320話 カッコいい姿
櫓は恩恵の宝玉を全て鑑定し終えたが、他の者達の鑑定作業は続いているので、小太郎のスキル実験で邪魔をしない様に少し離れた森の中に移動してきた。
「これだけ離れれば大丈夫だろう。」
櫓は周りを軽く見渡して、人気が無い事を確認し、急成長が封じられている恩恵の宝玉を地面に置いた。
「小太郎、此の恩恵の宝玉に触れて魔力を流すのですわ。」
シルヴィーは抱き抱えていた小太郎を恩恵の宝玉の近くに下ろす。
小太郎は言われた通りに前足で恩恵の宝玉に触れ魔力を流した。
小太郎に魔力を注がれた事により、玉は割れて砕け散った。
そして玉の中にあった光りが、ふわふわと空を漂いながら小太郎に近付いていき、身体に溶け込んでいった。
「ワウ?」
これでいいのかと言った様子で小太郎が首を傾げている。
小太郎が仲間になってから恩恵の宝玉を使った事が無かったので、今回が初体験となる。
「大丈夫だ小太郎、ちゃんと新しくスキルが増えている。」
櫓は調査の魔眼で小太郎を視て、スキルの欄に新たに増えた急成長を確認した。
「新しいスキルがある事は分かりますの?」
「ワン!」
「なら、早速使ってみてくれ小太郎。」
櫓に言われて小太郎は新しく増えた急成長のスキルを使用した。
すると抱き抱えられる程小さかった小太郎の身体が段々と大きくなっていく。
更に身体の各部位も発達していき、単純に身体が大きくなっていくだけでは無い様だ。
「ワオーーーン!」
最終的に小太郎の姿は、魔物の図鑑で見たエレキウルフと同じ三メートル程までにもなった。
成長した姿から発せられる遠吠えは迫力がある。
可愛らしい見た目からカッコいい見た目に大きく変わった。
風に揺れる体毛を電気が駆け巡り、エレキウルフとしての存在を主張している。
口から覗く牙や四本の足に生えている爪は鋭く尖っており、剣の様に斬れ味が良さそうである。
「おおお!」
「立派ですわ小太郎!」
普段愛くるしい小太郎だが、スキルで成長した堂々たる見た目に思わず二人は感動する。
「ワオン!」
小太郎は褒められて嬉しいのか、普段と変わらず櫓に身体を寄せて戯れてくる。
身体が大きくなっても、中身は子供のままなのだ。
「うおっと!流石に重いな。」
身体が大きくなり体重も相当重くなっているが、櫓は難無く受け止める事が出来た。
流石は魔物と言うべきか、戯れているだけでも相当な力があり、鍛えていない者であれば押し潰されているかもしれない。
「急成長した小太郎でしたら、人が乗っても大丈夫そうですわね。」
「ワオン!」
小太郎が肯定する様に今度はシルヴィーに戯れ付こうとする。
しかしシルヴィーが応じる事は無く、軽い足取りで後ろに下がり小太郎を躱す。
「ワウ。」
小太郎はシルヴィーに避けられて悲しそうである。
出会ってから初めての経験だったからだ。
しかし当然の事ながらシルヴィーも小太郎の事を嫌がって躱した訳では無い。
成長した姿になったからか、普段とは違い小太郎の体毛は少量ながら電気を帯びているのが見て分かる。
雷帝のスキルを持つ櫓は、他者の雷系統によるスキルや魔法に対して耐性も持っている。
なので少量の電気程度ならば、何も感じないのだ。
「小太郎、抱き付くのは構わないですけど、電気は抑えてほしいですわ。私には耐性がありませんから、痺れてしまいます。」
Aランク冒険者の実力を持つシルヴィーであれば、少量の電気程度受けてもダメージは殆ど無い。
しかし身体が多少痺れたり、長い髪が電気でボサボサになったりと、受けないに越した事は無いのだ。
「ワオン!」
シルヴィーの意図を汲み取った小太郎は体表に流れる電気を抑えてから再び戯れ付いた。
「大きくなっても性格は変わりませんわね。」
シルヴィーは小太郎を撫でながら言う。
身体の大きさが変わっても、小太郎はいつもと変わらない様に、嬉しそうに撫でられている。
「だが明らかに戦闘能力は向上しているだろうな。近接戦闘も充分に出来そうだ。」
普段の姿では未発達である牙や爪が立派に生えている。
戦う時は選択肢が無いので、常にスキルを使う事しか出来なかった小太郎だったが、これで戦闘の幅も広がる。
「幾つか確認致しましょう。成長した小太郎がどれ程の強さなのか見てみたいですわ。」
予め小太郎の強さを把握しておかなければ、本番の強敵との戦いで連携等が難しくなってしまう。
特に櫓とはスキルの相性も良いので、完全に理解しておきたいところだ。
「スキルの性質上、成長していられるのは五分間だけだしな。早速試してみるか。」
スキンシップで幾らか時間を使ってしまったが、未だ数分の猶予はある。
クールタイムが一時間も掛かってしまうので、簡単にポンポン使えるスキルでは無い。
「ワオン!」
小太郎もやる気の様で、元気良く鳴いて返事をした。
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