58話 訓練の成果
司会の試合開始の合図でネオンと対戦者の男の剣士が距離を詰め斬り結ぶ。
ネオンは櫓と出会ってから戦い方を教えてもらい、自主訓練をして実力をつけていったので、剣士としては日が浅いが獣人特有の身体能力の高さでそれを補っていた。
ネオンは相手の攻撃を受け流し避けながら、隙を突いて速い攻撃を叩き込む速度重視の戦闘スタイルである。
対する相手は速さではネオンに劣っているものの、一撃の威力が高い。
切り結んでしまえばその威力にネオンが身体ごと後退させられるほどだ。
相手は特にスキルなどを持っているわけではないが、自身の持つ長剣を魔装して強化していた。
ネオンも一応魔装を習得してはいるのだが、まだ拙く威力負けしている。
「推されてますわね、魔装は確か最近使えるようになったのですよね?」
「ああ、前は二回に一回は失敗してて実戦ではとても使わせられなかったが、今はちゃんと使える様になっているな、まだ習得して日が浅いが。」
「両者共に魔装は出来ていますが、剣に魔装されている魔力量が違いすぎますわね。」
シルヴィーが言った通りネオンと対戦者では剣に纏わらせている魔力の量が違う。
自分の魔力を扱う事に慣れている者ほど、自身の魔力を自由自在に好きな場所に好きな分だけ集めて、その場所を強化することができる。
ネオンは自身の持つ魔力量は多いが、魔力の扱いに慣れていない為、相手よりも剣に魔力を纏わらせることができていなかった。
そのため同じ魔装で対抗しても、力負けしてどんどんとコロシアムの場外に追い詰められてしまっていた。
ネオンが押されていることに気づいた子供達は必死に応援している。
「ふぅ・・・、魔装では敵いませんか。これはまだまだ修行が必要ですね。櫓様が私に賭けて下さってますし、子供達の応援もしっかり聞こえているこの状況で負けるわけにはいきませんね。」
一人小声で呟きながらネオンは相手の振りかぶった剣をバックステップで交わす。
もう対戦場の端ギリギリで、もう少しでも下がれば場外で負けてしまう。
相手は追い詰めたと思って勝ちを確信した様な笑みを浮かべながらじりじりと距離を詰めてくる。
「仕方がありませんか、決勝までに手の内は隠して置きたかったんですけどね。狐火!」
ネオンは剣を持っていない掌に拳大の炎を作り、相手に向けて飛ばした。
ここまでネオンは炎など使ってこなかったので、急な攻撃に相手は一瞬驚いたが、直ぐに建て直し魔装した剣で炎を斬る。
そしてネオンは相手が狐火に気を取られている間に、剣の魔装を解除して炎を纏わせている。
櫓が剣に雷帝のスキルを使って雷を纏わせた様に、狐火で同じことをしたのだ。
「スキルで武器に炎を纏わせられる様になっていたのか、短期間で良く頑張ったなネオン。」
「凄いですわね、魔装もですけど属性付加まで使えるなんて。普通年単位の修行が必要ですのに。」
シルヴィーの言う通り、魔力ではなく魔力をスキルや魔法によって変化させた物を武器に纏わせ強化する属性付加と言うのは魔装よりもさらに難易度が高い。
そもそもスキルや魔法を使えない物は属性付加と言うステージに立つことすら出来ないが、持っている物でも長年の訓練が必要なので、そう簡単に習得できる物ではないが、実はネオンの戦闘センスは自分も知らないことだが相当な物であった。
櫓と出会うまで試すことも無かったので気付かなかっただけなのである。
「見た目通り火力が高そうだな、押し切れるか?」
武器に纏わせる力によって得られる効果は様々である。
魔力を纏わせた魔装は攻撃防御など全てが均等に強化された様な状態だ。
そして魔装とは違い炎を纏った武器はとにかく攻撃力が高い。
ネオンは炎を纏わせた剣で相手に斬りかかる。
相手は炎を斬った後でもすぐネオンに反応して、剣で迎え撃つ。
しかし先程までとは違った結果が生まれる。
斬り結んだ瞬間男の身体が後退させられた。
先程までとの威力の違いに驚愕している。
押されたばかりだったネオンが、相手を大きく後退させた事により子供達だけでなく、コロシアム中が湧き立つ。
櫓以外にもネオンに賭けている者はいる。
そう言った者達にとっては是非ともネオンに勝って欲しいのだ。
ネオンの攻撃で後退させられた男は、このままではまずいと思ったのか先程以上に剣に魔力を注ぎ込んで魔装していく。
熟練の冒険者でなくても、剣の周りがオーラの様な物を纏っている様に見えているほどだ。
「なるほど、これで決めると言う事ですか、受けて立ちます。」
ネオンは炎を纏わせた剣を上段に掲げしっかりと構える。
男は地面を滑る様に移動し、ネオンとの距離を一気に詰め充分に魔装した剣を逆袈裟懸けに切り上げる。
「天剣七式・文月!」
ネオンは唐竹割りに上に掲げた剣を振り下ろす。
二つの剣がぶつかり拮抗したのは一瞬のみ。
男の持つ剣は中程からボキッと折れてしまい、それでも止まらないネオンの剣が相手の頭に直撃する。
幸いコロシアムも冒険者ギルドの訓練場と同じ作りになっており、死に至らしめる攻撃をすると相手の意識を刈り取る。
男は気絶してその場に崩れ落ち、ネオンの勝利が宣言され会場から割れんばかりの声援と拍手が送られた。
ネオンは恥ずかしそうに手を振って答えつつ退場する。
「先程の技、櫓さんの使っている流派の剣技と同じなのですか?」
「そうだ、ネオンには一応全部の剣技を教えた。まさか既にあそこまで使えるようになっているとは思わなかったけどな。」
櫓はネオンの成長速度に呆れて軽く肩を竦める。
シルヴィーも短期間での成長速度については同じ意見の様だ。
その後子供達がネオンの勝利に興奮してしまい宥めるのに苦労していると、準決勝二試合目が始まる。
対戦者は剣士と魔法使いだ。
剣士は先程ネオンと戦った者と同じくらいの強さを持っていた。
なので決して弱くはないのだが、結果は今までの者達と同じく相手まで距離を詰める前に魔法の一撃で勝負が決まってしまった。
ただ今までと違った点もあり、明らかに今までの者より魔法使いに近づいたのだ。
そして自分の間合いに入れることまでできたのか剣を振りかぶる所まで行ったのだが、そこで冒険者は一瞬止まった。
しかしその様に見えたのは櫓やシルヴィーの様な熟練の冒険者のみである。
(ついに隠し球の披露か、何をした?調査の魔眼では詠唱省略しか持っていない。魔法が絡んでるのか?)
シルヴィーにも意見を聞きながら考察して決勝を待つ。
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