336話 一難去ってなんとやら
依頼主であるルリーフとフレアーナに逃げられてしまったので、依頼は失敗となるだろう。
あの様子では探し出したとしても話しを聴いてもらえるとは思えない。
(ロジックで状況説明でいいか。行き先が同じなら、途中で出会う可能性もあるし。)
依頼が復活する可能性も全く無いとは限らないと自分に言い聞かせて、魔法都市マギカルでの報告は辞めておく。
あれだけ頼まれて引き受けたのに、出発する前に失敗したとあっては何を言われるか分からない。
櫓は旅に必要な物資の最終調達をしてから、魔法都市マギカルの外にある馬車に向かった。
明日出発と言う事は全体に伝えてあるので、ダンジョンに潜ったり少し遠出していた者達も集まってきている。
「お帰りなさい櫓様。」
櫓に気が付いたネオンが小走りで近付いてくる。
「ん?ネオンだけか?」
予想していたより人の数が少ない。
シルヴィー達や騎馬隊の面々等の戦闘員達が軒並み出払っている様だ。
「はい、森の方に魔物を確認したので安全確保の為に討伐に行ってます。」
此処には大量の馬車が止められている。
そして非戦闘員の子供や獣人、馬車を引く馬達も居るので、近くに魔物を寄せ付けるのは危険なのだ。
万が一を考慮して人を残す決まりになっているので、ネオンが残ってくれているのだろう。
「そうか、時間が掛かりそうなら俺も行くぞ?」
明日からまた移動の日々が続くので、疲れを残してほしくはない。
「弱い部類の魔物ばかりでしたから大丈夫だと思いますよ。」
Aランク冒険者並の実力者が何人もいれば、大抵の魔物に苦戦する事は無いだろう。
危険であれば知らせる手段も幾つかある。
「なら、時間もあるし料理でもして暇潰ししておくか。」
櫓は暇さえあればボックスリングの中に料理のストックを作っている。
中は時間が止まっているのでいつでも作り立てで取り出す事が出来る。
そして櫓の作る料理は、此方の世界には無いものばかりなので、皆新鮮で美味しく感じるものばかりで大人気だ。
幾ら作っても足りないので困ってはいるが、趣味の一つであるのと美味しく食べてくれているので、作りがいはあるのだ。
「あ、時間があるなら少しいいですか?」
「なんだ?」
「実は先程頼み事をされまして。馬車代は払うので乗せてもらえないかと言われたんです。」
個人で馬車を所有しているとなると身分の高い貴族等が多いので、そう言った者達はあまり無い事だが、馬車を使って運送業をしている者は、頻繁に経験する事ではある。
自分達の乗っていた馬車が壊れてしまったり、徒歩だったが病気になってしまって急いで街に向かいたい等、旅の途中のアクシデントは様々で馬車を急に必要とする時は沢山ある。
「まあ、空きは少しならあるしな。」
少しでも窮屈にならず快適に旅を出来る様に、馬車の台数は増やしおり余裕がある。
なので数人程度であれば問題無く乗せられる。
「一応櫓様の許可を得てからでないとと思って、こっちで待ってもらってはいます。」
ネオンに従って乗車希望の者が待つ方に進む。
馬車の影に隠れていて櫓は見えていないが、前を進むネオンの姿を確認した乗車希望者の声が先に聞こえてきた。
しかも櫓は既に先程声の主と出会っていた。
「遅い!いつまで待たせるつもりよ!って、あああ!」
「あ。」
フレアーナはネオンの後ろを歩く櫓を確認すると、大声を出しながら指を差している。
ルリーフは櫓の姿を見て顔を強張らせている。
櫓もまさかこんなに早く再開するとは思っておらず、間の抜けた声が漏れる。
「くっ、此処まで追ってくるなんて!」
フレアーナは炎帝のスキルで瞬時に火球を作り出す。
「え?え?どどど、どう言う事ですか!?」
突然戦闘態勢に入ってしまい、ネオンは困惑している。
先程までの一件を知らないので仕方無いだろう。
「お、落ち着け!追ってきた訳じゃ無い!」
櫓は今にも攻撃してきそうなフレアーナに向けて言う。
炎帝のスキルの威力は身を持って体験したのでよく知っている。
こんなところで放たれたら、馬も馬車も大被害を受けてしまい、出発どころでは無くなってしまう。
「信じられないって言ってるでしょう!」
やはり櫓の言葉はフレアーナに届かない。
フレアーナは火球を櫓目掛けて放とうとし、被害を少しでも抑える為にも櫓は攻撃をぶつけて相殺する事にした。
雷帝のスキルで雷を腕に纏わせる。
しかし次の瞬間には櫓が雷を放つ必要は無くなった。
突如フレアーナの頭上だけに滝の様に水が降ってきたのだ。
水はフレアーナの前身をびっしょりと濡らし、火球を鎮火させた。
「だ、誰よいきなり!」
フレアーナはポタポタと水を滴らせながら叫んでいる。
馬や馬車の被害を無くした最高のタイミングでの水だったが、フレアーナの怒りは更に増してしまった様だ。
櫓とネオンは既に誰だか分かっており、フレアーナをずぶ濡れにした張本人であるミズナが、馬車の中から歩み出てきた。
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