289話 クラメとネオンの出会い
目的の魔力反応に向かう途中で何度かソルジャーウルフから襲撃を受けたが、魔王クラメにとっては大した問題では無い。
寧ろ転移魔法で失った魔力を補給しながら向かう事が出来るので、有り難いとさえ言える。
(魔力反応は此の辺りか。隠れている様だな。)
森を抜けて開けた空間に出たが、魔物の姿は見えない。
しかし他社の魔力をある程度感じ取れる魔王クラメにとっては、隠れている事が分かる。
その証拠に魔物どころか動物の鳴き声も一切聞こえてこない。
此の場所に居る魔物に怯えて寄り付かないのだ。
草木が風に揺られている音だけが辺りに響く。
「炙り出すか。」
魔王クラメは魔法で空中に火球を生み出そうとした。
その瞬間上方の木から何かが一直線に向かってきた。
引き付けてから魔法を止めて蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたのはソルジャーウルフで、そのまま木に激突して悲鳴を上げている。
次々と木々から同じ様にソルジャーウルフ達が飛び掛かってくるが、実力の差があり過ぎるので疲れもしない。
「こんな攻撃続けても意味は無い。さっさと姿を見せろ。」
強い魔力反応を既に捉えているので、一体のソルジャーウルフを鷲掴み、思い切り投げる。
木に直撃して身体は四散してしまったが、衝撃で木は折れて木の上に登っていた者が飛び降りてくる。
「がるるうぅ!」
姿を見せたのは二本足で立っている狼であった。
顔や手足が狼の様になっている人間で、狼男の様な魔物だ。
唸り声を上げながら魔王クラメを睨んでいる。
「魔物では無く魔人か。奴の情報も正確性に欠ける。」
目の前に居る狼男は、魔物と人が融合した魔人と言う存在だ。
融合と言うスキルを所持している魔物が人間の死体に向けてスキルを発動させる事で、肉体を捨てて精神を移動させる事が出来る。
融合した魔物は魔人となり、元の魔物のスキルや見た目の特徴を受け継ぎ、元の魔物の強さに関係なくBランク以上の強さを持つのだ。
因みに獣人の中にも狼の獣人と言うのは存在するが、目の前に居る狼男とは別の存在だ。
見た目でも別物と判断出来るが、最も違う点と言えば体内に魔石があるかどうかである。
魔石は魔物にしか無く、人間には存在しないのだ。
「ぐるうあぁ!」
狼男が吠えると魔王クラメ目掛けて一斉にソルジャーウルフが飛び掛かる。
狼男が魔物達を支配下に置いているのだ。
「鬱陶しい、散れ。」
魔王クラメが魔法で自分の周りに黒い炎を幾つも生み出す。
生み出した黒い炎を飛び掛かってくるソルジャーウルフに放つ。
ソルジャーウルフ達は黒い炎に包まれて身体が溶けて、周りは阿鼻叫喚だ。
少しすると叫び声も聞こえなくなり、狼男の支配下は全て溶けて死んでしまった。
「ぐるるぅ。」
あっという間に仲間を全て殺された狼男は、圧倒的な実力を持った魔王クラメを前に思わず後ずさってしまう。
「魔王候補とは過大評価だった様だ。群れていようがいまいが、実に呆気ない。」
魔王クラメの腕が狼男の身体を貫く。
一瞬で距離を詰めて攻撃された事に狼男は反応する事が出来ず、気が付いた時には死が目の前にある。
魔石を掴んだ腕を引き抜き狼男が崩れ落ちる。
(こんな弱い魔物が魔王候補とは笑わせる。魔石も大した事は無いか。)
水球で洗った魔石を噛み砕いて飲み込みながら思う。
狼男の強さはBランク程しか無く、期待した程質の良い魔石では無かった。
総魔力量も増えた事に変わりは無いが少量である。
(帰り道に期待するとしよう。)
拠点への帰りは徒歩にするので、通り道に居る強い魔物は狩っていくつもりだ。
森を抜ける為に歩いていると早速進行方向から複数の魔力反応を感じる。
視界に入った時には、何かを囲んでいるのかソルジャーウルフが円形状に広がっている。
妙に気が立っている様に見え、先程狼男が殺された事により荒ぶっている可能性がある。
その中心には獣人の子供が一人、絶望的な表情で震えているのが見える。
ソルジャーウルフ達が一斉に獲物である獣人の子供に飛び掛かった瞬間、魔王クラメは一瞬で其の場所まで駆け抜けて、ソルジャーウルフを皆殺しにした。
(身体が勝手に・・・。何故助けた?)
咄嗟に行動した自分に疑問を浮かべる魔王クラメ。
横では危険が過ぎ去った獣人の子供が気絶して地面に倒れている。
(此の獣人が関係しているのか?不思議と懐かしい感覚を感じる。)
獣人の子供を見ていると、初めて出会った筈なのに、不思議とそうは思えなかった。
何故だか懐かしい感覚を覚えるが、関連した記憶に心当たりは無い。
そして立ち去ろうにも其の感覚が邪魔をして、魔物に襲われる危険がある此処に放置していく事が出来無かった。
獣人の子供と集めていたと思われる木の枝を抱えながら、森の入り口を目指す。
少し先に村と思われるものが見えてきて、魔物に襲われる心配も無いと思われる場所に下ろしてから魔王クラメはその場を後にした。
(本当に何をしているのだ私は。)
魔王クラメは溜め息を吐きながら思う。
一応人類の敵である魔物を統べる魔王と言う存在なのだが、獣人の子供を丁寧に助けてしまった。
何故自分がそうしたのかも分からず、モヤモヤとした気持ちを抱いたまま暫く過ごす事になった。
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