280話 懐かしい魔力
「我々の旅の目的なのですから、多少の危険があっても向かうべきだと思いますわ。それに一名、反対されても一人で向かいそうな方もいらっしゃいますから」
シルヴィーは櫓の問いに答えつつネオンの方を見る。
予想の段階だが、ゴブリン達の死体から魔王クラメの可能性は高い。
ネオンが幼少期に助けてもらった事に対する礼と、パーティーへの誘いをずっとしたいと思っている相手なのだ。
その機会に巡り会えるかもしれないとなれば、行かない選択肢は無い。
「私は別に個人的な感情で動いたりはしないですよ?仲間の安全の方が大事ですから。ですが魔王に会えるかもしれない機会を見逃すのは無しだと思いますけれど。」
ネオンは平静を装いつつ、ゴブリンの死体が点々と転がっている方をチラチラと見て言う。
早くこの先に向かいたいと言う態度がよく分かる。
「邪神とやらに近付く為には、魔王からの情報が必要なのだろう?ならば避けて通れないのではないか?」
リュンは櫓達に付いて、ティアーナの森の外を見て見聞を広めてこいと村長に言われている。
櫓達の旅の目的も聞かされており、口に出した事が今やるべき事だと判断している。
三人共危険を承知して行くべきだと言ってくれた。
「そうだな。戦闘になろうがなるまいが、進んでみる価値はある。戦闘、撤退、増援要請は状況を判断して決める事にしよう。」
全員が了承したのを確認して道無き道を進んでいく。
進むにつれてゴブリンの死体も増えていき、一つの洞窟が見えてきた。
その洞窟の前にはゴブリンの中でも上位種族のゴブリンキングを筆頭に、様々なゴブリン達が地面を埋め尽くす様に死んでいた。
殺され方も全て等しく、魔石のある部分を貫かれて死んでいる。
「この洞窟の中か。」
「ゴブリン達は洞窟を守っていた様ですわね。」
洞窟の中に続く通路にも同じく死体は転がっている。
洞窟を背にする様に倒れているので、侵入者を排除しようとして返り討ちにされたのだろう。
「ボスがいるのでしょうか。」
「ん?少し待て。」
リュンが何かに気付いて洞窟の入り口に近付いていく。
そしてペタペタと何も無い空間を手で触っている。
「何してるんですか?」
ネオンの目にはリュンが変な行動を突然取った様にしか写っていない。
櫓とシルヴィーも同じく、疑問を浮かべている。
「お前達には見えないか。此処から先に結界が張られている。」
「流石は魔法のエキスパートだな。どんな結界か分かるか?」
リュンは結界を調べ始める。
エルフは弓と魔法を得意とする種族である。
普段自分が使う事の無い魔法でも、知識として持っている筈だ。
「ふむ、気配や魔力等の反応を遮断する結界と言ったところか。結界の外で察知や感知系統のスキルや魔法を使っても、内側への干渉を妨害する。」
結界を調べ終わったリュンが説明する。
結界の内側と外側との情報を遮断して、魔力や気配等の他人の情報を感じる事が出来無い様になっている。
人間、獣人、エルフ、魔物、凡ゆる種族が多かれ少なかれ例外無く魔力を個人的に所有している。
前に櫓が魔王クラメやブラックドラゴンと出会った時の様に、魔力を多く持っている者は遠くに居てもその存在を感じ取れる。
だがそう言った事を結界が阻み感じ取れ無くするので、結界内に膨大な魔力を持つ者が居ても気が付く事が出来無いのだ。
「その結界はどんな意味があるんですか?」
「個人の保有する膨大な魔力、魔法を唱えた際に使われた魔力、結界内から外に向けて放たれる殺気、其れらを私達が判断出来無いと言う事ですわね。」
リュンの説明を補う様にシルヴィーが具体的に教えてくれた。
結界の内側は目で見えているが、文字通り目にも止まらぬ攻撃が飛んでくれば、魔力の反応も結界を抜けるまで無いので、回避する事は至難の業となる。
「ネオンの超直感のスキルならば反応するかもしれないけどな。」
超直感は所有者に危険が迫った時に感じ取る事が出来るスキルだ。
ネオンが危険を感じ取れていなくても、スキルが代わりに教えてくれるので、結界の影響は受けない。
「雑談は此れで終わりだ。結界の近くで話すのは危険過ぎる。」
「そうだな。取り敢えず中に入るとしよう。」
櫓はリュンの前にある見えない結界を通り過ぎ、三人も後に続く。
その直後、先程まで感じ取る事が出来無かった膨大な魔力を二つ感じた。
洞窟を降った奥に居る様で、片方の魔力は覚えがある。
肌でビシビシと感じる程の膨大な魔力であり、魔王クラメと出会った時に感じたものと同じだ。
「当たりみたいだな。知らない奴も居るが。」
「この先にクラメ様が。」
「流石の魔力量ですわね。腕がなりますわ。」
ネオンとシルヴィーも前にクラメと出会っているので、理不尽な程の魔力量を覚えているらしい。
「此れが魔王の魔力量か、凄まじいものだな。」
初めて魔王と出会うリュンだが、膨大な魔力の圧に対して恐怖するよりも笑っているので、心配は無さそうであった。
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