261話 呼び出し
(此処だな。)
ゴッツの宿を後にした櫓は早速封筒の中身を確認した。
中には先日の件についての話がしたいので、屋敷に訪れてほしいと言う内容が書かれた手紙が入っていた。
テトルポート伯爵家の屋敷がある場所を櫓は知らなかったのだが、大まかな位置が手紙に記されていたので、通行人に確認しつつ辿り着けた。
(伯爵家と言うだけあってデカイな。)
貴族の屋敷は権力や財力の象徴にもなるので、大きく豪華に作られている。
テトルポート伯爵家も相当な広さがあり、隣接する建造物は無く敷地が広く取られている。
(そう言えば貴族の屋敷の、正式な入り方なんて知らないな。)
手紙には訪れてほしいと言う内容だけしか書かれていなかった。
貴族の家と言えば過去にも訪れた事はある。
フレンディア公爵家に行った時は、事前に馬車で招待されたので、黙って連れて行かれるだけだった。
権力で街を支配しようとしていた貴族の家に行った時は、最初から戦闘モード全開で殴り込みを仕掛けたので、まともな入り方はしていない。
なので普通の入り方と言うのをした事が無かった。
(取り敢えず門から入るしかないよな。)
櫓は屋敷に入る為に設けられている門に向かって歩いていく。
門では四人の騎士が見張りをして立っており、櫓が近付くにつれて警戒している様である。
「止まれ!何様だ!」
騎士の一人が櫓に槍を向けながら言ってくる。
いきなり酷い対応だなと櫓は思ったが、騎士達からすれば貴族関係者に見えず、普通の冒険者が訪ねてきた様にしか見えないので警戒して当然だった。
「この家の主人に会いたいんだが、話しを通してくれ。」
「主人に会いたいだと?今日面会の予約は入っていない、出直してこい。」
騎士の一人がワラ半紙を取り出して確認して言う。
貴族に面会を希望する者は前もって連絡をして、見張りの者達に許可されてから通るのが一般的だ。
「出直してこいと言われても今日街を出るんだが。あ、それならこの封筒でどうだ?」
櫓は手紙が入った封筒をテトルポート伯爵家の家紋が見える様に差し出す。
それを見て騎士達は驚いている。
「そ、それはテトルポート伯爵家の家紋!?」
「貴族の方でしたか?」
それを見た騎士達の反応は劇的に変わる。
武器も下ろして客として扱ってくれる。
「別に貴族では無いが、手紙で呼び出されたので来た・・。」
「お前達何をしている!」
櫓が騎士達に説明をしていると門の奥から声が掛けられる。
全員その声を聞くとビクリと反応して慌てて振り向いている。
「と、トリアン騎士団長!?」
騎士達がそう言って近付いてくる女性に敬礼している。
「直ぐに門を開けろ。」
「はっ!」
騎士の一人がトリアンの指示を受けて慌てて門を開ける。
櫓は門を通って中に入り、騎士達に命令した人物の顔を見た。
「見覚えのある顔だと思ったら、お前はあの時の騎士か。」
劣化ボックスリングを売っている時に襲ってきたテトルポート伯爵家の騎士達の中に居た女性だ。
凛とした顔立ちの美人で、他の騎士達と雰囲気が違ったのを覚えている。
「トリアン騎士団長になんて口を!」
「お前達こそ口の聞き方に気を付けろ。この方はミーシャ様の客人だぞ。」
トリアンが一喝すると騎士達の表情は真っ青になる。
知らなかった事とは言え、自分達が仕える主人の客に対して、乱暴な言葉遣いをして武器を突き付け追い返そうとしたのだ。
途中からだったがトリアンもその光景を見たので怒っている。
「俺の事なら気にするな。その騎士達もあの場に居合わせなかったのなら知らなくて当然だ。」
あの場に居た騎士であれば櫓の事を覚えていない筈が無い。
平民の冒険者が貴族と騎士を一方的に倒してしまったのだから、時間が少し空いても記憶に新しいだろう。
「うちの騎士がすまなかった。私からも謝罪を。」
トリアンは深々と頭を下げて謝罪してくる。
爵位の低い貴族の家で継承権が無い次男や次女が騎士に付く事が多い。
騎士団長と言う地位から、トリアンが貴族である可能性が高いが、部下の責任を取って頭を下げてくるのは、貴族にしては高評価だ。
「気にするなって言ってるだろ。それよりも早速手紙の件について頼む。俺は今日この街から出る予定でやる事があるんだ。」
テトルポート伯爵家の家に来たのは完全に予定に無かった事だ。
ゴッツの宿の後は馬車を購入してドランの家に行き、ドラン達を連れて街の外に向かいながら馬を購入して、待っている獣人達と合流して出発と言う流れだった。
「街から出るのか、何か急ぎの用でもあるのか?」
「急ぎと言うか長旅の用事がな。この後その為の買い物がある。」
「成る程、時間はそれ程取らせないつもりだ。屋敷の中にミーシャ様が居るから付いて来てくれ。」
そう言って屋敷に向かうトリアンの後を付いて行った。
閲覧ありがとうございます。
ブックマークやポイント評価よろしければお願いいたします。




