252話 タイムリミット
ドラゴンは油断する事無く次の攻撃を直ぐに放とうとする。
追撃の無詠唱魔法で極大の火球を生み出す。
『がはっ!?』
だが攻撃を放つ前に腹に激痛が走る。
一瞬で移動した櫓が下から殴りつけたのだ。
雷の爪も中に食い込み、肉を内側から焼いていく。
ミズナに使われた壊霧並みのダメージで、硬い鱗が割れて血が吹き出す。
『離れろ!』
ドラゴンの黒い身体が熱を帯びて赤く染まる。
その後全方位に向けて炎を放出する。
だが櫓はその攻撃を回避しない。
既に破壊と殺戮の衝動に駆られているので、冷静な判断をしたりはしない。
櫓の身体がドラゴンの放った炎に包まれる。
しかし櫓が雷帝のスキルで纏っている強力な雷によって炎は弾かれダメージを受けない。
『ぐはっ、ぐうっ!?』
今度は手足に纏った雷の爪で全身をズタズタに斬り裂いていく。
ドラゴンの硬い鱗の筈なのだが、鋏で紙を切る様にスパスパと切り傷が付いていく。
櫓の攻撃を止めようと魔装した腕を振り回すが、全身に雷を纏って強化された櫓の動きは、常に神速と言える次元の速さだ。
Sランクのドラゴンと言っても、その動きには全く追い付く事が出来ず、ダメージだけが蓄積されていく。
『ぐあああああ!?』
ドラゴンは身体を斬り裂かれる何倍もの激痛に叫び声をあげる。
櫓がドラゴンの体内に手を食い込ませ、雷帝のスキルで雷を流し込む。
雷に体内を焼かれる痛みは想像を絶した。
ドラゴンは振り解く為に最強のプライドも捨てて無様に転げ回る。
だが櫓は回転した勢いで地面に打ち付けられようとも離れない。
そのまま体内に食い込ませていない方の手で至近距離から雷のレーザーを放った。
ドラゴンの身体を貫通する事は無いが、その勢いだけで無理矢理上に大きく打ち上げる。
上空に打ち上げられたがミズナの壊霧によって翼は使い物にならなくなっているので、重力に従って下に落ちていく。
ドラゴンが苦しみながらも下を見ると、櫓が物凄い速度で向かってきていた。
足に眩い程の膨大な雷を纏って回し蹴りを放ってくる。
『はあっ!』
ドラゴンは空間が歪んで見える程の圧倒的な魔力で魔装した爪を振り下ろす。
櫓の足とドラゴンの爪がぶつかり、爆音を響かせ櫓が地面に吹き飛んでいく。
地面に突っ込んだ櫓によって、大きく地面にクレーターを作る。
だがその代わりにドラゴンの頑丈な爪も半ばから折れてしまう。
『死ね!』
櫓を仕留める事に集中しているドラゴンは、爪が折れた痛みなど感じていない。
このまま櫓を生かしておいては、自分の命にも危険が及ぶと本能で分かってしまった。
火炎吐息のスキルで口内に生み出した炎を地面に向けて放つ。
櫓は地面に埋まりながら上を見上げているが、視界が炎のみに染まる。
「がああああ!」
櫓が初めて低い唸り声を上げた。
少し開かれた口からはバチバチと雷が溢れている。
そしてガバッと開いた口から口内に溜めていた雷を放った。
雷のブレスは相当な威力を持っており、炎のブレスを一気に掻き消してしまった。
そのまま突き進みドラゴンをも飲み込む。
『ぐあああああああ!?』
全身を包む雷がドラゴンの身体を破壊していく。
全身を覆う硬い鱗はバキバキに壊され、その下にある肉は激しい雷で焼かれていく。
それと同時に身体の内側に流れている雷も器官を損傷させていく。
耐え難いダメージを全身に負ったドラゴンは、長い年月を生きてきた中でも初めての満身創痍と言った状態だ。
これ以上ダメージを受ければ間違い無く命が危うい。
『はぁはぁはぁ、ぐはっ。』
血を吐き出し、全身血まみれになりながらも、必死に魔法で回復していく。
既に櫓の攻撃で全身ボロボロになった上に、雷の効果で痺れて全く動けなくなっていた。
なので迎え撃ちたくても出来無いのだ。
しかしドラゴンが必死に回復するしか無い状況なのに櫓からの追撃は無い。
おかしく思いつつもドラゴンは回復するしかないので、魔力を沢山使い櫓に負わされた傷を癒していく。
暫く回復に専念していると全身の痛みも無くなり、部位が欠損している場所以外全て元通り回復する事が出来た。
魔力を大分使ったが自動魔力回復のスキルもあるので問題無い。
『ふははは、そう言う事か。』
何故瀕死の自分に止めの攻撃を仕掛けてこなかったのかと櫓を確認してみると、地面に仰向けに倒れて気絶していた。
全身に纏っていた雷も無くなっており、超強化された状態が魔力切れによって解けたのだ。
度重なる神速の移動に加えて、ドラゴンをも上回る火力の攻撃、一分も経たずに魔力が底を付くのは当然だ。
櫓は制限時間内にドラゴンを倒す事が出来無かった。
『これで本当に最後だ、死ぬがいい!』
ドラゴンは勝ち誇った様に上段に構えた腕を櫓目掛けて振り下ろした。
気絶している櫓は迫り来る巨大な腕に反応する事は無い。
「やれやれ、何とか間に合ったみたいだね。」
そう口にした獣人の女性は膨大な魔力で魔装した短剣でドラゴンの腕を弾き返した。
ドラゴンは突然の事に驚いている。
そして直前まで存在していた筈の炎のドームも消え去っていた。
「私の弟子になったばかりなんだ、そう簡単に死ぬんじゃ無いよ。」
『なんだ貴様は!』
ドラゴンは獣人を見て威嚇する様に咆哮を上げる。
自分の腕を弾いた事からも油断はしていない。
「さて、まさかドラゴンとはね。生き残れるかどうか。もっと酒を呑んでおくんだったよ。」
取り出した妖霊酒を煽って、口元を拭い不敵に笑いながらハイヌが言った。
閲覧ありがとうございます。
ブックマークやポイント評価よろしければお願いいたします。




