294話 興味はあった
櫓が魔法によって生み出した雷で、多少ヒュージトレントが焼けてしまったが、ミズナに消火してもらい解体作業を皆で行う。
あれ程強力な攻撃を子供達も獣人達も見た事が無かったので、逆に歓声は上がらず驚愕で皆言葉を失っていた。
自信満々で放った魔法だったのだが、まるで芸を披露して滑ってしまった様な空気になり、櫓は一人気まずい思いをする事になった。
「ご主人どんまい・・・。」
「元はと言えばお前のせいだろ。」
慰める様に肩に手を置いてきたミズナを払い除け、軽く睨みながら文句を言う。
「次は喜ぶ・・・。」
「もうお前に乗せられたりはしない。と言うか口より手を動かせ。」
櫓はミスリルの刀でヒュージトレントの身体を斬り裂き、角材を作り上げていく。
ヒュージトレントから取れる素材は木材である。
身体全てが上質な木材で出来ているので、用途は多種多様であり中々の値段で売れる。
元の世界とは違い電化製品等無いので、料理や暖を取る際には薪が使われる為、木材は生活必需品とも言える。
櫓にとっては魔法道具で作った電化製品の魔力版があるので、木材はそこまで必要としないが持っておいて損は無いだろう。
「私だと濡れる・・・。」
ミズナはそう言って魔装した手刀で櫓と同じ様に角材を作り上げるが、切断面が湿っており水を吸ってしまった。
水の精霊であるミズナの攻撃には多少なりとも、水分が含まれている様だ。
「確かにこれだと直ぐに薪に使ったりは出来無いか。乾かす手間が増えて面倒ではあるな。」
そう言ってミズナを見てとある事を思う。
櫓や他の者達はヒュージトレントの大きさから、普段使っている武器を使用して解体作業を行なっている。
剣であれば問題無く斬る事が出来るし、槍や斧であっても魔装して斬れ味を上げれば問題無い。
だがミズナはそう言った武器を持っていない。
ミズナはスキルや魔法による対応力の高い攻撃手段を持っており、近接戦闘も意外な事に体術が出来る。
近距離、中距離、遠距離と全てを出来る、実力も兼ね備えた戦いのオールラウンダーと言える。
なので今まで武器を持っていない事に、特に注目した事が無かったのだ。
本人も必要だと言わなかったのと、戦う手段は充分に持ち合わせていたからである。
「今まで気にしてこなかったが、武器って使った事あるか?」
「無い・・・。」
ミズナと出会ってからは一度も使っているところを見た事は無かったので、出会う前はどうだったのか気になったが、使った事は無い様だ。
「興味はあるか?別に強制はしないが、持っておくと便利な時もあるぞ。」
「武器・・・。」
ミズナは櫓が持っているミスリルの刀を見る。
続いて周りに居る者達の武器を見回している。
「貰う・・・。」
ミズナは両手を櫓に差し出してきた。
いきなり要求されるとは思わなかったが、欲しいと言うならば何か渡してあげたい。
パーティーメンバーの一員でもあるし戦う機会は多いので、上等な武器を用意してやりたい。
「そうだ、丁度いい物がある。」
櫓はボックスリングから一本の杖を取り出した。
名前は変形の魔杖と言う。
つい先日倒したゴブリンの魔王リンガルが所持していた武器である。
魔王クラメによって魔石を抜き取られた死体を回収する時に一緒に手に入れた物だ。
素材がミスリルで出来ている魔法武器なので、使い勝手も良さそうであり誰かに渡そうと思っていたのだ。
「杖・・・。」
ミズナが櫓から受け取った杖を物珍しそうに見ている。
杖は魔法の補助をしてくれる武器である。
威力や効果を高めたり、魔力消費を抑えたりと言った感じだ。
しかし杖が無ければ魔法が使えないと言う訳では無いので、近接戦闘も行う櫓達に使っている者はいない。
物珍しそうに見ているのは、周りに使う者がいないので新鮮なのだ。
「変形と言うスキルが付加されているから、様々な武器に形を変えられる様だぞ。」
櫓が教えてあげるとミズナは早速変形のスキルを使った。
櫓が持つ様なミスリルの刀が出来上がる。
「おお、そっくりだな。」
「面白い・・・。」
ミズナは再び変形のスキルを使い、槍、斧、短剣、細剣と様々な武器に変えて、軽く武器を素振りしている。
どの武器も使うのは初めての筈だが、動きは中々様になっている。
(ミズナは今まで後衛が多かったから、前に居る俺達の戦いをよく見ていて、動きを真似ていると言ったところか。)
見覚えのある動きが多く、特に刀、剣、槍の三つの武器を扱う動きに関しては、実戦でも直ぐに通用するレベルだ。
「一番しっくりする・・・。」
そう言って最終的に変形させたのは櫓が持つミスリルの刀であった。
材質も同じなので、似過ぎているくらいである。
「刀の良さが分かるか、流石は相棒だな。」
此の世界での一般的な武器は刀よりも剣である。
しかし使い手が少ないだけで、使用する者も居る。
種類は違うが冒険者パーティー希望の光の藍も小太刀を使用している。
「刀強い・・・。」
ミズナはヒュージトレントを前にして変形の魔刀を上段に構える。
其の姿には見覚えがあった。
櫓がネオンに教えた技の構えと一緒である。
「天剣一式・睦月・・・!」
上から下へ勢いよく幹竹割りをするかの如く刀が振られ、目の前にあった巨大なヒュージトレントの身体が綺麗に左右に斬り分けられた。
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