305話 新たな可愛い仲間
ミネス盗賊団に捕まっていた女性達を故郷の町に送り届けた櫓達は再び城塞都市ロジックを目指して馬車を走らせた。
今はミズナに御者を任せて、雷の剣のメンバー達が櫓を囲む様にソファーに座っている。
櫓の膝の上には小太郎がお座りしており、直接現場に居なかったリュンに、仲間に加わった事を説明した。
「Aランクの魔物、エレキウルフか。確かに秘めたる魔力量は中々のものだな。」
見た目からは全く強い魔物に見えない小太郎だが、リュンは魔力量から実力を測っている様だ。
エルフの種族特有の能力らしく、スキルとして何か持っている訳では無いが、ある程度他者の魔力を目で見る事が出来るらしい。
未だ幼体の小太郎は、Dランク程度の魔物と既に魔力量が変わらないらしい。
このまま成長していけば、魔力量も増えていき強力な魔物になるとリュンは言った。
「こんなに可愛いのに凄く強くなるなんて最高ですね。」
ネオンが小太郎の頭を撫でながら言う。
小太郎は頭もいい様で、ネオン達が櫓の仲間だという事も分かっており、大人しく撫でられている。
反抗的な態度も一切無いので躾をする必要も無く、テイマーとしては初心者の櫓だが他人に迷惑を掛ける事は無さそうだ。
「育てば可愛い部類から、かっこいい部類に変わりそうですけどね。」
シルヴィーが見ていた本を裏返して内容を見せてくる。
読んでいたのは魔物に関する図鑑であり、見せられたページにはエレキウルフの事が書かれている。
成長した大人の姿も描かれており、凛々しい立ち姿、艶やかで立派な体毛、放出される激しい雷とAランクの魔物に相応しい絵だった。
「かっこいいのもいいですけど、断然私は今の方がいいですね。」
「確かに今の見た目も可愛いけど、小太郎がこうなるのも俺は楽しみだ。」
「ワン!」
小太郎も楽しみだと言う様に一鳴きする。
魔物の自分を拾ってくれた櫓達には感謝しており、恩返しする事が小太郎の密かな目標だったりするのだ。
「ワンワン!」
「ん?小太郎が何かしてほしい様だな。」
小太郎が櫓の手を尻尾でぺしぺしと叩いてくる。
仲間になる時にもやられたので、電気を欲している合図なのは分かる。
しかし櫓が電気を与えた時にリュンは居なかったので分かっていない。
「電気を欲してるんだ。分かった分かった、飯に電気とよく食べる。」
櫓は雷帝のスキルを使って手に雷を纏わせて、小太郎に吸収させる。
櫓の言う様に食べている訳では無く、蓄電のスキルによって体内に蓄えているのだ。
「だが魔力を持て余している時は、小太郎に蓄電させるのがいいだろう。」
「櫓さんは魔力量も多いですものね。」
帯電や操電のスキルによって電気を発生させる時には魔力を必要とする。
魔力を消費して電気を生み出すので、魔力切れを起こせば当然電気は生み出せなくなる。
しかし蓄電で蓄えられている電気に関しては、魔力では無く電気のまま小太郎の体内に存在している。
なので小太郎が魔力切れを起こしても、蓄電で蓄えられた電気はそのまま使う事が出来る。
小太郎が魔力を使うとすれば、殆どが電気への変換になるので、予備の魔力の様な扱いとして体内に保存出来るのだ。
なので魔力を多量に余らせている今みたいな時は、小太郎に吸収させた方がお得なのだ。
「小太郎の戦闘力が上がるとも言えるしな。」
魔力が多ければ戦闘で使う事が出来る攻撃の回数も増える。
小太郎の蓄電は自分達の為にもなるのだ。
「ワゥン。」
電気を吸収している小太郎は、気持ちよさそうに櫓の膝で身体を伸ばしている。
蓄電するのが気持ちいい様だ。
そして流石はAランクの魔物と言うべきか、櫓から吸収する量は中々に多い。
普通の人間と比べて遥かに多い魔力を持つ櫓でなければ、魔力切れになっていたかもしれない。
「満足したか?」
「ワン!」
蓄電出来る量にも限界はあるので、充分満たされた様だ。
食事もボックスリングの中に入っていた様々な肉を食べさせているので、非常に満足した表情だ。
「でしたら次はお風呂ですわね。山での生活で汚れているでしょうし。」
「私も一緒に洗います!」
そう言ってシルヴィーが櫓の膝から小太郎を持ち上げ、ネオンも立ち上がる。
馬車に乗せる前に軽く身体は拭いたが、そのくらいでは野生で生きてきた汚れは取れない。
「小太郎、絶対にスキルを馬車の中で使ったらダメだぞ。特に風呂の中ではな。」
櫓は向かう先の風呂場を指差して言う。
雷系統のスキルを使う小太郎が、風呂場でスキルを使ってしまえば、一緒に入っているネオンやシルヴィーが感電してしまう。
二人共一流の冒険者なので、死ぬ事は無いと思われるが、やらないに越した事は無い。
「ワン!」
小太郎は元気よく返事をして二人に連れていかれる。
「人の言葉を理解している様だ、賢い魔物だな。」
魔物の中には魔王の様に人間の言葉を話す事が出来る者はいない。
何らかのスキルを持っていれば会話も成り立つのだが、そう言ったスキル持ちも少ない。
なので小太郎は、スキルに頼らずとも人間の言葉を理解している事になる。
一度念話をしたからなのか、小太郎自身も気付かない内に、櫓達の言っている言葉が分かる様になっていたのだ。
「其れは置いておいて、リュンは入らないのか?」
風呂場の方に視線を向けつつ尋ねる。
「私は男だと言っているだろう!」
「冗談だ。」
見た目が美少女で全く男には見えない、ある意味小太郎と似ている境遇のリュンを揶揄う櫓だった。
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