285話 成長した力
雷を纏った事により、その場から消えたかの様に爆速で移動する。
魔王リンガルの目には、正しく消えた様に見えていた。
「あの人族何処に・・っ!?」
視覚へ影響を及ぼす、何らかのスキルや魔法を使ったのかと考えたが、自分の後ろに突然気配を感じた。
櫓が目にも止まらぬ速度で魔王リンガルの背後に移動したのだ。
「吹底!」
魔王リンガルが反応したが、防御の隙を与えずに魔装した掌底を背中に打ち込む。
急に浮遊の力が無くなり強烈な重力で地面に落ちるかの様に、攻撃の勢いで落下していく。
「くっ、いつの間に移動を。」
地面から数メートル上でギリギリ浮遊の力で踏み止まる事が出来た。
魔王リンガルは自分を吹き飛ばした櫓を見上げる。
「しかし其れではいい的だ!」
前に掲げた杖の先端部分に拳大程の氷塊が出来始め、どんどんと大きくなっていく。
氷塊は櫓と同じくらいの大きさになり、氷柱の様に先端が鋭く尖っている。
「串刺しになるがよい!」
氷塊が勢いよく撃ち出され、空中で自由落下中の櫓の身体を貫こうと迫ってくる。
当然櫓は攻撃される事を分かっていた。
魔王リンガルの言う通り櫓達人間に空中を移動する為の羽は備わっていない。
魔法も雷属性しか使う事が出来無いので、浮遊する魔法も持っていない。
櫓は足元を見て心眼のスキルを発動させ、障壁の魔眼を選択して使用する。
それにより空中に障壁が展開され、櫓はその上に乗った。
「初めてだったが上手くいったな。」
櫓は障壁の魔眼によって展開出来る障壁を足場代わりに出来るのではないかと考えた。
本来は攻撃を防ぐ為に障壁を作り出すスキルなのだが、手足で触れる事が出来るので、上に乗る事も出来る。
櫓は一直線に向かってくる氷塊の軌道から逸れる様にジャンプして、更に別に足場を作り出し乗る。
「貴様本当に人族か?幾つのスキルを有している?」
櫓とは違って相手のステータスを視る事が出来無い魔王リンガルが驚いた様に言う。
八百年以上生きてきて、人間とも数多く戦ってきたが、櫓程にスキルを幾つも所持した強い者を見たのは初めてだった。
更に魔王である自分に蹂躙される存在の人間に、頭上である空中から見下ろされる事も初めての経験であり、驚きを隠さずにはいられない。
弱い種族と侮っていた人間がこれ程の実力を持っているとは思いもしなかった。
魔王リンガルだけで無く、戦いを黙って観戦している魔王クラメも櫓達の戦いぶりに内心驚いている。
櫓は勿論の事、ネオン達もAランクの魔物を含む大群に囲まれているのに、全く苦戦を感じさせない戦いを繰り広げていた。
正直ネオン達の実力も侮っていたのだ。
「手札を簡単に明かす訳無いだろう。」
櫓は雷帝のスキルで足に雷を纏わせる。
同時に障壁の魔眼を使い空中に新たな足場となる障壁を生み出しジャンプする。
障壁の足場を利用し勢いを付けて、下に居る魔王リンガルに攻撃を仕掛けるのだ。
障壁に着地して屈んだ状態で勢いよく蹴り飛び出す。
障壁は蹴られた影響で粉々に砕けるが、直ぐに進行方向に新たな障壁を展開する。
空中で足場となる障壁を次々と作りながら、爆速で斜め横移動を繰り返して下降していく。
魔王リンガルの目には、雷帝のスキルで加速する櫓が追いきれなくなっており、障壁が次々と砕け散る音のみが聞こえてくる。
「破脚!」
櫓は魔王リンガルの頭上数メートル程に近付くと、障壁を蹴って斜め横移動では無く、下の魔王リンガル目掛けて真っ直ぐ突っ込んでいく。
空中で身体を捻って魔装した回し蹴りを叩き込む。
魔王リンガルは櫓の速度を追い切れないと判断して、身を守る為の盾を頭上に構えていた。
魔装した回し蹴りと盾同士がぶつかり合う。
「ぐうっ!」
魔王リンガルの持つ盾に経験した事の無い程の重さが伸し掛かる。
回し蹴りを受け止めた勢いで地面がひび割れ砕ける。
魔王リンガルの身体も半分程地面に埋まるが、櫓の攻撃は防ぎ切った。
「追加だ。」
櫓は盾に蹴りを受け止められた状態で、両手を横に大きく広げる。
魔王リンガルは盾を頭上に掲げる様にして持っているので、横は守られていなかった。
左右の手を盾の横から下にいれる。
「雷撃!」
無防備な魔王リンガル目掛けて雷が襲い掛かる。
両手で盾を支えていた為、一切防御出来ていない。
「ぐがあああああっ!?」
まともに雷を受けてしまい、魔王リンガルが膝を地面に付く。
櫓は盾から飛び退いて様子を伺う。
雷の攻撃が相当効いたのか行動が遅い。
(随分と優勢の様だな。もっと苦戦すると思っていたんだが。)
櫓も魔王リンガルとの戦闘中に、想像以上に圧倒している事に驚いていた。
魔力量や魔王クラメでも苦戦しそうな相手と言う事から、四人で協力して戦って五分五分と思っていた。
しかし実際に戦ってみたところ、櫓の方が遥かに強い。
これには理由があり、櫓は自分自身が以前とは比べ物にならない程に相当強くなっている事に気付いていなかった。
ティアーナの森の村長やSランク冒険者ハイヌと言った、最強人種達による訓練や手合わせ、更に魔物の中でもトップクラスの実力を持つドラゴンとの死闘。
此れらが櫓の実力を大きく引き伸ばす原因となっていた。
その化け物二人と一体以外との戦闘で全力を出した事が無かったので、どれだけ自分が成長しているのか分かっていなかったのだった。
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