334話 依頼破棄の危機
「信用出来無いなら、他を当たってくれても・・。」
「待って下さい櫓さん。」
櫓が断ろうと喋っていると、受付嬢が遮る様に言葉を被せて、二人から少し離れた場所に櫓を連れて行く。
後ろではフレアーナが「何してるのよ!」と文句を言っているのが聴こえてくる。
「なんだ?」
「断ろうとしましたよね?お願いですから依頼を受けて下さいませんか?」
受付嬢は小声で頼み込んでくる。
「随分と必死そうだな。」
依頼は途中で放棄すると冒険者に罰則が与えられるが、受ける前であれば何も問題は無い。
実際に依頼主と話して、依頼書と意見が食い違っている場合等もあるからだ。
なので櫓は断る事も出来る。
「今のやり取りで想像出来ると思いますが、フレアーナさんの態度を見て依頼を断る方が続出しまして、櫓さんしか残されていないのです。」
受付嬢は言いにくそうに説明する。
初対面の櫓に対しても依頼主とは言え失礼な態度であったとは思っていた。
子供のする事だからと目を瞑っていたが、この性格では気持ちよく依頼を受けてくれる人は殆どいないだろう。
「そう言われてもな。俺もトラブルは御免だ。」
ルリーフはともかくフレアーナは問題を起こす気がしてならない。
櫓達は大所帯での移動なので、何か問題が起これば出発にかなり手間取ってしまう。
早く城塞都市ロジックにある拠点に着きたい櫓としては、遠慮したい依頼なのだ。
「多少の事であれば冒険者ギルドとしては目を瞑ります。もう依頼破棄寸前なんです。」
依頼破棄と言うのは、依頼ボードに貼られている依頼書を受ける者が全くおらず、日数が経過してしまった物を取り下げる行為である。
冒険者ギルドとしては依頼主から苦情がきたり、収入が減る事になるので阻止したい事なのだ。
「はぁ〜、仕方ない。だが場合によっては、縛って強制連行と言う可能性もあるぞ。」
トラブルを起こし過ぎて手に負えないとなれば、動きを封じて連れて行くしかなくなる。
依頼主なので手荒な事はしたくないが、我慢の限界を迎えたら納車するつもりはない。
「分かりました。向こうの冒険者ギルドには連絡しておきますから、良い対応をしてくれると思います。」
冒険者ギルド間では魔法道具による通信手段があるので、城塞都市ロジックの冒険者ギルドとのやり取りも可能である。
依頼主から苦情が出たとしても、お咎めは少なくてすみそうだ。
「何をこそこそと話してたのよ!」
二人の下に戻るとフレアーナが聞いてくる。
「お二人をよろしくお願いしますと頼み込んでいたのですよ。」
「一応Aランクの仲間もいるし、戦力的には問題無いと思うぞ。」
一先ず実力の高さをアピールして、納得してもらう事にする。
シルヴィーは既にAランク冒険者なので、フレアーナの言う条件には当て嵌まっている。
それにシルヴィー以外にもAランク級の実力者は複数人居るので、戦力面での心配は必要無い。
「フレアーナ様、此方の方に頼みましょう。いつまでも滞在しているだけの予算はありません。」
ルリーフは受付嬢に信用出来ると言われたので、一応認めてくれている様だ。
そして手持ちのお金も心許無い様子である。
「ルリーフの頼みだし仕方ないわね。せいぜい壁となって私達を守りなさいよね!」
フレアーナはそう言い放ちながら櫓を指差す。
少しイラッとして青筋が立ちそうになった櫓だが、隣りに居る受付嬢が小声で「ここは堪えて、落ち着いて下さい。」と言ってくれたので、気持ちが少し和らぐ。
「では契約成立ですね。依頼書の方は此方で処理しておきます。」
受付嬢は面倒事が一つ解決したので、ご機嫌で受付に戻っていった。
櫓達も冒険者ギルドでの用は済んだので外に出る。
「これからどうするんだ?」
依頼主の行動を把握する為に尋ねる。
直ぐに準備が終わるならば、馬車の方に案内してもいい。
「私達は荷物の整理があるわ。ルリーフ、明日街の外で待ち合わせにする?」
「う、うん。それでいいと思う。あの、依頼を受けて頂き有り難う御座います。」
ルリーフが緊張した様子で言う。
中々受けてもらえなかったので、それなりに感謝している様だ。
「気にするな。俺も向かう先は同じだったんだし。」
「何かロジックに予定があるんですか?」
「拠点を構えていて久々に帰るところだ。仲間達も早く拠点に居る者達に会いたがっている。」
城塞都市ロジックの拠点を出発した時には、街で買った奴隷や傭兵団達に商会を任せて出てきた。
そして旅の最中にも何度か人材を送っている。
そう言った者達と会うのも久しぶりなので、主にネオンが早く会いたがっているのだ。
「私達も早くロジックに着きたいから、安全に急いで移動してよね!戦闘なら少しは手を貸してあげるわ。」
フレアーナは戦闘に多少なりとも自信があるらしい。
Cランクとなれば充分な戦力に数えられるので、強気な発言であっても否定は出来無い。
(何か良いスキルでも持っているのか?)
櫓は興味本位で神眼のスキルを発動させて、調査の魔眼を選択して二人を視た。
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