295話 武器のお試し
目の前でミズナがヒュージトレントを斬った技を見て櫓は驚く。
「なんでミズナが使えるんだ!?」
櫓は天剣の型をミズナに教えた覚えは無い。
此方の世界にきてから教えたのは、唯一ネオンだけである。
出会った頃は戦闘経験が殆ど無いネオンだったが、剣の筋は良かったので、自分の身を守る手段として天剣を教えたのだ。
「覚えた・・・。」
「見ただけでか?」
「そう・・・。」
ミズナは後衛として戦う事が多かったので、前衛として戦うパーティーメンバーの動きをよく見ていた。
そして櫓やネオンが天剣の型を戦闘で使くので、何度も見て覚えていたらしい。
「まさか他にも使えるのか?」
「使える・・・。」
そう言ってミズナは抜いていた変形の魔刀を鞘に納める。
そして腰を落とし居合いの構えを取る。
完璧では無いが、殆ど完成形に近い状態まで再現されている。
「天剣五式・皐月・・・!」
超速で抜き放たれた居合いがヒュージトレントを横に斬り分ける。
威力速度共に申し分の無い一撃である。
「天剣の型は、修得する為に一応高い技能が求められるんだけどな。天才ってやつか。」
水の精霊であるミズナは魔力が高く、スキルや魔法を自由自在に使いこなす実力を持っていた。
更に体術の腕前も高く、どの様な分野でも一定数の実力は発揮出来る様である。
「使うのダメ・・・?」
櫓の反応が悪かったので、ミズナげ不安そうに尋ねる。
「そんな事は無いぞ。教えてもいないのに使えている事に驚いただけだ。」
「よかった・・・。」
実際櫓は相当驚いていた。
天剣の型は年単位の長い時間訓練して、ようやくものに出来るレベルなのだ。
見ただけで殆ど再現すると言うのは、櫓にとって規格外なのだ。
「ミズナが武器を手にすると俺達の技も使えるのか。戦闘の幅が広がるな。」
前衛としての力も得たミズナは正に鬼に金棒と言える。
「見てみる・・・?」
「ん?武器を使った戦いを見せてくれるのか?」
ミズナは櫓の言葉にこくりと頷いて、水帝のスキルで生み出した水球を飛ばす。
水球はヒュージトレントを挟んだ向こう側に飛んでいく。
そして数秒後に人を捕らえて戻ってきた。
「うわああぁ、ミズナ様何するんですかぁ!?」
突然水球に捕まって連れてこられたのはネオンである。
櫓達同様ヒュージトレントの解体作業中に拉致されたのだ。
「私と戦う・・・。」
「え?いきなり何ですか?」
ミズナの突然の奇行の意味が分からず、櫓の方を向きながら尋ねる。
「ミズナに武器を与えたら思ったよりも使いこなしていてな。俺に戦っているところを見せてくれるらしいんだ。」
櫓に言われてミズナが見慣れない武器を持っている事に気付く。
「そういう事ですか、いきなり捕まったので驚きましたよ。いいですよ、少し早い戦闘訓練といきましょう。」
食事の後には戦闘員達が揃って模擬戦を行なう訓練をしている。
非戦闘員にとっては娯楽にもなるので、少し早いが止める者はいない。
「悪いなミズナ、いきなり頼んでしまって。」
「気にしないで下さい。ミズナ様との戦闘訓練は私にとっても良い経験になりますから。」
ネオンの主となる力は狐火や炎魔法である。
水の精霊であるミズナに対しては相性が悪い。
だからこそ訓練にもなるのだ。
「よし、一旦ヒュージトレントの解体は終了するか。」
身体が大きい為手分けして行なっているが、半分も解体出来てはいない。
そんなヒュージトレントから取れた大量の良質な木材を全てボックスリングの中に仕舞っていき、模擬戦の事を皆に伝える。
ネオンとミズナが戦うとなれば、観戦したいと思う者は多い。
娯楽か勉強か人それぞれではあるが、皆が期待している。
「此処に設置するぞ。」
櫓はボックスリングの中から訓練用の魔法道具を取り出して地面に設置する。
起動させると魔法道具を中心にドーム型の壁が展開される。
壁は中での攻撃が外に影響を及ぼさない様に防ぐ効果と、冒険者ギルド等の訓練場に常設されている、死に至る攻撃が意識を刈り取る攻撃に変換される機能が付いている。
少し作るのに苦労したが、旅の最中全力で訓練してやれる様にと作ったものだ。
「ミズナ様と戦うのは久しぶりですね。全力でいきますよ。」
「当然・・・。」
二人は既に戦う準備が整っている様だ。
「準備はいいな?始め!」
審判役として櫓が二人に合図を出す。
先に動いたのはネオンだ。
「炎舞!」
ネオンが狐火のスキルを使い、踊る様に動かした手の軌跡に次々と炎を生み出し、不規則にミズナに向けて放たれていく。
「水城壁・・・!」
ミズナは水帝のスキルで自分の前に水の壁を作り出す。
薄いが頑丈な水の壁は、ネオンの放った炎を次々と受け止めていくが、全く崩れる様子は無い。
「流石に頑丈ですね。」
ネオンの技も日々磨かれて強くなっているが、ミズナの防御を突破するのは未だに難しい。
炎を全て防いだので、役目を終えた水の壁が地面に落ちる。
すると向こうから居合いの構えを取ったミズナの姿がネオンの目に入った。
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