326話 女の戦い
「コール、金貨一枚!」
隣りに座るネオンが大きな声で言う。
魔法都市マギカルのオークションが始まり、ネオンお目当ての果実が出てきた。
「コール、金貨一枚と銀貨五枚ですわ!」
「コール、金貨一枚と銀貨十枚よ!」
ネオンの後に他の参加者も続く。
流石に美容に効果がある果実となると、女性参加者の入札が多い。
簡単に手に入れる事は出来無い様だ。
ちなみに櫓が調査の魔眼で果実を視たところ、本当に若返りの効果があった。
果実一つに対して一つ歳を若返らせる効果があり、大量に食せば寿命を伸ばす事も可能な様だ。
しかし貴重な物であれば、数は多く揃えられない。
今回のオークションに出品されている果実も一つだけなので、入札者達は必死である。
「カナタも何か欲しい物があれば言っていいぞ。」
櫓は隣りで立っているカナタに出品物のリストを見せながら言う。
座るスペースは余っているので、座らないのかと言ったら、此方の方が護衛の様で落ち着くとの事だった。
「宜しいのですか?櫓様もお目当ての物があるのでは?」
カナタ達にも金は配っているが、オークションに参加するには手持ち不足だろう。
日頃からよく働いてくれているので、ボーナスの様なものである。
こうでも言わないと、カナタは自分から言い出さないので、櫓からたまに聞く事にしているのだ。
「さっきまでの見てただろ?大金が入ってくるんだから気にするな。」
櫓が出品した物の半分程が既に落札されており、どれも中々の値が付いている。
オークションは稼ぎ時なので気合を入れてきたが、想像以上の収穫になりそうだ。
既に櫓が欲しかった物も幾らか落札している。
(やはり貴重な物が集まるオークションはいいな。欲しい物が見つかりやすい。)
壊れた転移の魔法道具を修復する為の貴重な素材が幾つか出品されていたので、全力で落札した。
これで一歩素材集めが進んだ。
「ではお言葉に甘えまして、此方の物を。」
カナタがリストの中で指差したのは長槍である。
ダンジョンから持ち出された物らしく、穂先はミスリルで出来ており、武器としての格は高い。
今カナタが使っている長槍は、年季が入ってきているので、そろそろ替え時と言える。
「良さそうな槍だな。」
「はい、使えるのが楽しみです。」
スキルの付加は無い様なので、カナタが使っていくうちに、何かしら物足りなく感じたら付加してやるのもいいだろう。
「それにしても今回のオークションは出品物が多くて困るな。」
出品される物が多くなれば、それだけ様々な物に目移りしてしまう。
市場では中々見る事の出来無い物が数多く出品されているのだから仕方無い。
しかし財力ならば、そこらの貴族にも引けを取らないので、狙った物は全て落札出来ている。
「他に何を落札されるのですか?」
「主に鑑定の恩恵の宝玉だな。それと素材や魔石も手に入れておきたい。」
鑑定のスキルが封印された恩恵の宝玉は、相変わらず足りていない。
オークションにも数多く出品されているので、根こそぎ落札していく。
そしてオークションでは定番の奴隷だが、今回は犯罪奴隷しか出品されていなかったのでスルーした。
同情して危険そうな者を招き入れた結果、仲間達に被害が出れば元も子もないのだ。
「魔石ですか。Aランクまでならば手に入る機会は少ないながらもありますからね。」
リストに堂々と書かれている魔石は普通の物とは違う。
「ああ、今回を逃したらいつになるか分からないしな。」
なんと魔石はSランクの魔物から取れた物だ。
質や大きさは最高クラスであり、魔法道具等の作成に用いれば、同じく最高の物が作れるだろう。
Sランクの魔物と言えば、櫓達も一度だけ戦った事がある。
圧倒的な強さを持っていたブラックドラゴンだ。
全力を出して挑んだものの倒すには至らなかった。
Sランクとはそう言った次元で、倒せる者となるとかなり限られてくる。
故に値段も市場では捌けない様な額になるのだ。
「使い道は既に決まっているのですか?」
櫓は錬金術の名人のスキルを所持しているので、物作りに関しては一流だ。
作れる物が多いだけに、使い道に迷うのではないかと思った。
「転移の魔法道具に使えば、性能が跳ね上がりそうだとは思っている。こう言った魔石は、便利だが効率が悪い道具に使う事で、デメリットを消してくれるからな。」
転移の魔法道具は、性能としては申し分無い程に便利である。
しかし改善したい点もあった。
それは使用した時に消費される大量の魔力に関してだ。
盗賊達の場合は魔力を封じた玉である魔力玉を用いて起動させていた様だが、一度に使われる魔力が櫓の魔力量よりも多かったりする。
毎回使う度にそれ程の魔力を準備するのは大変なので、良い魔石を使って改善したいと思っていたのだ。
「成る程、完成が楽しみですね。」
「ああ、俺達の移動手段に革命が起きるかもな。」
カナタと色々話していると、オークションの司会の声が響き渡る。
全く聞いていなかったが果実の落札が決定した様だ。
「ふっ、燃え尽きました。」
隣りに居たネオンの目にはキラリと光る雫が浮かび、がっくりと項垂れた。
櫓とカナタは全てを察して、優しく慰めるのだった。
閲覧ありがとうございます。
ブックマークやポイント評価よろしければお願いいたします。




