292話 休める時に休む
ゴブリンが大量発生した事については一件落着したので、待機してもらっていた皆と合流した。
櫓達がいない間に魔物に襲われる事も無く、全員無事であった。
ミズナを残してきていたのと、騎馬隊を先に帰還させたので心配はしていなかった。
進行方向の安全が確保出来たのと、騎馬隊の怪我をした騎手や馬達の傷が癒えたので、再び進行を開始している。
「一先ず魔王との戦いは終わったし、暫くはリラックス出来そうだな。」
櫓は柔らかなソファーに身体を沈めて、最近の様々な出来事の疲れを癒しながら言う。
「休んでばかりもいられませんわ。三年後には世界の命運が掛かる程の決戦が控えているのかもしれないのですから。」
魔王クラメの情報で邪神が三年後に目覚める事が分かった。
しかし他の情報は一切分かっておらず、詳しい時期や場所等も分からない。
「邪神との戦いが三年後ですか。今から緊張してきますね。」
ネオンも強くなっているのだが、雷の剣の中では一番戦闘経験が少ない。
そんな状況で魔物では無く、更に上の存在である魔王や邪神との戦闘について考えなくてはならないので、他の者よりも緊張するだろう。
「今更なのだが、あの魔王の言葉を素直に信じても大丈夫なのか?」
魔王クラメと協力関係の話しをした時には沈黙を貫いていたリュンが尋ねる。
「会うのは二度目だが、俺は信用出来ると思っているぞ。人間に敵対的ならば、一度目に出会った時に俺は死んでいただろうからな。」
魔王クラメと初めて出会った時、向こうの発言を信じずに攻撃し続けたのは余裕が無かったからだ。
魔王クラメの魔呂を感じ取った時に、今の自分では勝てないと本能的に分かってしまった。
仲間を逃す時間稼ぎを少しでも出来るならばと無我夢中だったのだ。
「同感ですわ。ネオンさんの記憶の情報とも一致している様ですし、私も信じてみる事に致しました。」
「リュン様、もしかしてクラメ様を疑っているんですか?私の命の恩人なのですよ!」
シルヴィーもネオンの過去の情報を基に魔王クラメの発言を信じる事にした様である。
そしてネオンは、命の恩師である魔王クラメを疑うリュンに詰め寄る。
「悪かった、機嫌を損ねるつもりは無い。私は出会ったのが初めてであり、魔王と言う存在は人間の敵だと聞いていたからだ。」
リュンは魔王と言う存在に出会った事が無い。
産まれてから櫓達と旅をするまでの間、ティアーナの森から出た事が無かった。
外に出た経験がある村長から魔王の話しは聞いた事があったが、どれも人間と激しく争う様な内容ばかりだった。
なので自然と魔王は人間の敵であると言う関係性が、リュンの頭の中では出来上がっている。
「確かに警戒するのは当然か。魔王の中にも人間に敵対的な者とそうでは無い者、二種類いると言う事だ。」
「私達は以前にソウガさんと言う魔王とも出会っているのですが、此方も倒す必要は無いと判断しましたわ。交戦的ではありますが、命を取る事はしない方の様でしたから。」
櫓達は人間の害とならない魔王まで倒すつもりは無い。
なので魔王ソウガや魔王クラメとは戦闘を避けてきた。
今後もやり方は変えるつもりは無い。
「成る程、魔王と言えど本質は我々と変わらないのだな。」
人間とて善人も居れば悪人も居る。
当然の事だが魔王と同じく、人間も考え方は人それぞれなのだ。
「そう言う事だ。あくまでも害を為す魔王のみを倒し、他は魔王クラメの様に協力関係を築けるのが理想だな。」
今回の様に協力関係を築けるのであれば、増やしていきたいと考えていた。
魔王の実力は凄まじいので、協力関係となれば大きな戦力となる。
「そうなればいいのですけど、クラメ様の反応を見るに難しそうですね。」
「仕方ありませんわ。本来人と魔物は敵対関係にあるのですから。」
魔王クラメも櫓達が倒した魔王の魔石を得られると言うメリットが無ければ許可しなかった事だ。
「考えてもキリが無いだろう。魔王と出会って判断するしか無い。」
「次の魔王の当てはあるのか?」
リュンが櫓に向かって尋ねる。
「無いな、そもそも魔王の情報ってのは簡単に出回っていないんだ。今回のも運が良かっただけだしな。」
今回魔王クラメと魔王リンガル、二人の魔王に出会えたのはかなり運が良かった。
魔王の情報と言うのはリュンが思う程、簡単に世間に広まっていたりはしない。
魔王の存在が確認されれば、直ぐに大規模な討伐隊が組まれたり、上位の冒険者達に指名依頼となって知らされる。
そうなれば魔王と言っても、ずっと同じ場所に留まる事は難しくなるので、戦闘の結果がどうあれ情報は古いものになってしまう。
「そうか、では櫓の言う通り馬車での移動中は、休養を取る事になるか。」
城塞都市ロジックにある拠点まで二ヶ月近く掛かるので、自然と休養を取る時間が増えてくる。
「拠点に着けば分からないけどな。もしかすると魔王の情報を得ているかもしれない。」
「商会ではなかったのか?」
リュンが疑問に思って尋ねる。
しっかりと拠点について話した事はなかった。
「勿論名前通り商会もしておりますわ。並行して情報収集、人員の増加、資金集め等、我々が動きやすくなる様にと櫓さんが作ったのです。」
「早く皆に会いたいですね!」
シルヴィーが櫓商会について説明し、ネオンは久々に会う皆の事を思い浮かべて嬉しそうに言った。
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