251話 一か八か
全身を雷に包んだ櫓にドラゴンの攻撃が襲い掛かる。
地面からは火柱が上がり櫓を飲み込む。
その火柱目掛けて四方八方から炎の矢が突っ込んでいき、炎の勢いが更に増す。
追い討ちとばかりにドラゴンが放った火球が飛んでいき、火柱にぶつかると櫓の居た周辺が丸ごと灼熱の業火に包まれる。
『ふははは、これで骨も残るま・・。』
ドラゴンの言葉は最後まで続かなかった。
言い終わる前に頭に激しい衝撃を受けて、地面に叩きつけられる。
『ぐふっ。』
いきなりの攻撃にドラゴンは混乱していた。
精霊であるミズナは先程倒した。
そして目の前に居た櫓も炎の攻撃に包まれたのを自分の目で確認している。
炎のドームの中に生き残っているのはドラゴンしかいない筈だった。
「俺は未だ生きているぞ。」
ドラゴンの頭上から櫓の声が聞こえた。
頭を攻撃したのは勿論櫓である。
ドラゴンによる複数の同時魔法攻撃は、炎に包まれる寸前に余裕で回避していた。
攻撃を回避した後に空中に飛び上がって、ドラゴンの頭を上から思い切り殴ったのだ。
Sランクに指定されているドラゴンでも、この速さの攻撃に対応するのは厳しい様だ。
しかし対応出来て無いだけで、ダメージはそれ程与えられていない。
『小癪な人族めが!』
頭上から聞こえた声に反応して、空中の櫓を睨みつつ巨大な口を開けて喰らい掛かる。
だが櫓はその顔を横から再び殴り付ける。
目の前に櫓が見えているので、ドラゴンは何が起こったのか分かっていない。
するとドラゴンの目の前に見えていた櫓が霞の様に消えてしまった。
ドラゴンが見ていたのは、櫓の動きが速過ぎてその場に残っていた残像の姿だった。
「速いが火力が足りないか。」
ドラゴンを圧倒する速度で攻撃しているが、頑丈な身体を持ち、余りある魔力で魔装された防御力は簡単に突破出来無い。
「破魔閃雷脚!」
更に足に雷を纏わせて、眩しい程の足でドラゴンの身体を蹴り付ける。
流石に今の状態での体術は威力が高く、硬い鱗を粉砕して肉を抉って血飛沫が舞う。
『ぐうっ、おのれ・・・。』
ドラゴンも反撃として様々な魔法を放ってきているが、どの攻撃も今の櫓にしてみれば遅過ぎて掠る事も無い。
ドラゴンもそれは分かっているので、攻撃はしつつも光魔法での回復を優先している。
(雷帝のスキルで強化した体術ならばダメージは与えられる。だが焼け石に水だな。)
櫓が魔力を多大に支払う事によって、やっとドラゴンにダメージを与える事が出来るが、魔法で回復出来てしまう程度のダメージでしかない。
ドラゴンにとっては致命傷とまではいかないダメージであり、ミズナの壊霧で与えた致命傷には遠く及ばない。
(現状で意識を保つのがやっとだが、このままでは倒しきれずに俺が殺される。)
既に雷帝のスキルで全身に雷を纏っている。
その力に飲み込まれて意識を失わない様に、意識を保つ事に集中してギリギリ活動出来ている。
少しでも気を抜けば意識が持っていかれそうな状態だ。
そんなギリギリの状態なのだが、致命傷を与えるには至らない。
(ドラゴンの回復が間に合わない程のダメージを与えなければならないが、意識は確実に失うよな。)
現状は意識を失わないギリギリの雷を全身に纏っているだけなので、全力とは言えない。
なので更に攻撃力を上げる事は出来るのだが、そうした場合確実に櫓の意識は無くなり、力に飲み込まれた破壊と殺戮衝動の化身となってしまう。
(迷っている時間は無い。これに賭けたんだからやるしかない。)
雷帝のスキルで全身に雷を纏うこの技は、櫓の攻撃力と速度を爆発的に強化する事が可能だ。
だがその反面魔力の消費量が凄まじい。
常人よりも多い魔力を有している櫓であっても、全力を出せば一分と掛からず魔力切れを起こしてしまう。
今も魔力は爆速で減り続けていて、魔力切れのタイムリミットは近付いている。
『燃え尽きろ!』
ドラゴンは魔法で櫓に受けたダメージを回復しながらも、火炎吐息のスキルで炎のブレスを放ってきた。
それと同時に櫓の纏う雷の量が更に増え、雷の眩しさで光って見える。
炎のブレスは櫓を飲み込むかに思われたが、櫓の纏う雷で弾かれ二つに分断されながら後方に流れていく。
『なっ!?』
炎のブレスが弾かれて驚くドラゴンの前で櫓が右手を持ち上げる。
突き出された右手に雷が集まり、これまで放った技とは比較にならない程の威力を持ったレーザーを放った。
レーザーは巨大で強力、まるでドラゴンのブレスの様である。
『それしきの攻撃!』
ドラゴンは再び火炎吐息のスキルで炎のブレスを放った。
櫓のレーザーが凄まじい威力を秘めていたので、ドラゴンも全力の上をいく。
いつもよりも多く魔力を使って、威力を今迄以上に高めた一撃だった。
雷のレーザーと炎のブレスは真っ向からぶつかり、威力は拮抗している。
『我の全力以上と互角だと!?』
拮抗していた二つの攻撃は、互いに押されず押し切れず、限界を迎えて激しい爆発音を上げた。
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