322話 思わぬ食い付き
急成長のスキル検証が終わり馬車を止めてある皆のところに戻ると小太郎に電気の補充を求められた。
櫓はいつも通りに蓄電させてやったが、終わった後は更に食事を求められる。
「昼食は食べましたのに、凄い食欲ですわね。」
シルヴィーは目の前で串焼きをバクバクと食べていく小太郎に驚いている。
櫓が恩恵の宝玉の鑑定作業をしている間に、小太郎はご飯を済ませていた。
スキル検証の直前にご飯を食べ終えたのだが、小太郎がこれ程の食欲を見せたのは初めての事だ。
「さっきの戦闘が関係しているんだろうな。未だ幼い小太郎は大量にエネルギーを消費するんだろう。」
急成長のスキルを使い成体の姿になった小太郎は、本来のAランクの魔物であるエレキウルフの力を使える。
しかしその力は、普段の小太郎とは比べ物にならないくらい強力なものばかりである。
なので比例して消費する魔力等も多くなってくる。
小太郎の食欲が凄まじいのと電気の補充を求めてきたのは、櫓との戦闘で蓄電していた電気を使い果たして、魔力も殆ど無くなってしまったからだった。
「そうなると負担にならない為にも多用は難しいですわね。」
九階層のスキルは、使用するとクールタイムが一時間発生する。
待てば再び使えるのだが、毎回戦うたびに小太郎の消費が激しくなってしまう。
「そうだな、使い所は考えるとしよう。」
「ただいま・・・。」
振り返るとミズナが立っていた。
魔法都市マギカルへの食べ歩きから帰ってきた様だ。
「ミズナ、帰ったか。口元にソースみたいなのが付いてるぞ。」
自分の口元を指差して場所を教えてやる。
ミズナは指で拭って美味しそうに舐めている。
美味しい料理を食べられた様だ。
「小太郎だけずるい・・・。」
「今まで食べてきたんじゃないのかよ。」
満足して帰ってきたのかと思えば、串焼きを食べている小太郎を見て文句を言ってきた。
本来精霊であるミズナは食べ物を必要としない。
一応魔力に変換出来るが効率は酷く悪いので、殆ど無制限に食べる事が出来る。
それでも食べたがるのは、単純に味を楽しんでいるのだ。
いつもの事なので新しくボックスリングから出した串焼きを数本渡してやる。
「そうだミズナ、恩恵の宝玉の中から良さそうなのが見つかったんだ。スキルを覚えてみないか?」
「どんなの・・・?」
串焼きを食べながらミズナが尋ねる。
多少なりとも興味はある様だ。
「聖獣召喚と言うスキルだ。精霊界と言う別世界から使い魔を・・。」
「ご主人それ渡す・・・!」
普段食べ物に最も執着するミズナが、串焼きを食べる手を止めて、櫓の言葉を遮る様に食い気味に言ってきた。
「うおっ!食い付きがいいな。元々渡そうとしてるんだから慌てるな。」
珍しい反応に櫓もシルヴィーも驚いてしまう。
「何かスキルについて知っていますの?」
「精霊界は故郷・・・。」
なんと精霊界はミズナの故郷だったらしい。
初めてミズナに出会った時に、女神カタリナに召喚されたと言っていたが、元々住んでいた場所が精霊界だった様だ。
「ミズナさんも精霊界から召喚されたんですの?」
精霊界は異世界なので、聖獣召喚の様なスキルで此方の世界に呼び出されたのかとシルヴィーは考えた。
「ノーコメント・・・。」
しかしシルヴィーの問いに対してミズナは黙秘した。
女神に召喚されたなどと言う訳にもいかないのだろう。
「と、取り敢えずスキルを覚えてみるか。本人も乗り気みたいだし。」
櫓は訝しんでいるシルヴィーを見て、話しを変えようと恩恵の宝玉を取り出す。
ミズナは一度恩恵の宝玉を使っているので、渡したら直ぐに魔力を流した。
「覚えた・・・。」
「早速使ってみるか?」
「その前に話す・・・。」
ミズナによると精霊界と此方の世界では、環境が少し違うらしい。
環境と言うのは空気中にある魔力の多さで、此方の世界は精霊界の半分にも満たないらしい。
なので精霊の様な精霊界でも上位の存在に害は無いが、聖獣の様な下位の存在は長く滞在出来無いと言う。
「成る程、召喚してある程度したら戻さなければならないのか。」
「魔力が無くなれば戻る・・・。」
精霊界と違って空気中からの魔力回復は効率が落ちるらしい。
魔力が無くなれば強制的に帰還となる。
「ふむ、ちなみに先程の食い付きはなんだったんだ?」
「呼びたい子がいる・・・。」
精霊界の知り合いを呼びたいらしい。
どうせなら知らない者よりも知っている者を呼びたいだろう。
「だが運任せなんだろ?」
スキルの説明には召喚者によって呼び出せるランクが変わると書いてある。
ランクは先程ミズナが話した上位や下位と言った事だろう。
しかしランクが定まっても、ランクの中から何が召喚されるかは分からないのだ。
「ずるする・・・。」
「ずる?」
「ご主人協力する・・・。」
何かミズナにはスキルの縛りを無くす抜け道が思い付いている様だった。
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