303話 テイマー櫓
『私は元々あっちの方に居たの。』
そう言ってエレキウルフが前足で方向を示す。
その方向は櫓達が馬車を走らせてきた方向だった。
『お父様とお母様と三人で暮らしていたんだけど、ある日突然ゴブリンに襲われたの。』
(ゴブリン?エレキウルフなら相手にもならないだろ?)
ランクで言えばエレキウルフはAランク、ゴブリンはFランクと戦闘力に差があり過ぎる。
『うん、普通だったらお父様とお母様が苦戦する事は無いんだけど、ゴブリンが数えられないくらい多くて、簡単には倒せなかったの。』
(もしかしてゴブリン達を率いていたのは魔王か?)
数えられない程のゴブリンと言うと、方向からしても先日の魔王達の事を思い出す。
魔王クラメの他にも、魔王リンガルと言うゴブリンの魔王が居た。
魔王リンガルは同族のゴブリン種を召喚するスキルを所持していたので、関わっている可能性はある。
『お父様はゴブリンキングって言ってたよ。でも少し離れたところに、凄い魔力の持ち主が居たのは分かる。お父様やお母様よりも魔力が多い魔物って、感じた事が無かったから覚えてるの。』
それ程の魔力となると魔王と考えて間違い無い。
同じAランクであるエレキウルフとゴブリンキングでは、力やスキルに差はあるが極端に魔力量が違う事は無い。
(そうか、多分だが凄い魔力の持ち主ってのがゴブリンの魔王だ。ゴブリンキングの様な配下を召喚して、辺り一帯を縄張りの様にしていたからな。)
櫓達や魔王クラメが大量に倒したが、ゴブリンキングが様々な場所で配下を召喚していた。
その内の一団と鉢合わせてしまったのだろう。
『そうだったんだ。確かにいきなり襲われたの。そしてお父様とお母様は私を逃す為に残って戦ったの。』
(そう言う事か。)
エレキウルフの子供が一体のみで行動している理由が分かった。
『うん、多分お父様もお母様も生きてはいない。生きてたら私の魔力を辿って迎えにきてくれてるから。だから帰る場所は無いの。』
子供を逃す為にゴブリンの群れに立ち向かったのだが、個の力が優れていても群れに囲まれては厳しいだろう。
(励ましになるかは分からないが、ゴブリンの魔王は死んだ。俺達が倒したからな。)
『えっ!?人間が魔王を!?』
エレキウルフは魔王を倒したと言う櫓の言葉に驚く。
同じ魔物である自分でも驚く程の魔力を持っている魔王に、人間が勝てるとは思ってもいなかった。
(ああ、嘘は付いてないぞ。身を持って体験しただろ?)
エレキウルフは先程少しだがミズナと戦い、その強さを経験した。
『確かに普通の人間と比べると随分と強いと思う。もし出ていかなかったら私を殺すの?』
エレキウルフは悲しいそうな声と共に櫓を見てくる。
ネオンやシルヴィーでは無いが、可愛さにやられてしまいそうになる。
(うーん。正直に言うと最初はそのつもりだったが、話しを聞いた後だと俺には出来無いな。)
両親を失って独りぼっちとなってしまったエレキウルフにその仕打ちは酷過ぎる。
『優しいんだね。でも私も生きていく為には食べ物が必要になる。狩りやすくて美味しい獲物が居る此の山は、住処としては適してるの。』
目の前に居るエレキウルフはAランクと言っても未だ子供だ。
食料となる獣や魔物を仕留めるのも自分でやらなくてはいけないので大変だろう。
(つまりデアバードに拘りは無いって事か。)
『鳥の名前?美味しかったら何でも構わないよ。』
デアバードの代わりとなる食料があれば問題無い様だ。
(だったら此れを食べてみてくれ。)
『いいの?美味しそうな匂い!』
櫓はボックスリングから取り出した焼き立ての肉が乗った皿を差し出す。
『美味しい!あの鳥よりも美味しい!』
(気に入ってくれたみたいだな。)
櫓が調理した事によって、料理がデアバードの美味しさを上回った様だ。
と言ってもエレキウルフはデアバードを焼いて食べていただけなので、しっかりと調理すれば意見が変わるだろう。
『もっと食べたい!』
あっという間に一皿分の肉料理を完食したエレキウルフが櫓に向かって言う。
(なら俺達と一緒にこないか?)
櫓はそう言って手を差し出す。
『魔物の私が人間と?』
櫓の誘いにエレキウルフが困惑気味だ。
(一人で暮らすよりも楽しいと思うぞ。仲間達もお前の事を気に入ってるみたいだし、俺と相性も良さそうだしな。)
エレキウルフの境遇を知った結果、一番いい落とし所ではないかと自分の中で結論を出した。
無理強いはしないが、Aランクとは言え子供を一体だけで放置するのも気になる。
それにネオンとシルヴィーは聞くまでも無くそれを望んでいる。
『でも私は魔物だよ?』
(人間の中にはテイマーと言って、魔物と旅をしている者も居るから問題無いぞ。)
誰もがテイマーになれる訳では無いので、メジャーでは無いが存在する。
『私一人だときっと長く生きられない。命を懸けて私を逃してくれたお父様とお母様の分も含めて、いっぱいいっぱい楽しく生きていきたい。これからよろしく!』
エレキウルフも子供のまま独りぼっちで生きていく選択肢を取りはしなかった。
櫓達と一緒に居て自分に不都合は無いので、喜んで櫓の手に前足を乗せた。
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