288話 魔石を喰らう者
遡る事十数年前、一人の魔王が巨大な魔法陣を描き、転移の準備をしていた。
「おや?今から出発かいクラメ?」
転移の準備をしているのは魔王クラメ。
一見人間にしか見えないが、正真正銘魔物である。
性別は女性であり、美形過ぎるが故に人間らしく無いとも言える。
「そうだ、お前の情報にあった魔王候補の魔物の所にな。」
魔王クラメが話している者も又魔王であった。
直接戦った事が無く付き合いも浅いので実力は把握していないが、相当なやり手である事は分かっている。
そして完全に信用もしていない。
目的の為に情報を与えてくれているのだが、魔王クラメがしようとしている事は、自分達魔王を従える存在である邪神に対する裏切り行為でもあった。
魔王とは文字通り格が違う存在である邪神に楯突こうとする行為をしたいと思う者は少ないだろう。
目の前の魔王に協力してくる理由を聞いたところ、面白そうだからとだけ言ってきて、判断しかねる解答だったのだ。
「転移魔法か、そんなに距離は離れていなかったと思ったけど?」
自分が与えた情報を思い出しながら言う。
「歩いて一週間掛かる距離だぞ。そんな距離を往復したくはないからな。片道だけで充分だ。」
教えてもらった情報の魔物以外にも収穫はあるかもしれないので、帰りは探索しつつ歩くつもりだ。
なので行きは転移魔法で目的地まで直接転移する事にした。
「成る程ね、クラメに限って大丈夫だと思うけど気を付けなよ。自分は次の標的でも探しておくよ。」
ひらひらと手を振りながら拠点としている建物の中に消えていった。
魔王は知性を持った魔物の上位存在なので、普通の魔物の様に野晒しの生活では無く、人間の様な衣食住を用いた生活をする者も少なくない。
「ふん、要らぬ心配だ。」
描いた魔法陣に大量の魔力を流して起動させる。
魔法陣の上に乗っていた魔王クラメの視界は一瞬で代わり、獣人の暮らすフックの村近辺にある森に転移してきた。
(転移魔法は遠距離移動に向いているが、やはり疲れるのが難点か。)
膨大な魔力を必要とする為、人間では扱う事が出来無い魔王専用と言える魔法だった。
しかし魔王であるクラメであっても連発出来無い程に魔力を使用する。
その様な魔法を使ってでも此の場所に用事があった。
(早速勘付かれたか。)
魔王クラメは遠くから自分の元に向かってくる魔力反応に気付く。
魔王クラメの秘めたる魔力量は凄まじく、人間とは比べ物にならないが、今は自身の魔力を抑えて人間と殆ど変わらない。
しかし本当の魔力量を見破れる様な実力のある者が本来の魔力に気付いたのだ。
「「ぐるるるあああぁ!」」
茂みから飛び出してきた二体の魔物が魔王クラメに襲い掛かる。
体長が二メートル程ある、ソルジャーウルフと言う魔物だ。
交戦的で凶暴、Cランクに分類される。
だが通常のソルジャーウルフと比べて、長い時を生きているのか、Cランクの強さを軽く上回っている様に感じられる。
二体共魔王クラメを噛みちぎろうと、大きな口を開けて喰らい付こうとしている。
「お前達は駒か、獣如きでは実力の差も分からないだろうな。」
魔王クラメが向かってくる二体とすれ違う様に通り過ぎる。
そして魔法で空中に水球を生み出す。
その間後ろではバタリと地面に倒れる音が聞こえ、ソルジャーウルフは息絶えていた。
その二体共が身体を貫通する空洞を開けられており、血を倒れ流して地面を赤く染めている。
一瞬で勝敗が決まってしまったが、魔王クラメは特別な事は何もしていない。
すれ違うと同時に相手の身体を腕で抉り貫き、魔石を掴み引き抜いた。
恐ろしく極められた動きだったので、常人が見れば通り過ぎた後に急に腕が血肉で汚れていた様にしか見えないだろう。
魔物を倒し終えた魔王クラメは腕と魔石を水球で洗う。
(転移魔法で魔力を消費していたから丁度いい。)
魔王クラメは洗って綺麗になった魔石を口に入れる。
石の様な硬さをものともせず、バキッバキッと砕きながら飲み込んでいく。
それにより失われていた魔力が多少回復し、総魔力量が微量だが上昇する。
魔王クラメはマジカルイーターと言う魔物であり、魔力を含む石である魔石を体内に取り込む事により、自己の回復と強化をする事が出来る。
魔物の強さによって魔石の質が変わってくるので、当然強い魔物から取れた質の良い魔石の方が、魔力の回復量も総魔力量を増やすのも効率がいい。
魔力量が上がればそれだけ戦いで使える魔力が増える事になるので、取り込めば取り込むだけ強くなれると言う事になる。
(先程の魔物がきた方向、周囲で魔力反応が一番強いのは此の先だな。)
ソルジャーウルフと関係のある魔物かは分からないが、情報にあった魔物である可能性は高い。
魔王クラメの目的はソルジャーウルフ同様、其の魔物の魔石が狙いだ。
自分が強くなる為に強い魔物の魔石を欲していた。
糧となる魔石を求めて、森の奥に進んでいった。
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