55話 人を呪わばなんとやら
「呪いですと?何ですかそれは?私には何のことだか。」
櫓の指摘に対して驚きの表情を浮かべそうになるのを我慢して、聞き返すオルト。
「とぼけても無駄だぞ?俺には人の情報を閲覧するスキルがあるからな。」
「っ!?」
初めてオルトの顔に焦りの色が浮かんだ。
「お前の所持スキルは奴隷魔法、鑑定、算術か。奴隷魔法か魔法道具によって呪いをかけたってところだな?」
「・・・。」
「知ってるか?冒険者ギルドには過去を見る魔法道具が置いてあるんだぜ?ちょっとギルドまでこのまま連行させてもらおう。」
櫓が首元の服を掴み上げたまま近くのギルドに行こうとすると、今まで黙ったままだったオルトが店の奥に向かって大声を出した。
「ジル、ガウ、出てこい。私を締め上げている無礼者を殺せ。」
オルトの指示を受けて直ぐ、店の奥から屈強そうな男が二人出てくる。
どちらも二メートル近い身長で筋肉が盛り上がっている。
首にはネオンと同じ奴隷の首輪が付けられている、恐らくこの店の用心棒なのだろう。
「オルト様お呼びで?」
「そこのちっこいガキですかい?」
櫓の方を見ながら威圧的に迫ってくる。
「そうだ早く殺せ。」
「ネオン動かなくていいから、子供達を守っておけ。」
用心棒に立ち向かおうとしていたネオンは、櫓の指示を受けて子供達を四人から少し遠ざける。
「随分と余裕だな。」
「おいガキ、自分の心配をした方がいいんじゃねーか?」
二人がオルトの指示を受けて殴りかかってくる。
オルトは用心棒のことを信用しているのか、嘲るような態度で櫓を見ている。
「放電!」
その場から一歩も動かず、櫓はオルトを掴んだまま雷帝のスキルにより男二人に雷を飛ばす。
「あががががががが!?」
「ぐおおおおおおお!?」
二人は櫓の雷を浴びて、悲鳴を上げそのまま床に倒れる。
二人とも気絶してしまったため倒れたまま動かない。
「な、何が起こった。」
突然のことにオルトも同様している。
戦闘を生業としているわけでもないオルトにとっては少し光ったくらいにしか見えていなかった。
「さて邪魔者もいなくなったしギルドに行くか。」
「ふ、ふざけるな、離せ。」
往生際悪く急に暴れ始める。
用心棒があっさり倒されたことにより、先ほどまでの余裕の態度が無くなっている。
「騒ぐな喧しい。」
「ぐはっ!」
空いている左手で触れ軽く電気を流してやると、オルトは気絶して動かなくなる。
気絶したのを確認して肩に担ぐ。
「ネオンお前はここで子供達と待っててくれ、直ぐ戻る。」
「わかりました櫓様。」
櫓はそのまま近くのギルドに向かう。
オルトを担いだまま受付に行くと、受付嬢や周りの冒険者から注目を浴びてしまう。
オルトはギルドの近くに店を構えているだけあって、知っている人も多いようだ。
いつまでも注目されていたくはないので、ギルドカードを出して、受付嬢に魔法道具を貸してくれないかと一連の流れを説明する。
説明を聞いて驚いた受付嬢は、上司に確認をとってくると奥に消えた。
過去を見る魔法道具は、使い方によってはかなり危険な物であるため、悪用されないようにギルドでの管理が徹底されている。
依頼の正確性を調べる以外でギルドでは使う事がほとんどない為、受付嬢の判断だけでは使ってよいかわからなかったようだ。
少しすると上司を連れて受付嬢が戻ってきて、オルトに対して魔法道具を使って調べてくれた。
当然の如くオルトは黒で、魔法道具により子供達に呪いをかけていた。
呪いの内容は以下の三つである。
・この呪いについて話さないこと。
・主が寝静まってから殺すこと。
・金目のものを持って店に戻ってくること。
解除方法は同じ魔法道具でできると言うことなので、特徴を教えてもらい後で探して解呪することにする。
オルトは魔法道具で調べられ、しばらくしてから目を覚まし、ちょうどギルドの人が連絡していた警備隊がギルドに到着した。
自分の現状を理解して、絶望の表情を浮かべたまま警備隊に連行されていく。
ギルドの人曰く、店は潰され奴隷や貴重品は冒険者ギルドと関係が深い近くの奴隷商店に移されるらしい。
そして普通は奴隷の首輪をしているので、奴隷が主人を害しようとすると首輪が締まり苦痛を与え死に至らしめるので、あり得ないことだが今回の様な奴隷が主人を殺す事が過去にも何回か起こっていたと言う話をされた。
いずれも事件を起こしたのは、オルトの店の奴隷だったらしい。
しかし特に証拠も無いのでオルトに責任追及はされなかった。
ギルドの人によると呪いで主人を手にかけた奴隷は首輪により死ぬが、他の奴隷は首輪によるダメージがないので、別の呪いの効果によって金目のものを生き残りに持ち帰らせ、私腹を肥やしていたのではないかと言われた。
なので今回櫓の活躍で首謀者を捕まえられる事ができたと大いに感謝され、お礼に店に移す前なのでオルトの店の奴隷を何人でも追加で連れて行っても構わないと言われた。
断ろうかと思ったが、子供の奴隷ばかりでは自分達の負担も多くなってしまうだろうと思い、もらう事にした。
オルトの店に戻り成り行きをネオンに説明してから、魔法道具を見つけ子供達の解呪をしていく。
その後は店の奥に行き、牢屋の中にいる奴隷達に調査の魔眼を使い犯罪奴隷ではない者を選んでいく。
空いた牢屋には突っかかってきた用心棒の犯罪奴隷をぶち込んでおく。
オルトの店は男女共に若い奴隷しかいなく、一番歳がいってても二十五歳であった。
男二人と女八人の合計十人の奴隷を選び、受付嬢の案内でギルドと関係のある奴隷商店に移動し、奴隷契約を結んでもらう。
合計四十人の奴隷を連れて予め買っておいた拠点に向けて帰ることにする。
ちょっとした集団なので道行く人は奴隷の多さに何事かと櫓達に注目していた。
「なんか奴隷商人みたいで嫌だな。」
「何も知らない人から見たらそう見えるかもしれませんね。」
ネオンにクスクスと笑われた。
近くにいた女性の奴隷が、奴隷であるネオンが主人である櫓と親しげに接しているのを見て心底驚いていて、その顔を見て二人で笑ってしまった。
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