやろう。」
頭を撫でながら言うと、子供達も笑って頷いてくれた。
それから関係者という事でネオンがいる控室に通してもらう。
櫓達を見つけると治癒魔法で治療を受けていたネオンがガバッと頭を下げてきた。
「申し訳ありません櫓様、優勝することができませんでした。」
「お前のことだから言うと思ったよ。気にするな準優勝で充分だ。」
「そうですわよ、あれだけ立派に戦ったのですから頭を上げて胸を張ると良いですわ。」
「あれ?シルヴィー様!?観ていたんですか!?」
「ふふっ、短期間で凄い成長でしたよネオンさん。」
「同意見だ、よく頑張ったなネオン。」
「ううう、二人に褒めてもらえて嬉しおわあっ!」
自分が戦いに置いて尊敬している櫓とシルヴィーから褒められて、涙目で喜んでいると一緒にいた子供達が我慢できずネオンに群がり揉みくちゃにされていた。
まだ治療途中だったので、いたたた痛い痛いと言いながらも、子供達からかっこいい、凄かった、準優勝おめでとうなど、口々に言われて嬉しそうに笑っていた。
ネオンの賭けで儲けを出してそれなりの金額になっていたので、ネオンの準優勝祝いのために帰りに屋台などを巡り食べ物を買い漁る。
「便利な魔法道具ですわね、どれほど入るんですの?」
「測ったことはないな。今でも魔物の素材や食べ物なんかがかなり入ってるしな。」
「羨ましい話ですわね。」
「羨ましいって、シルヴィーも俺と戦った時にその腕輪から武器出してただろう?」
「この腕輪は高価で確かに空間魔法が付与されていますけど、武器が数本入る程度ですわ。幾らでも入ると言うわけではありません。なのでその腕輪が幾らでも入るなどと言いふらさない方がいいですわよ、面倒事が増えますから。」
「ああ、気をつけるよ。」
物を入れて持ち運びが楽になる様に空間魔法が付与された魔法道具と言うのは、結構造られてはいるが性能は様々だ。
なのに空間魔法が付与された道具は貴族でも簡単に手が出ないほどどれも高い。
そんな中神様使用の魔法道具である櫓のボックスリングは、性能的に優れすぎている。
王侯貴族が皆欲しがる様な物なので、シルヴィーは一応注意してくれた。
買い物も済んだので、皆で拠点に帰ろうとして、シルヴィーに話してなかったことに気づき教えると、自分も今日から住むと言った。
自分の拠点ながら貴族のお嬢様をそんな場所に住まわせて良いのかと思いながら、拠点に到着すると様子がおかしい。
子供達が一か所に集まり泣いていた。
「どうしたんだお前たち?」
「ぐすっ、櫓お兄ちゃん・・・。」
「お兄ちゃん、うわあああん。」
皆泣くばかりで様子がわからない、落ち着かせようと近づくと子供達に囲まれて大人の奴隷達が皆血を流しながら倒れているのに気が付いた。
【とある貴族の屋敷にて】
「言われた通り子供を一人連れてきたぞ、早く俺の部下を解放しろ。」
「随分な口の聞き方だな、お前の部下の命は俺が握っているんだぞ?」
「くっ!」
男は歯を食いしばりながら貴族の男を睨んでいる。
「そう睨むな、もう一つの約束を果たしてくれれば直ぐに返してやる。」
「気は進まんが部下の命には変えられん、ただし約束を違えようとするなら覚悟する事だ。」
「約束は守るさ、何のために最強と名高い傭兵集団からリスクを犯して人質を取ったと思っている。」
貴族の男の言葉を聞き流し傭兵の男は部屋を出ていく。
「くくくっ、東城 櫓早く来い。」
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