291話 共通の敵
「それはっ!?」
櫓が取り出した物を見て魔王クラメが反応する。
櫓が手に持っているのは拳大程もある魔石である。
しかし普通の魔石では無く、魔王の体内にあった魔石だ。
「前に俺が倒したリザードマンの魔王から手に入れた魔石だ。何かの役に立つかと思って残していたんだ。」
櫓が此方の世界に転生した際に、一番最初に戦った魔王アギトの魔石である。
魔王の魔石と言う事なので、通常の魔物から取れる魔石と比べると質は確実に高いのだが、魔王リンガルから取れた魔石には劣る。
魔石の所持者の実力によって質の良さは変わってくるので、転生後直ぐに倒す事が出来た魔王アギトの魔石が劣ってしまうのも仕方が無い。
「つまり協力関係となれば、お前達の倒した魔王の魔石を私が得られると言う事か。」
「そう言う事だ。魔王クラメがどれだけ強いと言っても、一人では魔王の魔石集めも効率が悪いだろう。」
「組んでみても損はありませんわよ?」
そう言って魔王アギトの魔石を差し出す櫓。
魔王の中では弱い部類と言っても、魔王クラメの強化には充分訳に立つだろう。
魔王クラメは魔石を受け取る。
「確かに悪くない提案だ。お前達の実力も人族にしては相当腕が立つしな。逆にお前達に何のメリットがある?魔王の魔石は人族にとっても貴重な物の筈だ。」
魔王クラメは自分にばかりメリットがある事に疑問を抱く。
今言った通り魔王の魔石は、人族であれば欲しがる者は計り知れない。
理由は櫓が普段から作っている様な、魔法道具や武器防具の作成に非常に役に立つからだ。
作る物によっては魔石を素材として必要とするのだが、使った魔石の質が良ければ、それだけ出来た物の質や性能も高まるのだ。
ミスリル等の貴重な素材を主として武器を作る時には、決まって高ランクの魔物の魔石が使われる程である。
少しでも武器の性能を高める為には当然の事であり、物作りに携わる者達全員が出来る事ならば魔王の魔石を使いたいと考えているのだ。
「俺達は邪神に関する情報を欲している。情報を得る為に魔王の下をまわってな。今回は魔王リンガルに聞く暇は無かったが、魔王クラメとこうして話せているので結果オーライだ。」
魔王の魔石を譲ってでも欲しいのは邪神の情報である。
此の世界にきてから時間は経っているが、未だ情報は得られていない。
そんな邪神の情報を魔王や魔物と敵対している魔王クラメであれば、知っているのなら話してくれると思った。
「まさか邪神が目的とはな。情報を得てどうする?」
「討伐するのが目的だ。今の実力では到底敵わないだろうけどな。」
先程魔王リンガルを相手に、一人でも勝てそうな戦いを出来ていた。
しかし櫓の今の実力では、冒険者Sランク相当の実力を持つ者達には及ばない。
邪神の力がどの程度かは分からないが、少なくともSランク以上である事は間違い無いだろう。
「当然だ、お前達では話しにもならないであろうな。だが其れは私も同じ事。偶然にも目的が被っているとはな。」
「目的が被っているんですか!?クラメ様も邪神を倒すのが目的なんですか?」
目の前に居る魔王クラメも櫓達と同じ目的を持った同志であった事に、ネオンが声を大きくして驚いている。
ネオンだけで無く、他の者達も驚きを隠せない。
「そうなるな。魔王の魔石を得て、自分を強化している理由は其の為だ。」
魔王クラメも自分の実力では邪神に届かないと判断して、戦力を高めていた。
「何故魔王が邪神を討伐しようとしていますの?」
魔王は邪神が封印されている間、手足となって動く者達である。
邪神の為に働くどころか、手足を削り本体にも害を与えようとしている理由が分からない。
「知らん。私が聞きたいくらいだ。私が進化個体である事は分かっているが、魔王となった時には魔物時代の記憶は無くなっていた。そして最初に抱いていた感情が、邪神への激しい憎しみと殺意だけであった。だから私は其の感情に従い生きてきた。」
進化個体と言うのは、邪神から生み出された魔王では無く、魔物から魔王へと自力で進化した事を指す。
魔王クラメもそうであり、進化した時に生前の記憶を失ってしまったと言う。
魔王クラメは四百歳を超えているので、一時的な記憶喪失と言う訳でも無い様である。
「魔物から魔王になった時に記憶が無くなってしまったと言う事か。」
「今更生き方を変えるつもりは無いから必要の無い事だ。」
失った記憶は思い出せなくても構わない様だ。
「そうか。取り敢えず目的が同じと言う事は分かった。協力関係の話しはどうする?」
「ふむ、いいだろう乗ってやる。」
魔王クラメは自分へのメリットも考えて許可してくれた。
「やりました!」
「心強いですわね。」
ネオンとシルヴィーが喜んでいる。
魔王クラメの実力は相当高いので、協力関係を築けたのは幸運である。
「魔石の礼だ、邪神について私が知っている事は一つしかないが教えよう。このままいけば、復活は約三年後だ。」
魔王クラメが指を三本立てながら言う。
三年後に邪神が封印から解き放たれ、世界に危機が訪れる。
「三年か・・・、短いな。」
「せいぜい腕を磨く事だ。何か情報が入り次第共有してやろう。」
話しは終わりだと言う感じで、魔王クラメは言葉を残して消え去った。
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