328話 傾向と対策
「なっ!?」
姿を魔法道具か何かで偽装していたのか、二度も櫓は出会っているのに気が付くのが遅れた。
呪いによって滅ぼされた村、ティアーナの森の二箇所で出会った、呪いを主体に戦う魔王信者の黒尽くめの男である。
「ご主人様、倒しても問題はありませんか?」
カナタが櫓の反応と用心棒を倒した状況から尋ねてきた。
カナタが出会うのは初めてだが、放置するのは危険だと瞬時に理解した様だ。
「ああ、奴は呪いを封じ込めた球を投げて攻撃してくる。当たらない様に気を付けろよ。」
そう言って櫓はボックスリングからミスリルの刀を取り出す。
カナタも背負っていた長槍を構えている。
オークション会場での戦闘行為は原則的には禁止されているが、緊急事態なので問題は無いだろう。
黒尽くめに近い席の護衛達も主人を守ろうと武器を構えている。
「やれやれ、脳筋な護衛は浅慮で嫌ですね。」
黒尽くめの男は辺りを見回して言う。
周囲を囲まれている様な状況でも余裕そうである。
「行くぞカナタ!」
ネオンも戦おうと剣を抜こうとしている様だが、体調が悪い状態で参加されても足手纏いになる。
「はっ!」
櫓は黒尽くめの男の厄介さを知っているので、被害が出る前に倒してしまおうと考えた。
当然強い事は知っているが、Aランク冒険者級の実力を持つカナタと二人で戦えば、負ける事は無いだろうと言えた。
隣りに居るカナタが主人である櫓よりも先行しようと駆け出す。
しかし数歩進んで躓いた様に床に倒れた。
こんな時に何をしているのかと櫓は思ったが、数歩進むと自分もカナタと同じ様に床に倒れた。
身体に力が入らず動かす事が出来無い。
(なんだ!?何が起こった!?)
突然身体が言う事を聞かなくなり困惑する。
周りでは同じく床に人の倒れる音が鳴っている。
「ふっふっふ、野蛮な者達が大勢居るというのに、対策も無く現れる訳は無いでしょう?」
黒尽くめの男が愉快そうに笑って言う。
気付かないうちに何かしらの攻撃を受けてしまった様だ。
しかし攻撃方法は分かっているので、十中八九呪いによるものだろうと調査の魔眼でカナタを視る。
名前 カナタ
種族 獣人
年齢 十八歳
スキル 槍術士 身体強化 全攻撃耐性Lv一
状態 奴隷(主人 東城 櫓)呪い(束縛 鈍重 受毒)
思った通り呪いに掛かっていた。
カナタも動く事は出来ず、毒の影響で吐血している。
自分自身も呪いを受けており、受毒は無かったが束縛と鈍重の他に弱体と疲弊の呪いが掛けられていた。
(いつの間に!?相当まずいな。)
スキルに関しては使う事が出来そうだが、周囲には人が多く自分も倒れた状態なので、リスクがあって使うのは厳しそうだ。
万能薬を使えば呪いを簡単に消し去る事は出来るが、ボックスリングから出しても身体が動かないのでは使えない。
辛うじて動けるのはネオンだけだが、回復の隙を与えてくれる程甘い相手では無い。
「貴方方が参加するのは知っていましたからね。邪魔をされるのも困るので準備しておいて正解でした。」
黒尽くめの男が櫓の方を一瞥して言う。
此方とは違って櫓達の存在に気が付いていた様である。
流石に二回も戦ったので、警戒されていた様だ。
「はぁはぁ、櫓様達に、手出しは、させません。」
ネオンがふらふらの状態で剣を構えながら言う。
今にも倒れてしまいそうだ。
「おやおや、体調が悪そうですよ?熱があるのですから大人しくしている事です。」
櫓はまさかと思いネオンの事を調査の魔眼で視てみると、疲労と高熱の呪いに掛かっていた。
櫓達がオークションをしていた時には既に呪いに掛かっていたのだ。
「これくらいで、へばりません。」
息も絶え絶えに言っているが、立っているだけでも限界なのは声を聞くだけで分かる。
「大した気力ですね、体温は四十度を超えていますのに。ですがご安心を。今回は戦いが目的ではありませんから。」
黒尽くめの男がそう言って向かうのはステージだ。
皆様々な呪いに掛かっており、誰も行く手を阻む事は出来無い。
櫓は一先ず自分に注意が向いていないうちに、呪いを掛けてきた方法を探す。
(ネオンがいつ呪いに掛かったかは分からないが、俺とカナタは直近の筈だ。)
武器を構えるところまでに違和感は無かった。
なので黒尽くめに一定距離近付くと発動するか、設置型の罠の範囲に入ったかと言ったところだろう。
動かない身体に力を入れてなんとか首だけを動かす。
調査の魔眼で視回し、元凶を見つけた。
建物の天井に幾つも吊るされていた怪しげな光りを放つランプが原因だった。
周囲の者に設定された呪いを付加する効果があった。
高い場所にあるので、全く気が付かなかった。
「ふっふっふ、素晴らしい!これ程素晴らしい魔石を見たのは初めてですよ!」
櫓が原因を探しているうちに、ステージ上に登った黒尽くめの男は、Sランクの魔石を手にして興奮していた。
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