296話 意外な才能
ミズナが手を添えている変形の魔刀の鞘からは、水が滴り落ちている。
水帝のスキルを発動させて、変形の魔刀に属性付加をしたいる様だ。
「えっ!?ちょっ、待って・・。」
ネオンは当然ミズナが次にする行動が分かる。
何度も櫓に教えてもらい、自分自身も戦いで幾度となく使ってきた型の構えと同じだからだ。
しかし先程櫓に天剣の型をミズナが見せた時に、ネオンはヒュージトレントを挟んで反対側で解体作業をしていたので、ミズナが使える事を知らない。
突然の事に少し動揺するが、戦闘経験を沢山積んできたネオンは、自然と剣に炎を纏わせている。
「天剣十一式・霜月・・・!」
超速で抜き放たれた居合いによって、水の斬撃が放たれる。
上位互換でもある十一式の型は、武器の届かぬ場所に居る敵にも通用し、遠距離技としても使える。
必殺の威力を持つ水の斬撃が、物凄い速さでネオンに向かっていくが、既にネオンも攻撃に反応して迎え撃つ構えを取っている。
「天剣十式・神無月!」
フェンシングの様に引き戻した剣を、迫り来る水の斬撃に向けて一気に突き出す。
狐火のスキルによって炎を纏った剣が水の斬撃に直撃して、爆発を引き起こす。
ギリギリ相殺は出来ず、ネオンは後方に爆発の衝撃で吹き飛ばされる。
だが獣人の軽い身のこなしで、直ぐに空中で体勢を整え器用に着地する。
「危なかったです。て言うかなんでミズナ様が天剣を使えるんですか!?」
先程武器を与えられたばかりのミズナが使えている事に驚かずにはいられない。
「見て覚えた・・・。」
「見て覚えた!?毎日毎日訓練し続けて修得した私の立場が。」
ネオンはミズナの発言を受けて少し落ち込んでいる。
櫓と出会ってから教えられた天剣の訓練を欠かした日は殆ど無い。
少しでも熟練度を上げようとひたすら練習を頑張ってきた。
それなのに訓練無しで見ただけで使える様になったと言われれば、落ち込むのも仕方が無い。
補足だがネオンも修得した早さは相当なものだ。
剣を扱うセンスや、元々の身体能力に差はあるが、櫓よりも早く天剣の型をものにしていた。
「よそ見しない・・・。」
戦いは未だ終わった訳では無い。
ネオンの隙を見てミズナが距離を縮める為に走った。
常に戦闘は受けの姿勢であるミズナが機敏な動きをしているだけで、とても珍しい光景である。
ネオンが遅れて近付いてくるミズナに応戦しようと剣を構えるが、未だ間合いの外である。
ミズナの変形の魔刀もネオンに微妙に届かない距離である。
「近接戦闘をあまりしないから、距離を測り間違えましたか?」
ネオンは単純にミズナが敵との距離を見誤っているのだと思ったが違っていた。
「此処で充分・・・。」
ミズナの持つ変形の魔刀の形状が、一瞬にして刀から槍に変わる。
剣や刀ではお互いに届かない距離だったが、リーチの長い武器である槍は、現状の距離でもネオンに充分届く。
「槍連弾・・・!」
ミズナは槍で高速の連続突きを放つ。
一突き一突きが弾丸の様に速い。
「うわわああああ、シルヴィー様の技まで!?」
ネオンは剣で必死に突き出される槍を弾いて防ぐ。
しかし速さに付いていけず、徐々に擦り始める。
「私の槍術まで使えるとは驚きましたわ。」
「シルヴィーの槍捌きにもよく似ているしな。」
櫓の近くで観戦中のシルヴィーとリュンも驚いている。
まるでミズナでは無くシルヴィーが戦っているかと言う程、よく似ている。
「くっ、負けません、はああああっ!」
ネオンは押し返す為に身体強化のスキルと身体全体を魔装する。
膨大な魔力を使う事になったが、お陰でミズナの速さに付いていける様になった。
「本気出す・・・。」
ミズナは槍から剣の状態に形状を変えて、ネオン同様身体を魔装して強化する。
ネオンによく似た剣捌きをミズナが行い、鏡写しの様に打ち合う二人が出来上がる。
「あっ!?」
必死に打ち合っていたネオンだったが、激しい一撃によって剣を吹き飛ばされてしまう。
似ている剣捌きであってもネオンとミズナとでは、魔力量に大きな差があった。
獣人の中でも抜きん出た魔力量を持つネオンだったが、精霊であるミズナが持つ魔力量は更に何倍にもなる。
膨大な魔力によって魔装されたミズナの自己強化にはネオンも敵わなかった。
「隙あり・・・。」
ネオンが剣に気を取られた一瞬の隙に水球を生み出して、ネオンの身体を覆って空中に浮かべる。
首から下が完全にミズナの生み出した水球の中にあり、ネオンが腕や足を動かしても水から抜け出す事は出来無い。
狐火のスキルを使おうにも、水の中に手があるので、炎を生み出した途端に鎮火してしまう。
此の状況を作り出された時点でネオンは詰んでしまうのだ。
「ううう、参りました。」
剣に気を取られた事を反省しつつ、ネオンが降参を宣言する。
ミズナは水球を解除して、ネオンを地面に下ろす。
「満足・・・。」
ミズナは初めて武器を扱った戦いをして、自分が思い描く様に戦う事が出来た様である。
櫓にVサインをしている事からも、満足のいく戦いだった事が分かる。
「私はなんだか納得いかないですけどね。」
初めて武器を扱うミズナに格の違いを見せつけられ、ネオンは少し落ち込んだ。
しかし観戦している子供達や獣人達からは、熱い戦いを繰り広げた二人に拍手喝采が贈られ、ネオンも満更ではなさそうな表情をしていた。
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