249話 回復と引き換え
櫓は何度もドラゴンの攻撃を躱しながら、足元の魔法陣も素早く移動して回避する。
数分すると足元に現れていた魔法陣がやっと消えた。
「や、やっとか。」
火柱の魔法陣から解放されたが、ずっと高速で移動していた事もあり、体力と魔力を大きく消耗していた。
更に炎のドームに囲まれているせいで、中の気温が上がっていき、顔から汗が滴っている状態だ。
『休む暇は与えんぞ。』
ドラゴンは無詠唱の魔法で人形サイズの炎の矢を複数放ってくる。
既に先程見ているので、直線的な動きと分かっており回避するのは簡単だ。
だが櫓が炎の矢の軌道から逸れたのに、地面に着弾せずに空中で曲がって櫓の後を追ってきた。
「なっ!?」
驚きつつもジグザグ走行したり、速度を上げてみたりしたが、振り切る事は出来無い。
『我の魔法の練度を甘く見無い事だ。』
ドラゴンは炎の矢を放った後に回避される事を見越して、風魔法で軌道を操っていた。
前にネオンとシルヴィーが魔法同士を合わせて炎の竜巻を作った様に、ドラゴンも複数の魔法を組み合わせた技だ。
これは一人でやるとすれば複数の魔法適正が無ければ出来無い事であり、その適正があったとしても相当な訓練を必要とする芸当だ。
風魔法で操られた炎の矢は、回避する櫓を何処までも追いかけると同時に加速してその距離を詰めていく。
「逃げていてはジリ貧だな。」
どれだけ速く動いても振り切れ無いので、魔力を消費し続けるより迎え撃つ事にして振り向く。
「拡散雷撃弾!」
雷帝のスキルで両腕に纏わせた雷を球体にして発射する。
それと同時に魔力残量が僅かとなり、軽く身体がふらつく。
球体は空中で幾筋もの雷へと分かれて、炎の矢に当たり相殺していく。
だが風の魔法で軌道を操られているので、一つだけその中から横に飛び出し櫓に襲い掛かる。
既に回避に使える程の魔力が残っていない櫓は、回避するのは無理だと判断した。
少しでも威力を弱める為に神眼を発動させて、障壁の魔眼を選択して、炎の矢の前に障壁を展開する。
だが風魔法での加速が加わり、威力の増した炎の矢は軽々と障壁を粉砕してしまう。
(ヤバい。)
魔力切れ寸前で思考が普段よりも働かないが、炎の矢が当たる事は理解出来る。
少しでも直撃を避けようと必死に身体を動かそうとしたが、そのタイミングで左腕に付けている精霊の腕輪が輝きだした。
「水城壁・・・!」
ミズナが実体となって現れると同時に、水帝のスキルによって水の壁を作り出す。
炎の矢はミズナが作り出した水の壁に突っ込み、消火音を残して消えた。
「おまたせ・・・。」
櫓の方を振り向き、いつもと変わらない雰囲気でミズナが言う。
「助かった、間に合わなくて死ぬかと思ったぞ。」
今の炎の矢を受けていれば、間違い無く致命傷だった。
次のドラゴンの攻撃で仕留められていただろう。
『そんなところに隠れていたか精霊よ!お前に受けた分、倍にして返してやるぞ!』
ドラゴンが火炎吐息のスキルによって炎のブレスを放ってくる。
魔力をいつもよりも多く使っているのか、今迄よりも広範囲かつ高威力の攻撃になっており、魔力切れの櫓が近くに居る現状では、防ぐ選択肢しかミズナには無い。
「大水城壁・・・!」
水帝のスキルで作り出した水の壁は、普段よりも更に一回り大きい。
炎のブレスが当たり、水の壁が揺れる。
水の壁が無い端の部分から櫓達の左右を激しい炎が後方へ抜けていく。
ミズナが手を翳して水の壁を支えているが、勢いが凄まじく押し負けてしまいそうだ。
櫓はミズナが作ってくれたチャンスを活かして、ボックスリングから取り出した上級ポーションを口に流し込む。
咳き込みそうになる苦味が櫓を襲うが、我慢して飲み干した事により体力と魔力が完全に回復する。
『隙を見せたな!』
だがドラゴンも櫓の回復を黙って見逃さない。
ポーションを飲んでいる最中に炎のブレスを吐くのを止めて魔法を発動させる。
櫓達の地面の近くから鋭い石が何本もランスの様に突き出してきた。
「ご主人・・・!」
ポーションを飲んで対応出来無い櫓の代わりに、ミズナが水の箱で櫓を包んで守ってくれた。
しかしその攻撃は櫓だけに向いていた訳では無い。
櫓を守る事が出来たがミズナは石のランスで腹を深々と貫かれてしまった。
「ぐっ・・・。」
「ミズナ!」
ミズナは復活したばかりだと言うのに、本気を出したドラゴンによる連続の攻撃で仕留められてしまった。
身体が光りの粒子となって消えていく。
また魔力を与えて蘇らせるしかない。
だがこれでまた暫くミズナの助けは期待出来無くなってしまった。
『魔力の回復と引き換えに精霊は殺れたか。』
ドラゴンにとっては櫓に魔力を回復された事よりも、ミズナを倒せた事の方が大きかった。
元々魔力量が非常に多く、常に自動魔力回復のスキルを持っているドラゴンは、魔法を連発しようとも櫓よりも早く魔力が無くなる事は無い。
ミズナが復活する前に櫓の魔力を枯らせれば、それで勝負が付く。
ドラゴンは上機嫌で死の近い櫓を見ながら思った。
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