310話 恩恵の宝玉は幾らでも欲しい
「はぁ!」
カナタが長槍を振り回して向かってくる敵を倒していく。
敵は九階層に降りる階段の番人、ネクロマンサーだ。
次々とネクロマンサーが召喚してくるアンデッドがカナタに向かってくるが、下っ端では相手にならない。
アンデッドは武器で身体が切断されただけでは再び繋がって復活するのだが、カナタの倒す速度が早過ぎる為、供給が追い付いていない。
ネクロマンサーがやられるのも時間の問題だ。
「流石はカナタだな。あの頃の俺達よりも強そうだ。」
櫓やネオンは既に戦闘経験があるので、カナタ一人に戦わせている。
当然危なくなったら助太刀に入る予定だが、全く問題は無さそうだ。
そして八階層に降りてくるまでに大半の依頼も終わっている。
残るは受付嬢に依頼された恩恵の宝玉だけだ。
しかし今のところ恩恵の宝玉の収穫は無い。
上階層では出にくいのと、難易度の低さから人が多く、宝箱を開けるのも一苦労だ。
なので櫓達は一気に下層目指して進んでいる。
途中で休暇中の別行動をしている獣人達や奴隷達とも会い、ダンジョンに潜っている仲間達も多かった。
「カナ姉は昔から強かったですからね。あっ、終わったみたいです。」
ネクロマンサーは身体をバラバラにされて地面に伏しており、魔石を回収したカナタが戻ってきた。
召喚主が倒されたのでアンデッド達も消えていく。
「お待たせ致しました。」
「休暇は必要か?」
戦闘後だが息を乱すどころか汗一つかいていない。
断ってくるだろうと判断しつつも尋ねておく。
「いえ、この程度では必要ありません。」
カナタも危険な状態の時には申告してくるので、無理強いする必要も無い。
「なら、下に進むぞ。」
九階層にはネクロマンサーを倒した者と其の仲間が進む事が出来る。
どういう原理かは分からないが、他に降りようとする者がいると直ぐに復活して現れる。
仲間の様に寄生して降りようとする者もいるらしいが、そう言った者は実力が九階層に見合わず、大半が命を落とすらしい。
「九階層からは恩恵の宝玉が多く取れるのですよね?」
ダンジョン探索初見のカナタが尋ねてきた。
「そうだよ、トラップフィッシュって言う大きな魔物が宝箱に擬態しているから気を付けてね。」
前回櫓達が九階層で出会った魔物である。
以前は全員平然と倒していたが、あれでもBよりのCランクの魔物であり、一度食べられれば消化される前に脱出するのは困難だと言われている魔物だったりする。
櫓達にとっては危険な魔物にはならないが、一般的な冒険者達からすれば相当危険な魔物である。
「ネオンも食われてたしな。」
「あ、あれは初見だったから仕方が無いですよ。それに食べられないとお宝も手に入らないじゃないですか。」
真っ先に宝箱に擬態したトラップフィッシュに釣られて食べられたのがネオンだった。
カナタの前で暴露されて恥ずかしい気持ちを誤魔化す様にお宝の事を言い訳にする。
「まあな、今はどうか分からないが。」
「えっ、魔物に食べられないといけないのですか!?」
カナタは二人の言っている事に驚かずにはいられない。
魔物に捕食されるというリスクを冒すのは、冒険者としては避けたいところだ。
「前回は魔物も宝箱も殆どをトラップフィッシュが飲み込んでいたからな。更に地中に身体が潜っているからわざと食べられて引き摺り出さなければいけないんだ。」
トラップフィッシュを引き摺り出さなければ地面を掘る事になる。
かなり深く潜っていたので掘る作業は面倒だ。
そして触覚の部分を破壊すると簡単に絶命してしまうので、安全にお宝を回収するとなると、わざと引っかかって地面から出てもらった方が有り難いのだ。
「そう言う事でしたか、納得しました。」
「て言うか櫓様は何か欲しいスキルでもあるんですか?恩恵の宝玉は当然皆が欲しがる物だと思いますけど。」
ダンジョンに入る者達の殆どが恩恵の宝玉を目当てにしている。
スキルを得られる魔法道具と言うのは、人の手によって作られた事は無く、ダンジョン内でしか手に入らないので当然と言えば当然だ。
「戦力強化になるからスキル名に拘らず強いスキルは幾らでも欲しいな。加えて狙っているのは鑑定のスキルだ。」
強くて有用なスキルは幾らでも手に入れたい。
だが今回狙っているのは恩恵の宝玉の中ではハズレ枠の鑑定のスキルだった。
「鑑定ですか?」
「鑑定なんて櫓様には必要ありませんよね?」
鑑定のスキルは生き物に使う事が出来無い。
道具や素材等の情報を目から得る事が出来るが、櫓の持つ神眼のスキルで選択出来る調査の魔眼の下位互換である。
「俺のじゃなくて、拠点の者達の為だ。商会に属しているなら鑑定のスキルは持っておいて損は無い。うちを辞めた後でも使い道はあるしな。」
恩恵の宝玉の中ではハズレ枠になっているが、使えないスキルと言う訳では無い。
寧ろ商人や自分の店を持っている者達の大半は鑑定のスキルを所持している。
せっかくスキルを得られる貴重な恩恵の宝玉なので、皆ありきたりなスキルでは無い物を欲しがる。
結果使い勝手は悪く無いが一般的なスキルである鑑定がハズレ枠となっているのが現状だった。
「流石はご主人様、そこまで我々の事を。」
カナタが自分達仕える者達の事を、辞めた後まで考えてくれている櫓に感動していた。
「だったら沢山欲しいですね。」
「そうだな、欲を言えば全員分欲しいし、五百個はキープしたいところだ。」
ネオンに返答したところ、膨大な数を聞いて呆気に取られた変な顔になっており、思わず笑ってしまう櫓だった。
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