276話 好きな人に手料理を
櫓達一行が鉱山都市ミネスタを出発して三日が経った。
馬車で移動しているとはいえ、キャラバンの様な大所帯なので進行速度は遅い。
しかし移動している三日間で特に問題は起きておらず、順調に距離を稼いでいる。
目的地である城塞都市ロジックまではまだまだ掛かるが、盗賊に捕まっていた女の子達の故郷には数日あれば着けそうだ。
「百個目完成。ふぅ、少し休憩するか。」
櫓の作業しているテーブルの上には、劣化ボックスリングが山の様に積み重なっている。
馬車の移動中の暇な時間を利用して、手作業で作った物だ。
せっかく拠点に戻るのならば手土産でも持っていこうと思い、何にするか考えた結果、便利な魔法道具であるボックスリングにした。
拠点に居る者達がどれだけ増えたのか既に把握出来ていないので、目標は決めずに大量に作っている。
もし余ったとしても売りに出せば欲しがる者は幾らでもいるので、気にしなくていい。
そして地道に手作業で作っているので、櫓の錬金術師としての腕もかなり上がってきている。
魔力を支払う事によって一瞬で完成させられるスキルの呪文に頼らなくても、ある程度自分で作業出来るのは魔力の節約にもなって都合がいい。
「どうですかミズナ様?」
ネオンの声が聞こえてきたので視線を向けると、緊張した様子でミズナの事を見ている。
そのミズナはというと、両手にナイフとフォークを持ち、テーブルに乗った皿を真剣な目で見ている。
皿の上には形が少し崩れた玉子焼きが並べられている。
「実食・・・。」
一つを口に運び、目を閉じてゆっくり咀嚼して味わってから飲み込んだ。
「甘過ぎてお菓子みたい・・・。玉子焼きじゃ無い・・・!」
ミズナが目をカッと見開いてネオンに言う。
言われたネオンはへなへなと床に座り込む。
「今度こそ形以外は上手く出来たと思ってたのに〜。」
「ご主人のと比べると天地の差・・・。」
そう言いながらもネオンの作った玉子焼きを次々と口に運んでいくミズナ。
この二人が何をしているのかというと、櫓と同じく暇を持て余したネオンが櫓に料理を習いたいと言ってきたのだ。
ネオンは自分の手作りの料理を櫓に食べさせたいという思いであり、櫓は自分以外にも料理を作れる者が増えると料理に割く時間を少なく出来ると言う思いで、意見が合い教える事となった。
定番の卵料理から教える事にして、目玉焼きをクリアしたネオンは玉子焼きに挑戦している。
そしてミズナは味見係りである。
精霊のミズナは食事から魔力を得る事が出来るのだが、返還効率が悪くほぼ無限に食べられる。
更に失敗した物でも文句を言いながら食べてくれるので、料理初心者であるネオンの練習台に丁度いいのだ。
「俺のと比べるな。ネオンと違って何年も料理をしてきたから今の出来なんだ。それに始めたてにしては良く出来ていると思うぞ。」
此方の世界に転生する前は、料理を作る事にハマっていたのもあり、無難に作れているだけなのだ。
始めたてのネオンと比較されてもベースが違い過ぎる。
「食べてみる・・・。」
ミズナが皿を櫓に差し出してきたので、ネオンの作った玉子焼きをフォークで取って口に運ぶ。
自分と同じく評価してみろという事なのだろう。
先ず咀嚼して感じたのは甘さだ。
むしろ甘さ以外感じる事が出来無い。
そして咀嚼する度にジャリジャリと歯が砂糖を砕く音が口の中で鳴っている。
「ネオン、無理に料理しなくても・・。」
「始めたてって櫓様も言ってくれたじゃないですか!?こうなったら絶対に美味しく作ってみせます!」
ネオンは櫓の言葉を聞いて、半泣きで再び玉子焼き作りに戻る。
そのお陰でまだまだ沢山食べられそうだとミズナは嬉しそうにしている。
これ以上は刺激しない方がいいなと思い、別の事をしようとしていると、御者台と馬車内を繋ぐ小窓が開けられた。
「櫓、今御者台に出られるか?」
御者をしているリュンが尋ねてきた。
作業も一段落したので何用かと御者台に向かう。
因みに走行中の御者台への移動手段が、馬車に乗る時に使う扉しかなくて、危険なので小窓の横にも扉を設けた。
扉を開けば直ぐに御者台に出る事が出来て、リュンの隣に腰掛ける。
「どうしたんだ?」
「用があるのは私では無い。」
リュンが指差した方を見ると騎馬として並走しているカナタが居た。
大所帯での移動をサポートする為に戦闘員の何人かに騎馬として軍馬に乗って走ってもらっている。
時々現れる魔物等も馬車と接触する前に倒してくれているので、一々止まらなくても済んでいる。
「すみませんご主人様お休みのところを。用があって呼んで頂いたのは私です。」
「気にするな、それで何かあったのか?」
「はい、進行方向の偵察をしていた騎馬からの連絡なのですが、大量のゴブリンの死体を確認。まだ潜んでいる可能性を考慮して、一度馬車を止めてほしいそうです。」
馬車が止まっている間に危険が無いか探索したいのだろう。
魔物の中では最弱のゴブリンと言えど、数で挑んでくれば万が一もある。
それに軽々倒せたとしても、その大量の死体が邪魔をして、馬車の横転に繋がる可能性もある。
急ぐ移動でも無いので、安全に進む為にはゴブリンだろうと慎重になった方がいい。
櫓はカナタに頼んで後続の御者にも連絡してもらい、全馬車を一時停止させた。
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