339話 惹かれる馬車内
櫓達以外の者達には同行者が増える事を簡単に説明して、二人を早々に馬車の中に入れる。
ルリーフの錯覚のスキルによって、エルフの特徴的な耳が人間の様に見えてはいるが、視覚を騙しているだけなので触れられれば違和感を感じられてしまう。
城塞都市ロジックに到着するまでの付き合いなので、なるべく接触は少なくしようという事になった。
「な、なによこれ!?本当に馬車の中なの!?」
「うわあ!見た事の無い物ばかりです!」
馬車の中に入った二人は驚き声を上げている。
外見からは想像出来無い程に馬車の中は広い。
そして此方の世界には存在しない様々な家電や遊具が、錬金術の名人のスキルによって作られ配置されている。
王侯貴族が使う様な高級宿の一室と言われても納得出来る様な場所である。
「暫くは馬車内で生活するだろうし、色々使い方を覚えておいた方がいい。俺は飯を作るから誰か教えてやってくれ。」
そう言って櫓はキッチンに向かう。
二人の歓迎会的な意味も込めて、少し豪勢な晩御飯を作ろうかと考えている。
後ろでは馬車の中にある家電製品改め魔力製品や遊具についてのレクチャーが行われている。
フレアーナは驚きつつもしっかりと理解しているか怪しい様子だが、ルリーフは真剣に話しを聞いている。
物珍しさもあって商人の血が騒いでいるのかもしれない。
「ねえねえ、この筒は何?」
フレアーナが魔力タンクを指差して尋ねる。
馬車内にある魔力製品や馬車に対する攻撃への自動障壁機能等に使われる魔力を全て保管している心臓部だ。
隣りには空箱と人の手形が描かれている。
空箱には魔石や魔力玉、手形には手を重ねると魔力タンクへの魔力を補充出来る。
「魔力タンクと言って、馬車の中にある物に魔力を送っている装置です。たまに確認して魔力が無くなってないか確認しないといけません。」
魔力タンクにある魔力が無くなれば、馬車内にある全ての魔法道具は機能しなくなる。
定期的に補充や確認をする必要があるのだ。
「ふーん。ゲージが蓄えられている魔力の量って事?」
「そうです。現在は全体の二割ほどなので、八割は追加で蓄えられる事になりますね。」
魔力タンクの筒にはメモリが振られており、二十のメモリ付近までゲージがある。
「だったら任せなさい。精霊の魔力量は凄いんだから。」
フレアーナは自信満々に手形に手を重ねる。
そして膨大な魔力を注ぎ込んでいくと、魔力タンクのゲージが上昇する。
「おお!流石ですね。」
「・・・どんだけ魔力を蓄えられるのよ。かなり消費したのにやっと半分って。」
ネオンは誉めているがフレアーナは不満げである。
魔力切れとまではいかないが、既に人間で言う数人分の魔力を注ぎ込んでいる。
まさかこれ程蓄えられるとは思わなかった様だ。
魔力は幾らでも必要となるので、旅立つ前よりも櫓が大量に蓄えられる様に改造していた。
「魔力は常に使いますから、大量に蓄えられる様にと櫓様が。フレアーナ様のお陰で随分と溜まりましたし、残りはミズナ様に・・。」
「はあ?こんなの私一人で余裕に決まってんでしょ!水の精霊の力なんて必要無いわよ!」
普段から魔力量の多いミズナが補充する事が多いので、いつも通り任せようと思ったが、フレアーナが食い気味にネオンの意見を否定する。
ミズナと仲が悪い訳では無さそうなので、負けず嫌いな性格といったところだろう。
フレアーナは再び魔力をガンガン流し込んでいく。
「あの、あまり無理をされない方が。」
ネオンの静止の声も届かず、結局フレアーナは魔力タンクのゲージを最大にした。
流石は精霊と言うだけあって、信じられない魔力量である。
だが相当無理をした結果、魔力切れになり目を回して倒れてしまった。
ネオンがソファーベッドに運び、寝かせてあげている。
「なんと言っても最大の魅力はお風呂ですわ。王侯貴族が使用する物と比べると少し手狭ですが、機能性が段違いなのです。そして毎日いつでも入浴可能なのも素晴らしい点ですわね。」
「成る程、素晴らしいですね。」
ルリーフの方ではシルヴィーがお風呂について熱く語っている。
櫓が作ったお風呂を最も気に入り利用しているので、幾らでも語れそうである。
「水浴びが一般的なエルフに馴染みは無いが、慣れれば良いものだ。」
リュンもシルヴィーに続く。
エルフどころか人間達でも基本的には水浴びで身体を清めている。
お湯は火起こしや炎魔法を使って水を温めて作る必要があり、魔法だと加減も難しく中々簡単に用意出来無いのだ。
しかしボタン一つで温度の調整やお湯と水を切り替えれるシャワー等があるので、リュンもすっかり慣れてしまった。
「是非後で入らせてほしいです!」
「それでしたら一緒に如何ですか?使い方も教えて差し上げますわ。」
ルリーフも興味津々の様でシルヴィーが誘っている。
普通貴族は広い風呂に一人で入るが、シルヴィーは全く気にしていない。
複数人同時に入れるくらいには広いので、何人か纏めて入る事が多い。
「え?でも私は。」
誘われたルリーフは少し戸惑っている。
そして隣りに居るリュンは溜め息を吐く。
「シルヴィーよ、気付いていない様だがルリーフは男だぞ。」
同じエルフだから分かったのか、リュン以外誰も気が付いていなかったが、小柄な女の子だと思っていたルリーフは男の子だった。
前にもリュンの性別を誰も分かっていなかった事があり、全員心の中でエルフの性別が分かりづら過ぎると激しく思っていた。
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