282話 二体の魔王
「はぁはぁ、危なかったですね。」
洞窟が崩れ去る前に全員無事に抜け出す事が出来た。
後少し遅れていれば、降り注ぐ岩石に押し潰されていたかもしれない。
「気を抜くのは早いですわ。」
「同感だ、本番は今からだろう。」
シルヴィーとリュンが得物を構えて油断無く構える。
二人の言葉が正しいのだと証明する様に、崩れた洞窟の中では戦いが激しくなっていく。
爆発音や衝撃が地表に居る櫓達にも次々と伝わってくる。
ちなみに洞窟が崩れ落ちた事により結界も無くなってしまったので、二人の魔力は感じ取る事が出来ている。
「流石に此処からでは見えないか。」
洞窟の最深部は地面を深く降った場所なので、地表に居る櫓は透視して見通す事が出来無い。
だが見えない状況でも戦いは続いている。
何度目かの衝撃が伝わってきた後、地面の中に居る片方の魔力が膨れ上がる。
「デカいのが来そうだな。全員防御に徹しろ。」
櫓が指示を出すと同時に、二つの膨大な魔力の近くで魔法が爆発して、爆音が辺り一帯に轟く。
爆発は相当な規模であり、地面だけで無く地表の木々や山をも削り飛ばし、球体状の大穴を作り上げた。
直ぐ近くでの出来事だったが、全身を魔装したり障壁の魔眼で障壁を展開する事により、爆発の余波を凌ぐ事が出来た。
「無事か?」
「大丈夫です。」
「問題ありませんわ。」
「同じく。」
全員の無事を確認して一安心していると、離れた場所の地面が盛り上がり、中から何かが飛び出してきた。
其れは美しい人間の女性の様な見た目をしている、魔王クラメであった。
「面倒な事をする奴だ。」
魔王クラメは土で汚れた身体を払っている。
爆発を回避する為に地面の中を移動してきた様だ。
「こそこそと後を追ってきている存在には気付いていたが、お前達とはな。殺されたくなければ去れ。」
土を払い終わった魔王クラメが櫓達の方を向きながら言う。
櫓達と前に出会ったのを覚えている様だ。
敵意を向けてきてはいるが、前に出会った時同様忠告をしてきた。
「話しを聞いてくれ、戦闘の意思は無い。」
櫓達も話しを聞きたいだけで魔王クラメと戦う気は無い。
もしも魔王や魔物を狩っているだけならば、レイクサーペントの魔王であるソウガ同様、人間にとっては害とならない魔王となる。
全てを悪と定める気は無いので、話しを聞いて見極めたいのだ。
「であれば私も用は無い、失せろ。」
だが相手をする気は無い様で、魔王クラメの態度は変わらない。
「戦闘の意思はありませんが、貴方に聞きたい事がありますわ。」
「人間と話す事等無い。私は忙しいのだ。」
魔王クラメの視線はもう一つの膨大な魔力を捉えている。
話しをしながらも一切気を抜いていない。
ゴブリンの方の動きは無く、未だに地面の下である。
「先程から戦っている魔王の事か?」
櫓は状況から予想して尋ねる。
「ほう、分かっていながらこの場に止まるとは、命が必要無いと見えるな。」
櫓の予想は当たっており、魔王クラメが肯定した。
一度しか手合わせをしていないが、魔王クラメの実力はよく分かっている。
その魔王クラメと一対一で平然と戦えるとなれば、相手も同じ魔王である可能性が高いと思った。
「俺達の目的も魔王だからな。」
邪神に辿り着く為には魔王からの情報が必要不可欠だ。
旅の最中も調べてはいるが、邪神の事となると御伽噺くらいしか出てこない。
魔王の情報もそう簡単に手に入る訳では無いので、機会があれば逃す事は避けたい。
「横取りするならばお前達から消すぞ。」
魔王クラメの纏う雰囲気が変わる。
ゴブリンの魔王は自ら仕留める気だ。
理由は分からないが魔王同士で殺し合おうとしている。
「そんな事は考えていない。それにお前の目的は魔石なんだろ?仮に倒しても魔石を譲れば問題無いのではないか?」
櫓の魔石と言う言葉に僅かだが魔王クラメが反応した。
今までに魔王クラメが倒した魔物の死体は、魔石が綺麗に取り除かれていた。
理由は分からないが魔石を集めている事は明確だ。
「面白い事を言うな。確かに私の目当ては魔石だが、人間如きが奴に敵うとはとても思えん。」
魔王クラメは馬鹿にする様に小さく笑っている。
前に戦った経験から、櫓達の実力では及ばないと判断したのだろう。
だが其れから時間が経ち、櫓達は大きく成長した。
あの時とは比べ物にならない程に実力も上がっている。
「ならば代わりにゴブリンの魔王を倒し、魔石を譲れば話しを聞いてくれるか?」
櫓の言葉に対して魔王クラメが口を開こうとしたところで、地面の中に居るゴブリンの魔王に動きがあった。
膨大な魔力が地上に向けて移動してきている。
「興味深い話しをしているではないか。よければ混ぜてもらえるか?」
地面の中から岩石を押し退けて浮遊してきたゴブリンの魔王が、不敵に笑いつつ櫓達を見下ろしながら言った。
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