57話 ネオンのトーナメント戦
「いけええええお姉ちゃん!」
「そこだそこだー!」
「がんばれ〜!」
子供達がコロシアムで戦っているネオンを応援している。
相手は大柄な男で武器は大剣を持っている。
普通に打ち合えば力負けしてしまうので、ネオンはギリギリで交わしたり剣で受け流したりしつつ、たまにカウンターを狙うなどして踊る様に戦場で戦っている。
相手は完全に振り回されている状態でかなり息も上がってきているのでネオンが勝つのも時間の問題だ。
そこからしばらく相手も粘ったがネオンに首元に剣を突きつけられてしまい降参した。
これでネオンはベスト四に進出できた。
ちなみにネオン以外に出場した年長組の奴隷達は一、二回勝てはしたがそこで負けてしまった。
会場はほぼ満席となっており大盛り上がりである。
櫓達より先に子供達を連れてきてくれていた年長組が場所取りをしてくれていたので、ほぼ最前列の良い席で観戦できていた。
戦い終わったネオンが退場する時にこちらに手を振っている、まだまだ余裕そうである。
しかしベスト四に残った他の三人の戦いも観たがなかなか侮れない。
「お姉ちゃんすごいね、あと二回勝ったら優勝だよ!」
「あんなに強いんだから絶対勝てるよ!」
子供達はネオンの勝利を疑っていない様子である。
(残ったのは剣士が二人と魔法使い。剣士にはギリギリ勝てそうな気もするが魔法使いはキツそうだな。なによりこんな近接戦闘職ばかりのトーナメントを前衛も無しに魔法使い一人だけのタイマンで勝ち上がって来てるだけでもすごいしな。)
魔法使いは戦いでは後衛の職である。
前衛職と違って攻撃には詠唱などが絡むため、一発の火力は高くても発動が遅い。
発動する前に接近を許してしまえばそこで負けである。
しかし魔法使い側もそんなことは分かっているだろうから、何かしら準備はしているだろう。
ここまでの魔法使いの戦いは、対戦相手の距離を詰める速度が魔法発動するより遅いので、全部勝てている感じだ。
と言っても距離を詰める速度が決して遅いわけではない、魔法使いは詠唱省略と言うスキルを所持していたので普通の魔法使いと比べて魔法の発動がかなり早い。
なので詰められた時の対処法をまだ観れていない。
ネオンなら間違いなく魔法発動より早く距離を詰め切る事ができるので、その後の展開でどうなるかと言ったところである。
「櫓様、こちら先程の賭けのお金です。」
「おお、わるいな。」
奴隷に賭けのお使いを頼んでいてその賭けで買った金を受け取る。
コロシアムで行われているトーナメントは、順位に応じて賞金が貰える他に、観客達もどちらが勝つかで賭けをして楽しむ事ができる。
櫓はもちろんネオンに一回戦から賭け続け、元々の賭け金が多いためかなり儲けている。
今も金貨と銀貨がジャラジャラと大量に入った袋を受け取ったところだ。
この賭けでかなり儲けているが今の櫓にとってはまだまだ足りない。
奴隷を四十人も増やし大所帯になってしまったので、食費なども馬鹿にならない。
今は商店に出す為の魔法道具やポーションなどを作るために皆が頑張って練習している段階なので、まだ商店は活動できていない。
なので稼ぎは櫓やネオンが依頼をこなす事で得られる報酬である。
しかしその報酬の中からも馬車や拠点の改造、魔法道具やポーション作りに必要な道具、素材などで次々とお金が無くなっていくので幾らあっても足りない。
「さて次のネオンの対戦相手は・・・剣士か、ギリギリ読めないがせっかくだしネオンを応援しよう。金貨一枚分賭けて来てくれ。」
奴隷に金貨を渡して賭けのお使いをする。
奴隷は賭けが行われている建物に向かっていった。
「さてと勝ってくれよネオン。」
「お姉ちゃんなら大丈夫だよきっと!」
「櫓お兄ちゃんも出ればよかったのに!」
「俺は冒険者のランク的に出れないんだよ。」
「そうなんだ、櫓お兄ちゃんが戦っているところ見たかったのにな〜。」
「残念だね〜?」
「ふふふっ、そこのお兄ちゃんはとっても強いので、このトーナメントに出たら余裕で勝ってしまいますわよ。」
子供達しか周りにはいないのに大人の女性の声が近くから聞こえて来た。
「シルヴィー!?なんでこんなところにいるんだ?」
そこにはこの街の公爵家の娘シルヴィー・フレンディアがいた。
初めて会った時の貴族らしいドレスではなく、冒険者らしい格好をしている。
しかし身につけている装備はどれも高そうな物ばかりだ。
たまにシルヴィーとは近況報告で会っていたが、いつも連れている護衛のリンネの姿が無かったので一人で来た様だ。
「やっと仕事が終わりましたので、今日から櫓さん達と一緒に行動して行こうかと思いまして。なので私もネオンさんの応援にとコロシアムにやってきたのですわ。お隣よろしいでしょうか?」
「ああ、そう言うことか。良いぞ座ってくれ。」
「失礼しますわ。」
シルヴィーは冒険者の格好をしていても言葉遣いや動作が洗練されている。
座ったシルヴィーを見て子供達は興味津々だ。
「櫓お兄ちゃん、このお姉ちゃん誰?」
「すっごい綺麗な人だね。」
「こんなに美人な人初めて見た!」
子供達の素直な反応を受けてシルヴィーは嬉しそうだ。
貴族とは奴隷や獣人などに偏見を持ち、嫌ったり対等に観ようとしない者が多い。
そんな中でフレンディア公爵家の当主とシルヴィーは、珍しい事にどちらも共通しているネオンに対して普通に接してくれた。
今も褒めてくれた奴隷の子供の頭を撫でている。
「この女の人はシルヴィー、俺の冒険仲間だ。」
「子供は素直で可愛らしいですわよね。仕事では面倒な腹の探り合いでうんざりしていたので癒されますわ。」
子供達はシルヴィーが貴族の娘だと知らないので、普通に櫓と接する様に話しているが、シルヴィーも櫓と同じく気にしてなく和気藹々と話している。
シルヴィーの名前を聞いて、周りの者が貴族だと気づけば騒ぎになるがその心配はない。
コロシアムはかなり広く席も多いが、試合を観て興奮して暴れたり、酒を飲み酔っ払って暴れたりといった事がよく起きるため、纏まった席ごとにその周りを少し開けてスペースを設けていた。
それにほぼ満席になるくらいの人の数である、様々な場所から話し声が聞こえて、自分たちの声もかき消されていく様な中で席の離れた人の話を盗み聞きなどできない。
「おっ、そろそろ時間か。」
「皆でネオンさんを応援しましょう!」
「「「がんばれーお姉ちゃーん!!!」」」
コロシアムの司会の呼び込みにより二つの入り口からネオンと対戦者が姿を現した。
閲覧ありがとうございます。
ブックマークやポイント評価よろしければお願いいたします。




