299話 自然と共に生きる者
櫓達は村長に頼まれた魔物の件に早速取り掛かる事にした。
櫓とネオン、シルヴィーとミズナ、リュンとカナタの三チームに分かれて山の中を探す事にして、他の者達は町の近くで待機させている。
子供達や獣人達も手伝いたいと名乗りをあげてくれたのだが、村長から詳しく話しを聞き断る事にした。
理由は魔物の強さがAランク相当だと思われたからである。
櫓達が町に到着する以前に、街の者達でも既に魔物退治は行っていた。
退治に向かった者は、見張りや警備員等の魔物との戦闘においては素人が大半だったが、元Bランク冒険者やCランク冒険者等も居たらしい。
しかし全員が魔物に返り討ちにされ、成す術なくやられたと言う。
しかも魔物の姿を確認出来た者すらおらず、遠距離での攻撃で行動を不能にされた。
幸い死者は出なかったが、実力の差は歴然であり、誰も再び挑む者は出なかった。
其の実力から少なく見積もってもBランク以上の魔物と思われ、魔物退治に参加するメンバーは限られてくる。
山の頂上付近と言ってもそれなりに広いので、危険を考慮しつつ手分けして散策する為に二人一組の三チームとなったのだ。
雷の剣以外でAランク相当の実力者となると、奴隷達の中でも突出した実力を持つカナタしかいないので、櫓達に加わり参加してもらう事になったのだ。
「自分の為でもあるからと安請け合いしたが、思ったよりも時間が掛かりそうだな。」
街道や町へ向かう道と違い全く整備されていない山の中は、地面が凸凹で歩き辛く、木々が生い茂っており視界が遮られる。
魔物の正体も何匹居るのかも分からないのに、この状況下で探すのは難易度が高い。
「大丈夫ですよ櫓様。私の五感と櫓様のスキルがあれば、直ぐに発見出来ますよ。」
ネオンは明るく言いつつ山の中をスラスラ歩いていく。
獣人であるネオンの五感は人間と比べると遥かに鋭い。
人間では気付かない魔物の臭いや音を感じ取れる可能性は高い。
そしてネオンが言っている櫓のスキルとは神眼の事である。
木々の間を縫って遠くを見る事の出来る遠見の魔眼や、障害物を透かして先を見る透視の魔眼は探し物に向いている。
「と言うかネオン、こんな山中をよくスムーズに歩けるな。」
「えっ、そうですか?自分では特に気にならなかったです。」
ネオンは足元の悪い山中を苦労せずに歩いているが、櫓は中々苦戦していた。
小さな頃から自然の中で暮らしてきた獣人だからこそであった。
文明の発達した暮らしをしてきた櫓は、山中を歩く経験など殆ど無かったので、苦労するのも当然である。
「戦う前から体力を持っていかれて辛いな。」
「しっかりして下さいよ、櫓様が魔物との相性が一番いいかもしれないんですから。」
ネオンはそう言って櫓を励ます。
魔物との相性がいいかもしれないと言うのは、村長から聞いた話しが元である。
「魔物の攻撃手段が雷系統のスキルか魔法だったからだろ?」
村長の話しによると、魔物退治に向かった者達全員が遠距離攻撃でやられたと言うのだが、其の遠距離攻撃が雷系統だったらしい。
スキルか魔法かまでは分からないが、受けた後の全身の痺れや衣服が軽く焼かれた事から、そう判断された。
「そうですよ、雷ならば櫓様の得意分野です!」
出会ってからずっと一緒に旅をしてきているので、櫓の雷帝のスキルや雷魔法の凄さをネオンはよく知っている。
圧倒的な破壊力と獣人の五感でさえも捉える事の難しい速度を持っており、絶対の信頼をおいている。
更に雷帝のスキルは同種の攻撃に対する耐性も併せ持っている。
雷を自在に操ると言うのは自分が生み出した物だけでは無いので、敵の雷攻撃も対象となるのだ。
速度が早いので完全に御しきるのは難しいが、威力を逸らしたり速度を殺したりして、ダメージを軽減する事は簡単だ。
「どうだろうな、やってみなければ分からないぞ。」
実際櫓はそう言った攻撃をする相手と戦った事が無い。
理論上は雷帝のスキルで対処出来るのだが、ぶっつけ本番で挑むので魔物次第と言ったところだ。
それこそ櫓の持つ雷帝のスキルと同等以上のスキルであるならば、優位性は失われる。
「いざとなれば私達も戦えますし、秘密兵器もあるんですから。」
そう言ってネオンは腰の鞄からポーションを少し出す。
櫓が事前に渡しておいた無効化のポーション(雷)である。
これから戦う魔物が雷を使うとなれば、万が一を考えて対抗手段を用意しておかない手はない。
ネオンだけで無く、他の二組にも配っている。
「取り敢えずポーションさえ飲めば雷は効かないからな。だが敵の攻撃手段は他にもあると思っておけよ。」
ポーションを飲んだからと言って安心は出来無い。
高ランクの魔物となれば攻撃手段は複数持っていてもおかしくは無い。
「分かってますよ、それよりも・・・。」
「どうした?」
ネオンは話している途中でピタリと動きを止めて、一方を見ている。
「しーっですよ櫓様・・・。微かにですが何かの悲鳴と、バチバチと電気の鳴る音が聞こえました、此方です。」
ネオンは口に指を当てて櫓を静かにさせ、獣人の優れた聴覚で遠くの音を拾った様である。
ネオンは櫓を案内する様に先導して走り出した。
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