267話 元気になった
テトルポート伯爵家の屋敷を後にした櫓は、ドランの家に行く通り道で馬車を購入しながら向かった。
軍馬が大量に手に入ったので、馬は買う必要が無さそうだ。
(馬車は買い終わったが、報酬で貰った金貨がまだまだ余ってるな。これは今後の為に取っておくとしよう。)
報酬で貰った金貨は数えてみたところ全部で三百枚もあった。
この世界に来た時に女神から貰った白金貨三枚分に相当する。
これだけの金を報酬として直ぐに出せるあたり、貴族の財力は凄まじい。
買い物を終えた櫓は大通りから逸れて、脇道を進んで行く。
(そんなに日が経っていないのに懐かしく感じるな。)
暫く進みドランの家が見えてくるとそう感じた。
ミネスタを出て帰ってくるまで一ヶ月も掛かっていないのだが、その間に起こった出来事が濃過ぎた。
ドランの家の前にあるボロボロの門には、三人の子供が門番の様に経っている。
子供達の纏め役やドラン達との出会いのきっかけになった、カルト、ダン、レンの三人だ。
近付いてくる櫓に気付いて手を振っている。
「久しぶりだな、元気にしていたか?」
「お久しぶりです櫓さん。お陰様で皆健康です。」
代表してカルトが応えてくれた。
一応聞いたが外見からも健康なのが見て取れる。
初めて会った時は皆痩せ細っていて、吹けば倒れるのではないかと言った感じだったのだが、今はしっかりと食べれている様で、極端に痩せ細っている者はいない。
「ドランが酒ばかり買っていた様で無く安心した。それより今日の移動の件聞いているか?」
先にドランの家に向かった雷の剣の面々が説明をしてくれる事になっている。
「はい、先程皆さんが来られてシルヴィーさんから説明されました。」
「話しが済んでいるなら早速準備するか、中に入れてもらうぞ。」
ドランの屋敷の中の物は殆ど食料に変える為に売ってしまったが、櫓達がいない間に買い込んだ物が置いてある筈だ。
全てボックスリングの中に仕舞って持っていけば無駄にならない。
「どうぞお入り下さい。二人共見張りは任せたよ。」
カルトと共に中に一緒に入る。
出て行く時とあまり変わっておらず、何も物が無い部屋ばかりだ。
一番変わっている点と言えば、子供達が元気に歩いている事だ。
殆どの子供達が空腹で動く事すら出来無かったのに、今はそんな者は一人もいない。
階段を上がって二階の扉を開くと、ネオンが子供達と遊んでいた。
「あ!櫓様遅かったですね。」
子供達は久しぶりに会えて嬉しいのか、ネオンの事を揉みくちゃにしている。
されるがままの状態でネオンが言う。
「ちょっと知り合いの貴族に呼び出しを受けていてな。報酬を貰って馬車や馬も準備出来た。」
「よかったですね!ちょ、皆落ち着いて〜。」
自分にターゲットが向かない様に玩具にされているネオンはそのままにしておく。
「おかえり!」
子供達の中から小さな身体が櫓の足に飛び付いてきた。
「お、元気にしてたかチサ?」
「うん!」
無邪気な笑顔を浮かべてチサが返事をする。
「そうか、俺も見ての通り元気だ。無事に帰ってきたぞ。」
本当はチサの見た夢の通りドラゴンに追い詰められて、死の直前と言える状態だったのだが、こうして生き残っているので心配させる事を言う必要は無い。
「よかった、ずっと心配してたの。」
櫓達が出発する前に怖い夢をチサが見てしまい、正夢となってもう会えないのではと何度もチサは思っていた。
ドランや他の子供達が強いから大丈夫だと励ましてくれたが、ずっと心配していた。
それが先程ネオン達を見て、櫓の生存を確認してから、心配していた気持ちは消えてずっと笑顔になっている。
皆が無事に戻ってきてくれたのが嬉しくてしょうがないのだ。
「心配は有り難いが、お前達が思っている以上に俺は強いって事だ。」
「そっか!私もお兄ちゃんが戦っているところ見てみたい!」
子供達の前で戦った事は無いので、気になるのだろう。
この世界には娯楽が少ないので、それくらいで喜んでくれるなら全然構わない。
「馬車で移動する時に幾らでも見せてやる。道中には魔物もいるだろうからな。」
「楽しみにしてるね!」
久しぶりなので櫓も子供達と少し話しをしてから、ネオンに遊びの相手を任せて片付けに移る。
食料や調理器具等買い足された物があったので、ドランに渡す様として劣化ボックスリングに仕舞っておく。
「カルト、ドランはどうした?」
一緒に櫓の片付けを手伝っているカルトに尋ねる。
家に来てから一回も姿を見ていない。
ドランだけでなく、シルヴィーとリュンの姿も見えない。
「今日出発と言う話しを聞いて、知り合いに預けていた物を取りに行くと言ってましたよ。シルヴィーさんとリュンさんは護衛にと連れて行きました。」
何を取りにいったか分からないが二人を護衛にするとは、相当用心している様だ。
一度操られたミーシャに酷い目に遭わされているので、外出時に警戒するのは分からなくもない。
戻ってきたら出発する事にして、残りの後片付けをして時間を潰した。
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