330話 救済の音色
オークション会場の出入り口から現れたのはミズナとリュンである。
魔人の触手に絞め殺される前に助けてもらう事が出来た。
二人がオークション会場に現れたのは偶然では無い。
櫓が呪いで動けなくなった時に、このままではまずいと思い、精霊の腕輪を使ってミズナに救援要請をしたのだ。
離れた距離であっても、精霊の腕輪を付けている事で、契約した精霊と軽い意思疎通を図る事が出来る。
近くに一緒に居たのか、リュンと一緒に来てくれたのも有り難い。
「ふむ、援軍とは予想外ですね。オークション会場への介入が無くなる様に、魔物や魔人を街へと仕向けたのですが。」
黒尽くめの男は自分が楽にSランクの魔石を回収する為に、同時刻に魔法都市マギカルに攻撃が仕掛けられる様に仕組んでいた。
魔物だけでは無く魔人も含まれているので、対処には時間が掛かり、オークション会場の異変に気付くのは遅れる予定だったのだ。
「頼れる仲間が対応している。なので私達は此方を任された訳だ。」
此処に居ないと言う事は、シルヴィーや小太郎が外に残っている。
そして奴隷達や獣人達も移動中の戦闘訓練で実力を伸ばしてきているので、外の敵は任せても問題無さそうである。
「どうやって異変に気付いたかは分かりませんが、目的は果たしましたので私はこれにて。」
「逃すか!」
リュンが白銀の剣に魔力を注ぎ、光りの剣を無数に生み出す。
そして一斉に黒尽くめの男に向けて発射させる。
「頼みましたよ。」
魔人改が声に反応して黒い煙を吹き出す。
黒い煙は触れた物をジュージューと音を立てて溶かしていき、光りの剣も触れた側から掻き消されてしまった。
黒尽くめの男は隙を見て出口とは反対側へ走ると同時に、黒い色をした小さな球を複数投げた。
(ミズナ、球を破損させないでくれ!)
櫓は前回も見たので小さな球の中に呪いが封じられているのを知っている。
割れると同時に呪いを齎す煙が出てくるのだ。
櫓が精霊の腕輪を通してミズナに頼んだので、水球を幾つか作り出して小さな球を受け止めてくれた。
しかし時間稼ぎには成功されてしまい、魔人改の触手が一緒に伸びていき、黒尽くめの男の進行方向にある壁を粉砕して、外への道を作られてしまった。
ミズナやリュンが逃さない為に追撃を仕掛け様とするが、魔人改が更に大量に生み出した触手に阻まれてしまい、壊れた壁からの脱出を許してしまった。
「触手を相手にしていてはキリが無いか。ミズナ様、少し任せても宜しいですか?」
光りの剣で幾ら切断しても触手は次々と生え伸びてくる。
相手にしている間にも呪いによって会場の者達が苦しんでいるので、人命を優先する。
「任せる・・・。」
ミズナは水帝のスキルで生み出した水を使い魔人改に攻撃を仕掛ける。
触手の数はかなり多いが、ミズナも水を分散させて手数で対抗して抑えている。
「櫓、万能薬を出せ。」
魔人改の意識がミズナに向いているうちに素早く櫓に近付いたリュンが言う。
万能薬はポーションの最上級にあたり、解呪の効果もある。
振り掛ければ直ぐに櫓に掛かった呪いを消し去る事が出来る。
しかし櫓はボックスリングから万能薬では無く、手持ちサイズのベルを取り出した。
「何だこれは。鳴らせばいいのか?」
「あぁ。」
櫓は呪いの効果で体力を削られており、絞り出す様な声で言う。
ベルの用途をリュンは理解していないが、言われた通りに振る。
すると心地良い音がオークション会場に響く。
調査の魔眼を使える者が見ていれば効果を実感出来るが、ベルが一鳴りする毎に皆の呪いが一つずつ消えていた。
此方の世界に来てから呪いと言う現象を度々見てきていたが、今まで呪いに対抗する手段が万能薬しかなかった。
しかし万能薬は貴重品なので、消費しないタイプの解呪用魔法道具を開発していた。
そうして出来上がったのが此のベルである。
解呪のベルと言って、音の聞こえる範囲に居る全ての者に掛かっている呪いを、鳴らす度にランダムに一つ消し去る効果を持つ。
作る為の素材として、万能薬にも使われている世界樹の素材を必要としたが、今後重宝する事は間違い無いので作っておいたのだ。
「ふぅ、今回は死ぬかと思ったぞ。」
呪いが消えて身体を動かせる様になった。
失った魔力や体力をポーションを飲んで回復する。
「大丈夫そうだな。」
「あと少しで危うかったけどな。」
櫓とリュンは呪いで倒れていた者達にポーションを使っていく。
ミズナの助太刀をした方がいいかと思ったが、苦戦どころか善戦しているので任せても大丈夫そうだ。
魔人も強化されているが、ミズナも旅を経て着実に強くなっている。
「これで全員だな。」
最後の一人にポーションを使い終えて、回復作業が終わる。
幸い呪いで倒れていただけで、死者は一人もいなかった。
「天剣一式・睦月・・・!」
振り下ろされた剣で魔人の身体が真っ二つに斬り裂かれた。
それでも魔人は死んでおらず、斬り口から再生しようとしていたが、回復したネオンによって丸ごと焼かれて跡形も無く消え去った。
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