283話 自信の塊
ゴブリンの魔王は片手に杖を持っており、唱えた魔法によって浮いている様だ。
「此処に居る人間達が私の代わりに貴様を倒すらしいぞ。」
地面の中から現れたゴブリンの魔王に向けて、魔王クラメが笑いを堪える様に言う。
自分でも苦戦する様な相手を人族が束になっても敵う筈は無いと思っている。
「くくくっ、人間が我を倒すか。魔王と言う存在を軽んじている様だな。」
ゴブリンの魔王も櫓達を見下ろしながら苦笑している。
魔王は邪神が直接配下として生み出す場合と、魔物の中から長い年月を生き抜き進化した場合の二種類存在する。
魔王間で差はあるものの魔物を統べる存在として、実力は相当高い。
普通であれば数十年程度しか生きていない人族が束になって掛かっても、軽くあしらわれて終わってしまう。
しかしこの場に居る雷の剣の面々は、才能や努力によって力を付けた、人族の中でもトップクラスの実力を持つ傑物達である。
其の事を魔王クラメもゴブリンの魔王も知らないのだ。
「敵を魔王だと知って侮る訳無いだろ。全力で挑んで勝つ事しか頭にはない。」
全員ゴブリンの魔王が現れた段階から、油断無く自分の得物を構えている。
櫓の先程の発言も軽い言葉の様に聞こえて、全員が全力を出せば必ず勝てると言う言葉が隠されているだけなのだ。
「ほほう、面白いではないか。ハンデとして魔喰らいの魔王と共闘でもよいぞ。」
ゴブリンの魔王はニヤリと笑って魔王クラメの方を見つつ言う。
魔喰らいの魔王とは魔王クラメの事を指している様である。
逆に見られた魔王クラメは美しい顔を顰めさせて、嫌そうな顔をしている。
「足手纏いを増やされるのは御免だ。人間達が足掻いて少しでも貴様を弱らせたら、私が手を下してやる。」
魔王クラメはそう言って離れていき、一本の木に凭れ掛かり、腕組みをした状態で此方を見ている。
櫓達の戦いに手を出す様子は無さそうである。
「残念だが手を貸してはくれぬらしいぞ。」
魔王リンガルが櫓達に向けて可哀想な目をして言う。
「元々自分達だけでやるつもりだ。」
ゴブリンの魔王が櫓達を見下している内に神眼のスキルを発動させる。
調査の魔眼を選択して魔王の情報を得る為に視る。
名前 リンガル
種族 ゴブリンキング(魔王)
年齢 八百九歳
スキル 同族召喚 詠唱破棄 全攻撃耐性Lv三
状態 平常
駄目元で試してみたが櫓の目にはゴブリンの魔王である、魔王リンガルの情報が視えた。
大抵の場合強者の情報は何かしらの妨害で視る事が出来無い場合が多い。
しかし今回そう言ったものは無かった。
(流石に良いスキルを持っているな。それに八百歳超えの魔物を見るのは初めてか。)
櫓が調査の魔眼で視てきた中で八百歳を超えていたのは、ティアーナの森の村長だけだ。
魔王で視た中で一番の魔王クラメでも四百二歳だったので、魔王リンガルは倍の年月を生きている事になる。
長い年月を生きれば、その分だけ比例して魔物の実力は高まっていくので、魔王リンガルの実力は計り知れない。
「人間にしては良い目を持っているな。我の強さは見抜けたか?」
櫓がスキルを使った事を魔王リンガルは気付いた。
どの様な魔眼かまでは分からないが、自分の身に異変が起きていない事から、攻撃系統では無い事は分かる。
なので他者の分析をする系統のスキルだと思った様だ。
「お陰様でな。魔法道具で隠したりしなくていいのか?」
スキルを使われた事に気付いているが魔王リンガルは現れた時と同じく平然としている。
櫓のスキルに関して全く気にしていない様である。
「何故隠す必要があるのか。見られたところで我はそう簡単に負けぬ。仮に勝てぬ相手だとしても、我にとっては逃げる事も容易い。」
魔王リンガルは己の力に圧倒的な自信があり、他者に見られても構わないので、隠す必要が無いと考えている。
情報を敵に与えても楽々勝てると考えているのだ。
だが万が一戦闘の結果負けそうになったとしても、逃亡を成功させる自信まであるらしい。
実力があるのは分かっているが、底知れぬ自信家である。
「自信がある様だな。お手並み拝見だ。」
櫓は魔装した足で一気に地面を駆け抜け飛び上がり、空中に浮いている魔王リンガルの背後をとる。
魔王リンガルは未だ櫓が直前まで居た方向を向いている。
空中で腰に差しているミスリルの刀を握り、抜刀の構えをとる。
「天剣五式・皐月!」
超速の居合いを無防備な魔王リンガルの背中に放つ。
ミスリルの刀は魔王リンガルの身体を真っ二つに引き裂くかと思われたが、何かに阻まれ金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く。
「流石に防がれるか。」
「人族にしては中々の動きだな。」
魔王リンガルは見下していた人族が思った以上の動きをした事に少し驚いていた。
しかし櫓の居合いは魔王リンガルに防がれてしまった。
腕だけを後ろに回して、魔装した剣で櫓の攻撃を受け止めた。
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