269話 有名なのも考えもの
「全員いるな?出発するぞ。」
ドランが戻ってきて皆揃ったので、街の外で待機している獣人達と合流する為に移動を開始する。
家の中の片付けは全て終わり、空き家となったドランの家は、知り合いに譲ったらしい。
ドランの部屋に酒樽が異常な程置かれていたのだが、それなりの値段で家を引き取ってくれた様で、金を全て酒に注ぎ込んでいた。
ドランに劣化ボックスリングを幾つか渡してあるので、持ち運びは問題無いがその量には呆れてしまう。
「この街ともおさらばか。」
ドランが櫓の横を歩きながら言う。
「名残惜しいのか?」
「長年住んだ場所だったからな。ドワーフにとっちゃ立地も悪くなかったしよ。」
鉱山都市ミネスタはその名の通り、鉱山に囲まれた街だ。
様々な鉱石や鉱物が取れて、武器や防具作りに長けているドワーフが中心的な存在と言ってもいい。
実際他の街で全く見掛けなかったドワーフが、この街には大勢居た。
ドワーフ向けの店も多く、一番ドワーフにとって住み易い街だっただろう。
「これから行く拠点も悪くないぞ。俺がスキルを使って快適な環境を作っているからな。」
錬金術の名人のスキルがあれば、作りたい物を思い浮かべただけで作り方や必要な素材が頭の中に流れ込んでくる。
この世界に存在しない物でも、外見や機能を少し変えて実現させる事が出来るので、普段使っている馬車や拠点の中に、魔力で動く電化製品が大量に設置されている。
「鍛治施設も頼むぞ。」
一応拠点には既に簡素な鍛冶場があるのだが、ドラン程の腕前になると、そんな施設では申し訳なくなる。
「任せておけ。久しぶりに拠点に帰るからな、色々弄っていく事にする。」
旅立ってから初めて拠点に帰るので、変わったところも多いと思うが、拠点を使っている者達が快適に過ごせる様に、スキルを使って改造するつもりだ。
ついでに簡素な鍛冶場を撤去して、大きくて立派な鍛治施設を作る予定だ。
ドランが使うのは勿論の事、其方方面に携わっている者達を鍛えてもらう事になっている。
良い施設で腕を磨いてもらえれば、商会にとっても有益となる。
「拠点に着くのに二ヶ月程だったか?着いた後はたっぷり働かされるだろうし、移動中に寛いでおくか。」
確かに拠点に着いてから、ハイヌが言っていた名匠ドランとしての腕を振るってもらう予定だが、無理に働かせる事はしない。
所謂ブラック企業の様にはなりたくないので、奴隷であっても働く時間はしっかりと定めている。
そしてハイヌと言えば、色々あって会えていなかったのだが、フックの村に行く前に稽古を付けてもらう約束をしていた。
ドラゴンの戦いを終えて戻ってきてから、冒険者ギルドに向かい、前に依頼のやり取りをしていた受付嬢にハイヌの居場所を聞いたのだが、急用で暫く戻らないと言っていたそうだ。
鉱山都市ミネスタを離れる事を伝えておきたかったのだが、本人がいつ戻るかも分からないので、戻ってきた時の為に伝言を頼んでおいた。
「それは構わな・・。」
言葉の途中で櫓はある方向を見て神眼のスキルを発動させる。
障壁の魔眼を選択して空中に展開させると、その直後に矢が飛んできて障壁に阻まれ地面に落ちた。
「っ!?攻撃されたのか?」
ドランは少し遅れて攻撃に気付き、周辺を見回している。
既に雷の剣の面々や護衛として購入した奴隷達は、子供達を囲う様に武器を持って立っている。
「ちっ、少しはやる様だな。」
廃墟となった建物の中や陰からぞろぞろと人が現れる。
百人近くいる様で、櫓達は辺りを囲まれてしまっていた。
「護衛付きとは面倒だが、全員殺してしまうか。」
「用があるのはドワーフとガキ共だけだからな。名匠ドランともなれば奴隷商人が幾らで買ってくれるか楽しみだぜ。」
「ミネス盗賊団に目を付けられたのが運の尽きってな。」
既に勝った気でいるらしく、下卑た笑い声をあげながら言っている。
「ミネス盗賊団だと!?」
「厄介なのに目を付けられましたね。」
ドランとカルトは相手について知っている様だ。
「知ってるのか?」
「この辺りで有名な盗賊団だ。まさか街の中に入ってきてるとは思わなかったがな。」
「金の為に殺しも平気で行う連中だと聞きました。」
一応街に入る為の門では入場のチェックがされているが、写真等無い世界なので犯罪者として顔が知れ渡っていない限り、見つけて弾くのは難しい。
「それなら倒して問題無いな。」
「何をごちゃごちゃと言ってやがる、行け!」
盗賊団のテイマーと思われる男が指示を出すと、近くで待機していたファングウルフが二頭、先頭の櫓目掛けて走り出した。
奴隷達が主人である櫓を守る為に動こうとしたが、それを手で制する。
敵の人数が多く囲まれている状況なので、子供達を囲う陣形を崩したくは無い。
「「「きゃあああ!?」」」
小さな子供達が牙を剥き出しにして向かってくる魔物に怯えている。
櫓はボックスリングから取り出した新たな刀を腰に差して、少しだけ前に進み迎え撃つ。
「安心しろ、お前達に攻撃が届く事は無い。」
そう言った櫓は既に刀を鞘に収めている最中だった。
櫓の早技に反応出来た者は、その場に居た者の中でも少ない。
その両脇ではファングウルフが胴体から真っ二つになって崩れ落ちた。
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