257話 笑顔の仮面
「有難う御座いました!」
櫓は店員に見送られて店を出る。
既に何軒も周って馬車と馬を買い漁っている。
「これだけあれば足りそうだな。」
「獣人の皆さんが使っても余裕があるでしょうね。」
クロードが櫓に言う。
馬車や馬を買い漁っていたのだが、馬車はボックスリングの中に仕舞えるので嵩張ら無いが、馬は入れる事が出来無い。
相当な数の馬も用意しなくてはならないので、クロード達三人の手を借りている。
購入した馬を順番に街の外まで運んでくれている。
「なら買うのはここまでにしとくか。この馬も任せていいか?」
「お任せ下さい。」
クロードが最後の馬を櫓から受け取り、手綱を引いて歩いて行った。
相当な金が手元から消えたが、持ち金で足りた。
(食料も買い足しておくか。)
鉱山都市ミネスタに戻る迄に百人以上の食事を賄う為の大量の食料が必要だ。
ボックスリングの中の魔物を解体したり、狩りをしながらと言うのもいいが、用意しておくに越した事は無い。
どうせボックスリングの中に入っている物の時間経過は止まるので、買って使わなかったとしても無駄になる事は無い。
直ぐに食べれる物を中心に購入していき、他にやる事が無くなったので櫓も街の外で待機している者達と合流する為に門へと向かう。
通りを歩いていると視界の端で大きな物が自分に向かって飛んでくるのが見えた。
「おっと。」
身体を捻って避けると、地面に落ちて少し滑っていく。
見ると飛んで来たのは男の奴隷だった。
「申し訳無い、勢い余って随分と飛ばしてしまった。ぶつかって怪我等していないか?」
櫓の背後、男が吹き飛ばされてきた方から声を掛けられる。
振り向くと其処には見知った顔があった。
「危ないだろうリュン、気を付けろ。て言うか何してんだ?」
声を掛けて来たのは先程別れたばかりのリュンだ。
エルフであるリュンが街中を普通に歩いているが、櫓が渡した魔法道具があるので問題は無い。
雷の剣以外には人間の女の子として見える様になっている。
本人はどうして女なのだと抗議してきたが、普段の格好と声からどう判断しても女の子の方がしっくりくる。
仲間内で話し合って決められ、リュンは渋々受け入れた。
「なんだ櫓だったか。見ての通り奴隷商店で話し合いの最中だ。」
リュンが後ろの奴隷商店を指差して言う。
奴隷の男を吹き飛ばしているところから、随分と荒い話し合いの様だ。
店の方を見ると、外には街の外から連れて来たであろう奴隷達が縛られて放置されている。
店の中では何人もの奴隷達が倒れており、その真ん中でシルヴィーが立っているのが見える。
「派手に暴れている様にしか見えないぞ。」
「自己防衛した結果だ。店を尋ねて奴隷達を突き付けたら、口封じにと襲われたのでな。」
その結果が現状の倒れ伏している奴隷達の様だ。
シルヴィーとリュンが相手では、普通の奴隷では相手にもならないだろう。
カナタぐらい強い奴隷であれば話は別だが、それ程強い奴隷を扱ってる店は少ない。
「何か分かったか?」
奴隷商人が自分の奴隷を使って獣人達を襲わせた理由だ。
普通の人間よりも身体能力が高いので、商品としては高値で取り引き出来る。
だが身の危険を犯してまで手に入れるレベルでは無い。
「シルヴィーが今調べている最中だ。襲ってきた事を考えれば黒確定だな。」
奴隷達の主人の名前は調査の魔眼で視ている。
なのでその人物が誰かに脅されて命令したとかで無ければ、今回の騒動を起こした人物と言う事になる。
「随分と怖い顔をしながら調べるもんだな。」
店の外からだがシルヴィーの横顔が見えた。
店主と思われる者に槍をつき付けながら、笑顔で何かを言っている。
知らない者が見たら笑っている様に見えるが、付き合いの長い櫓からしてみればそうは見えない。
一歩間違えれば命を失う様な出来事だったので、正義感の強いシルヴィーは相当怒っている筈だ。
笑顔の裏に怒りが見える気がして、普通に怒っている時よりも怖く感じられる。
「怖い?笑っている様に見えるぞ?」
リュンはシルヴィーと出会ってそれ程経っていないので、感じ取る事は出来無い様だ。
「その内分かる。俺はこの後必要そうな者を連れてくるから、此処は任せたぞ。」
「必要そうな者?」
リュンはイマイチ分かっていない様である。
櫓は似たような経験を城塞都市ロジックに居る時に経験している。
問題を起こした奴隷商人が捕まった場合、問題の真偽を確かめる為に冒険者ギルドにある過去を見る魔法道具を使ったり、その奴隷商店に居た奴隷を他の奴隷商人が受け取ったりする。
予め用意しておけば、スムーズに事が進む。
「捕まえる為の準備と言ったところだ。」
「分かった、この場は任せておけ。」
リュンは店の中に居るシルヴィーの方に歩いて行った。
その途中で倒れていた奴隷の中で起きあがろうとしている者達を、鞘で軽く叩いて意識を奪っておく。
奴隷を逃す心配も無さそうであり、櫓は冒険者ギルドに向かった。
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