335話 失言からの怒り
名前 ルリーフ・リーフェル
種族 エルフ
年齢 百十九歳
スキル 錯覚 弓術師
状態 平常
名前 フレアーナ
種族 精霊
年齢 三百五十八歳
スキル 炎帝 威圧 身体強化
状態 平常
目の前を歩いている二人の情報が視えた。
驚く事に二人は人間ではなかった。
「エルフと精霊。」
そして櫓は思わず呟いてしまう。
大きな声で発した訳では無いが、距離が近かったので二人に聴こえてしまった。
櫓の言葉を聞いたフレアーナの反応は早かった。
ビクリと身体を震わせたルリーフと違い、振り向きながら拳に炎を纏わせて殴り掛かってくる。
「ルリーフ走って!私が時間を稼ぐ!」
「お、おい、ちょっと待て!」
攻撃を回避しながら言うが止まる様子は無い。
死ぬ程の威力では無いが、櫓でも当たれば無事では済まないレベルである。
直接攻撃を受けていないのに、熱気で肌が焼けそうな火力だ。
櫓やミズナと同等のスキルを持っているだけはあり、ネオンの狐火のスキルを完全に上回っている。
「黙りなさい!もう話す事は無いわ!」
フレアーナは櫓に怪我をさせて、動けなくなった隙に去るつもりである。
櫓の実力が高いと事前に聞いていたので、最初から手を抜いている様子は無い。
最初は普通の喧嘩かと辺りに野次馬が集まってきていたが、フレアーナの全力の攻撃を見て、巻き込まれてしまうと逃げ惑っている。
(軽率な発言だった。驚いて思わず声に出てたか。)
櫓も声に出した事を反省する。
他人の情報を視るのは普段通りなので気にしていないが、言った内容がまずかった。
ルリーフとフレアーナは種族を隠して人間の街での生活を送っている筈である。
その証拠にルリーフの耳は人間のものと同じだ。
スキルの錯覚によってそう見えているのだろう。
櫓の仲間にも居るが、エルフや精霊はとても珍しく、容姿が優れている種族である。
故に人間がその正体に気付いてしまえば、どんな手を使っても自分のものにしたいと考える者が幾らでも現れる。
なので人間である櫓に正体を知られてしまったフレアーナの反応は正しいとさえ言えるのだ。
「フレアーナ様、私も・・。」
「此奴は強い、ルリーフの実力だと足手纏いよ。捕まる前に走りなさい!」
一瞬加勢しようと弓を取り出したルリーフにフレアーナが言う。
厳しい言葉に聞こえるが、ルリーフも戦力差は理解しているのか、食い下がらずに走り出した。
「お前らの正体が分かっても捕まえるつもりは無い。」
「人間の言葉なんて信じられないわ!」
過去だけで無く現在進行形で人間によるエルフ狩りは行われている。
違法的な行為で奴隷を作り上げるのは禁止されているのだが、エルフの奴隷は一攫千金にもなるので、手を出す輩は後を絶たない。
フレアーナもその事を理解しているので、櫓と言うよりは人間を信じられないのだろう。
「此れを見ろ、精霊の腕輪だ。俺も精霊と契約しているんだ。」
櫓は攻撃を回避しつつ左腕の腕輪を見せる。
ミズナと出会った時に契約の証として貰った物だ。
精霊と契約していると分かれば、少しは話しを聞いてくれるのではないかと櫓は思った。
「嘘ならもっとまともな嘘を付くのね。」
しかしフレアーナは腕輪を見ても反応が薄い。
思い返せば走り去ったルリーフは腕輪らしき物を付けていなかった。
精霊によって渡す物の種類が違ったりするのかもしれない。
だとすれば普通の装飾品程度にしか見えていない可能性もある。
(何を言っても無駄か。攻撃を避けるのは問題無さそうだが、時間を掛ければ周りに被害が出る可能性もあるな。)
櫓とフレアーナが戦っている場所は街のど真ん中である。
通行人が逃げて人が居らず、道が広い作りになっているので、今のところ被害は無い。
しかしフレアーナの攻撃は次第に激しくなってきているので、時間の問題とも言える。
(仕方無い、俺の責任でもあるしやられるしかないか。)
元々櫓が口に出していなければ起こっていなかった事だ。
殺すまではしてこないだろうと判断し、多少の痛みは我慢して攻撃を受ける事にした。
櫓が攻撃を受けて動けなくなれば、逃げる時間を稼げるだろう。
「はあっ!」
フレアーナの炎を纏った拳が目の前に迫る。
櫓は身体の前で魔装した腕をクロスさせてガードする。
直後腕に強烈な重みと熱が加わり、櫓は吹き飛ばされる。
一件の家の石塀に叩きつけられ破壊して止まる。
「Aランクならこの程度大した事無いわよね!」
櫓はこれで終わるだろうと思っていたが、フレアーナは掌に野球ボール程の大きさの火球を作り出して放ってきた。
(おいおい、マジかよ。)
雷帝のスキルを使えば回避する事も出来るが、それでは再び戦いが始まってしまう。
櫓は諦めつつ身体全体を魔装して耐える事にした。
火球は着弾すると共に櫓と石塀を炎で包み込む。
流石に長い時間受けているのは辛いので早々に脱出したが、既にフレアーナの姿は無かった。
「はぁ〜、自分の所為だが酷い目にあった。」
魔装していたので軽い火傷で済んだが、かなり魔力を消費させられた。
旅をする前であれば殺されていてもおかしくはなかっただろう。
櫓はポーションを飲んで火傷と魔力を回復させて、ボックスリングから取り出した大量の水で炎を鎮火させる。
その後家の主人に弁償と迷惑料を払い、その場を後にした。
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