301話 急接近
調査の魔眼で魔物を視る。
種族 エレキウルフ
スキル 帯電 操雷 蓄電 威嚇 雷耐性Lv三
状態 平常
どう見ても小型の柴犬にしか見えなかったが、一応狼だった。
スキルに関しては櫓の持つスキルの下位互換が幾つかある。
帯電は電気を身体に纏わせるスキルであり、操雷は電気をある程度身体から離して操る事が出来るスキルだ。
何方も櫓の雷帝のスキルで出来る事である。
そして威嚇は自分よりも実力が低い者単体に効果があり、恐怖心を煽ったり戦意を挫く事が出来る。
此方に関しても櫓の威圧は単体では無く、複数に効果を与える事が出来る。
「雷系統のスキルを所持している様だ、各自気を付けろ。」
姿を見るのは初めてだが、魔物の図鑑で櫓は見た事があった。
エレキウルフは其の名の通り、スキルで電気を生み出して攻撃してくるAランクの魔物である。
体格は人間を乗せられる程大きいが、動きも素早い。
(知っていても分からない訳だ。図鑑の情報と違って小さ過ぎる。)
目の前に居るエレキウルフは、とてもではないが人間を乗せられる様な大きさでは無い。
逆に人間の両手の平に乗りそうなくらいの小ささである。
図鑑の情報は成長した姿に関しての情報であり、目の前のエレキウルフは子供と思われる。
「気を付けろと言われても、可愛過ぎて手を出せませんよ〜。」
「同じく私も其の様な残虐な真似は出来ません。」
ネオンはエレキウルフの見た目から攻撃出来無いと言い出した。
続いてシルヴィーも攻撃をしないと言う。
確かに二人の言う通り、エレキウルフは子供なのもあって、攻撃するのは虐待の様に感じられる。
実際櫓も現在進行形で攻撃を続けているミズナを見て、全て回避されてはいるものの虐めにしか見えない。
「ワン!」
エレキウルフはミズナの攻撃を回避しつつ、身体の表面から雷を放つ。
攻撃していない三人を除いて、雷は全てミズナに向かっている。
「水城壁・・・!」
ミズナは水の壁を生み出して攻撃を防ぐ。
櫓の雷帝のスキルで生み出した雷すらも防げるので、エレキウルフの雷では突破は不可能である。
「ワゥン。」
エレキウルフは自分の攻撃が簡単に防がれてしまったので、今度は周りを囲んでいる水の檻に雷を放った。
戦わずに逃げる事を選択した様だ。
「無駄・・・。」
しかし残念な事にエレキウルフの攻撃では水の檻は壊れない。
水の壁同様ミズナの水帝のスキルによって作り出されたので、防御力は相当高いのだ。
「ミズナさん、無理に倒さずとも逃げようとしているのですから、壁を解除してはどうですの?」
シルヴィーがエレキウルフの行動を見て、隣に居るミズナに提案する。
「名案ですよシルヴィー様!いいですよね櫓様?」
ネオンもシルヴィーの案に賛成し、櫓に確認を取ってくる。
二人は攻撃を仕掛けるつもりが無いので、此の場から逃したいのだ。
「そうだな、俺も倒すのは気が引けるし、逃してやってくれミズナ。」
櫓も二人と同じ意見なので、ミズナに水の檻の解除を求める。
「駄目・・・。味を占める・・・。」
「鬼ですかミズナ様!?」
しかしミズナは櫓の言葉に従わず、水帝のスキルで水を放ち続けている。
デアバードの美味しさを知ったエレキウルフは、追い出しても再び戻ってくると思っている様だ。
櫓達は直ぐに旅に戻るので、どのみち今後の事は関与出来無いのだが、美味しい物が無くなる事は許せないらしい。
「ウウウゥ。」
ミズナの攻撃を何度も回避しているエレキウルフだったが、逃げられないならばと一矢報いる様に、帯電のスキルで身体に大量の電気を纏い始めた。
纏う電気の量はどんどん増えていき、エレキウルフの身体が丸ごと隠れる程までになり、電気の塊が出来上がる。
「ウワオォン!」
エレキウルフが遠吠えをあげると、電気の塊が全方位に向けて放電される。
「っ!?」
一人であれば防ぐ必要も無いが、隣りにはネオンが居る。
櫓は手を前に突き出して雷帝のスキルで雷を放つ。
向かってきていた攻撃と相殺してダメージは受けなかった。
他の攻撃は全て水の檻が受け止めてくれたので、森への被害も殆ど無い。
「大丈夫か!?」
離れた場所に居るシルヴィーとミズナに確認を取る。
「問題ありませんわ。直前にポーションを飲みましたので。」
シルヴィーは無効化のポーション(雷)が入っていた空のガラスの器を持ちながら言う。
「防ぐから飲む必要無い・・・。」
ミズナは目の前に作り出していた水の壁を解除しながら言う。
攻撃を防げる自分が居るのにシルヴィーがポーションを飲んだので、文句を言っている様だ。
「一応ですわ。攻撃に夢中になっていましたから。」
「まあ、いい・・・。」
ミズナは再び攻撃を開始しようとしたが、先程攻撃を放った場所からエレキウルフの姿が消えている。
しかし周囲は水の壁に囲まれており、高さもジャンプ程度では超える事は出来無い高さなので脱出は無理だ。
「ん?いつの間にかいなくなってるな。」
櫓もエレキウルフの姿を見失っていた。
「櫓様櫓様!」
隣りに居るネオンが服の裾を引っ張りながら呼んでくる。
ネオンの方を向くと幸せそうな顔をしながら櫓の足元を指差してきた。
足元に目線をやると、其処には先程攻撃を放ってきたエレキウルフが、地面にお座りをして櫓の事を見上げていた。
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