277話 特殊な殺され方
近くに広場を見つけて全ての馬車を停止させる。
騎馬隊には進行方向の安全確認に出てもらっている。
ミズナを防衛戦力として残し、雷の剣の面々も徒歩で探索に出た。
防衛戦においては、ミズナのスキルが最も輝く。
自在に水を操り広範囲を一人でカバー出来るので、非戦闘員の子供達や獣人達を安心して任せられる。
ミズナ以外にも戦闘を出来る者は居るので、危険な状態になっても櫓達が駆け付ける時間を稼ぐくらいは問題無い。
「見えました櫓様、報告されたゴブリンの死体です。」
先行していた騎馬隊の一人が発見した大量のゴブリンの死体をネオンが見つける。
櫓には未だ見えない距離だが、風に流されてきた血の臭いは感じられる。
「百は超えているかもしれませんね。」
見える範囲だけでもそれだけのゴブリンが目に入る。
更に視覚だけで無く嗅覚も獣人として高いので、近付くにつれて血の臭いが強くなっていき、ネオンが鼻を摘んでいる。
「それ程の数となると上位種族でも居たか?」
同じ種類の魔物は強い個体に率いられて集団で行動している場合がある。
なのでゴブリンの中でも上位の個体、又は魔王にまでなった個体もいるかもしれない。
魔王は通常の魔物と違い膨大な魔力を持っており、それを元に魔物を生み出す事が出来るので、死体となっているゴブリン達も魔王が絡んでいる可能性はある。
「上位種族がその中に居ないのであれば、近くに潜んでいる可能性がありますわね。」
上位種族ともなれば戦闘能力だけで無く、知能も高い。
何も考えず敵と定めた相手に突っ込んでいくだけで無く、人間の様に考えて行動する事が出来るので、戦況を見極めて逃げたかもしれないのだ。
「上位種族とは、ランクの高い魔物の事か?」
リュンが櫓達に尋ねる。
ティアーナの森に居た頃は、魔物と戦う事もあったが、人間の様に決まった名前を付けたりランクを定めたりはしていない。
倒せそうであれば自分で倒し、実力不足と判断すれば村長が全て倒してくれた。
なので上位種族と言う概念が分からないのだ。
「そう考えて間違いは無い。今回の場合はランクの高いゴブリン種と言う意味だ。」
一般的にゴブリンと言えば、石や木で手作りした簡素な斧や槍を使う魔物を指す。
上位種族は同じゴブリンであるが、使う武器、体格、戦闘能力等が大きく変わってくる。
前にリュン以外の者が魔法都市マギカルの近くにあるダンジョンで出会ったゴブリンキングがそうである。
「通常のゴブリンと違い厄介な相手と言う事か。」
「交戦する際は気を付けた方がいいですわね。見えてきましたわ。」
話しながら歩いていると、櫓達にも見える距離までゴブリンの死体に近付いていた。
死体が大量に辺りに散乱している。
「っ!?あれは!」
櫓は死体を見るなり走って近付く。
遠目からでは分かりにくかったが、ゴブリンの死体に気になる点があった。
「どうしましたの?」
「シルヴィー、この殺され方覚えてるよな?」
櫓はゴブリンの死体を指差す。
辺りに散乱しているゴブリンの死体は、外傷が殆ど無く魔石のある部分だけが貫通する様に穴が開けられていた。
全て同じ殺され方をされており、今と同じ光景を櫓とシルヴィーの二人は前にも見ている。
「オーガの件と同じですわね。」
シルヴィーもあの時の事は覚えていた様だ。
「つまりあの魔王が近くに居る可能性がある。」
オーガの魔王やオーガ達を此処に居るゴブリンの様に殺したのは、その時の状況的にクラメと言う魔王だったと思っている。
なので同じ様な殺し方をされている現状、クラメが近くに居るかもしれない。
「何の話しですか?」
ネオンとリュンは二人が何を話しているのか分かっていない。
ネオンはオーガの件の時に直接その死体を見ていない。
そしてリュンは未だ出会う前だった。
「リュンは分からないと思うが、ネオンの恩人である魔王がゴブリン達を殺した可能性が高い。と言うのも同じ殺され方をされている死体を、あの時に見ているんだ。」
「っ!本当ですか!?」
ネオンは興奮気味に聞いてきた。
小さな頃に命を救われて、魔王と言う存在であってもきちんとお礼を言いたいと思っていた。
「ネオンさんの会いたい気持ちも分かりますが、一先ず騎馬隊と合流した方がいいですわね。」
「その意見には賛成だ。騎馬隊はその件について知らないから、交戦する可能性がある。」
シルヴィーの言う通り危険な状況とも言える。
魔王クラメは、今よりも弱かったとは言え櫓が全力を出しても軽くあしらわれてしまった相手だ。
騎馬隊の中で一番強いカナタでも、あの強さの前では遠く及ばないだろう。
「そうですね、私達ならば話しを聞いてくれるかもしれませんし。先ずは安全の確保が最優先ですね。」
櫓達は騎馬隊と合流する為に向かおうとしたのだが、その途端騎馬隊の進んでいった方角から激しい爆発音が響き渡った。
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