304話 可愛い犬にしか見えない
エレキウルフと念話を終えて、内容を皆に話すとネオンとシルヴィーはとても喜んでいた。
ミズナも仲間になるなら倒す必要は無いと引き下がってくれた。
「これから一緒に旅を出来るなんて最高ですね。」
「過酷な旅に癒しは必要ですわね。」
二人は終始エレキウルフにご執心である。
櫓から取り上げて二人で可愛がっている。
エレキウルフも二人が害を加えてようとしていないのは分かっている様で、されるがままに可愛がられている。
「ほらほら小太郎、美味しいお肉だよ。」
ネオンが自分のボックスリングから干し肉を取り出してエレキウルフに近付ける。
ネオンがエレキウルフに対して言った小太郎は名前だ。
魔物の名前で呼ぶのは不便だからとネオンとシルヴィーが考えたのだ。
念話で声を聞いた時に女の子の声だった事は伝えて、名前を変える気になったのだが、エレキウルフが小太郎と言う名前を気に入ったらしく、そのままになった。
女の子向けの名前では無いが、本人も気に入っているので、櫓から特別言う事は無い。
「ワン!」
シルヴィーに両手で抱えられている小太郎が嬉しそうに干し肉を食べている。
干し肉は冒険様の非常食と言うのが一般的だが、櫓のボックスリングがあるので、雷の剣ではあまり活躍する事は無い。
小腹を満たしたりおやつ感覚で食べる事はあるので、普通の干し肉と比べると美味しくて高価な物になっている。
「あまり与え過ぎると太るぞ。おっ、着いたな。」
小太郎を愛でながら歩いていると町に到着した。
出発する時にも話した見張りが気付いて駆け寄ってくる。
「お疲れ様です。ん?其の犬は?」
出発する時には居なかった小太郎に気付いて尋ねてきた。
初めて見る者からすれば、やはり子犬にしか見えないだろう。
とてもAランクの魔物とは思えない。
「此奴がデアバードの件の犯人だ。」
櫓が小太郎の頭に手を置いて撫でながら言う。
「ほ、本当ですか!?」
気持ちよさそうに撫でられている小太郎を見て、デアバードを食い荒らしていた魔物と結び付かない様だ。
一先ず櫓としては依頼は終わったので、見張りに村長を呼びにいかせて、報告をする事にした。
討伐はしなかったが、旅の仲間として連れていくので、町への被害は無くなり文句は無いだろう。
少しすると村長が門にやってきた。
「まさか抱えていた問題がこんな可愛らしい魔物によるものだったとは。」
村長に報告すると見張り同様に、小太郎の様な可愛い見た目をした者が、今回の騒動を引き起こしたとは思えない様だ。
「信じられないですか?」
「そうですな、相当強い魔物と思っておりましたから。」
町から討伐に向かった元Bランク冒険者やCランク冒険者もやられたので、凶悪な魔物と予想していた。
「充分強いですよ。見た目に騙される方が多いですが、実際にAランクの魔物ですからね。」
子供ではあるが小太郎がAランクの魔物のエレキウルフである事は間違い無い。
「Aランクですと!?」
「一応証拠を見せますよ。小太郎、上に向かって操電だ。」
危険が無い様に村長達から離れた場所に小太郎を呼び寄せて、スキルを使わせる。
実際に小太郎の力を目で見た方が理解出来るだろうと思った。
「ワン!」
小太郎は櫓の指示通り身体から発した電気を空に向かって放出している。
威力を証明する為に落ちている木の枝を拾って、空に向かう電気に投げる。
当たった木の枝は黒く焦げて煙が出ている。
「成る程、確かに報告にあった通り電気を使っていますな。山から連れ出して頂けるのならば、被害は無くなり我々も助かります。」
「任せて下さい。では依頼は完了ですね。」
デアバードの被害の原因である小太郎を仲間にしたので、村長に頼まれた事は解決した。
「美味しい鳥・・・!」
依頼完了と聞くとミズナが早速デアバードの料理を催促している。
「勿論です、依頼の報酬になるかは分かりませんが是非召し上がって下さい。と言っても今から回収作業なので今暫くお待ち頂きますが。」
小太郎の魔力に当てられて、町で飼っていたデアバードは逃げてしまった。
料理を振る舞うにも先ずは山の中から探し出さなければならない。
ミズナは再びお預けを受けて落ち込んでいる。
「やはり戻っていたか。」
自分達も回収作業を手伝おうかと提案しようとしていると、別行動していたリュンが現れ話し掛けてきた。
「魔物の件なら終わったぞ。」
「お力になれずすみません櫓様。私達の方は完全に方角が違った様です。」
リュンの後ろから現れたカナタが謝罪してくる。
「別に大丈夫だが、ん?其の後ろにあるのはなんだ?」
カナタの後ろには大きな木箱が幾つも浮いている。
風魔法によって浮かせている様だ。
「魔物の件は力になれないと思ったのでな。」
そう言ってリュンが木箱の蓋を開ける。
皆で中を見ると、なんと大量のデアバードが入っていた。
櫓達が小太郎を見つけた場所と反対側に向かったリュンとカナタは、大量のデアバードを発見していた。
小太郎の魔力を恐れて逃げてきたと思われる。
小太郎は戦闘で魔力を消費したので、デアバード達は今は落ち着いていた。
「おおお、回収作業までして下さったとは。早速料理致しますので、どうぞ此方へ。」
リュンとカナタがデアバードを持ち帰ってくれたので、結果的に回収作業は無くなり料理を堪能出来た。
デアバードは過去に食べてきた鳥系統の肉や卵のどれよりも美味しくて、全員大満足の食事となった。
あまりの美味しさに感動した櫓が、町への被害が出ない程度に、デアバードの肉や卵を手持ちの食料や金と交換して、大量に入手してから町を後にした。
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