281話 猪突猛進
「此処も凄まじい状況だな。」
洞窟の中を進んでいた櫓達は、一定の間隔を置いて少し広い空洞に出る。
そう言った場所では苛烈な戦いがあったのか、ゴブリン達の死体が大量に散乱している。
そして外で見たのとは違い殺され方は様々だ。
ゴブリンの中でも上位種族ばかりとなり、洞窟と言う狭い空間での戦いなので、今までの様な殺し方をする余裕が無くなってきたのだろう。
「魔力の反応に近付いてきてますね。」
「二つの膨大な魔力の持ち主は出会っていない様ですから、侵入者側でしょうか?」
洞窟の中から膨大な魔力を二つ感じ取れているが、少し位置がズレている。
ゴブリンを倒しながら進んでいる侵入者の方は、もう一方の魔力の持ち主に近付いているが未だ対面してはいない。
逆に通り道のゴブリンが全て倒されている事から、櫓達が先に侵入者と出会いそうである。
「少しペースを落とした方がいいのではないか?」
「そうだな、相手の出方を先に伺うべきか。」
状況から親しい関係同士では無いと思われるが、櫓達を前にしてどの様な対応を取ってくるか分からない。
「でしたらこの場に待機しつつ、透視の魔眼で状況の把握をしては如何ですか?」
「見えるか分からないが試してみよう。」
櫓は神眼のスキルを発動させて、透視の魔眼を選択する。
透視の魔眼は、使用者の思い通りにどれだけ障害物を透視するか決められる使い勝手のいいスキルだ。
しかし透視出来るのは使用者の視力の範囲内のみなので、透視して見たい物があっても遠過ぎる場合は意味が無い。
更に遠い場所を見る遠見の魔眼と言うスキルもあるが、同時に使う事は出来無いので、遠い場所を透視する事は出来無い。
岩に囲まれた洞窟内部が半透明になっていき、向こう側を見渡せる。
気を付けなければならないのが、透視出来るのは岩だけでは無いので、今後ろに居るパーティーメンバー達に振り向けば、魔王との戦闘どころでは無くなってしまう。
「見えた、魔王クラメだ!」
「っ!」
櫓が透視出来る範囲にゴブリンの死体を作りながら道を進む魔王クラメの姿を捉えた。
大量の返り血を浴びているが、一度対面した相手なので見間違えたりはしない。
「予想通りでしたわね。」
「もう一方は見えないのか?」
「ちょっと待て、更に下まで透視してみる。」
魔王クラメが今居る場所よりも更に下から膨大な魔力の反応を感じる。
視力内の場所ではあった様で、洞窟の最深部である場所を透視によって見通せた。
広い部屋には一体の魔物が居るだけで、他の場所の様にゴブリンが大量に待ち構えている訳では無い。
その場所に居る魔物は、緑色の肌を持ちゴブリン種とは思われるが、今までに見た事が無い見た目をしている。
身長はゴブリンの様に低いが見た目は人間の様であり、緑色の肌を持つ子供と言った感じだ。
「もう一方も見つけた。調査の魔眼は此処からでは使え無いが、魔力量からしても相当強いだろうな。」
「戦うならば情報を得てからにしたいですわね。」
シルヴィーの言う通り、強いと分かっている相手ならば、事前に情報を得てから有利に戦いたい。
相手の手札を知っているのと知らないのとでは、生存確率が大きく変わってくるのだ。
「最後のゴブリンの集団を壊滅させた。もう少しで鉢合わせるな。」
透視の魔眼で見た状況を三人に伝える。
櫓以外の三人は魔力の動きくらいしか分からないので、細かくどんな事を行なっているのかは分からない。
「着いたぞ、最深部だ。」
魔王クラメが洞窟の一番奥に到着した事を確認する。
到着するなり辺りを見回して、ゴブリンの姿を視界に捉えると、いきなり殴り掛かった。
ゴブリンはその攻撃を難無く躱して、魔王クラメの拳は壁を打ち砕く。
その衝撃は洞窟全体に伝わり、櫓達の居る近くの天井からパラパラと砕けた石が落ちている。
「容赦の無い一撃だな。」
「此の場所が洞窟内部だと忘れていませんわよね?」
魔物達からすれば戦いの衝撃で洞窟が崩れ、生き埋めにされたとしても特に問題は無いのだろう。
其の証拠にゴブリンも、お返しとばかりに幾つもの火球を周りに生み出している。
赤々と燃える業火の球を次々と魔王クラメに撃ち出す。
「ちょっとヤバいかもな、洞窟の入り口に少し後退するぞ。巻き添えで生き埋めにされかねない。」
櫓が言った直後、洞窟内に先程と同じ様な衝撃が何度も伝わってくる。
魔王クラメが火球を躱した事によって、壁に着弾して次々と大爆発を起こしているのだ。
見える範囲でも床、壁、天井の岩にヒビが入っていき、バラバラと崩れていく。
洞窟が崩壊するのも時間の問題だ。
「このままだとヤバいですよ!」
「急いで引きますわよ!」
「滅茶苦茶な戦い方をしやがって!」
「まさか洞窟を崩す程とは。」
櫓達は魔装した足で降ってきた道を爆速で駆け上がった。
洞窟から四人が脱出して数秒後、大きな音を立てて洞窟が崩れ落ちた。
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