248話 お遊び終了
「なっ!?」
半ばから折れてしまった霊刀を見て言葉を失う。
生きるか死ぬかの大事な場面で、武器が無くなってしまうのは、かなりの痛手だ。
女神カタリナから貰った霊刀は、この世界に転移してきた時からずっと使っていた武器である。
手入れもしっかりしていたのだが、これまでの戦いでの魔装や雷帝のスキルによる雷を纏わせる行為で、少しずつダメージを蓄積してきたのだろう。
そして先程ドラゴンの強固な身体を斬り裂く為に、雷を纏わせたまま神速の速さを上乗せした攻撃を繰り出した事により、ダメージを与える事が出来たが、霊刀の負担も相当なものだった様だ。
その負担で限界を超えて、耐えられなくなった霊刀は折れてしまった。
(嘘だろこんな時に!?霊刀が無ければ、このドラゴンに通じる武器なんて持って無いぞ。)
ボックスリングの中には剣や槍等の武器が大量に入っているが、全て粗悪品ばかりで櫓の腕には合わない。
粗悪品を使うくらいならば、体術で戦った方がダメージを与えられそうな程だ。
『人族がやるではないか。侮っていた事は認めよう。本気で相手をしてやる!』
回復をして櫓に斬られた部分の止血を終えたドラゴンが咆哮と共に言ってきた。
実際ドラゴンはかなり手を抜いていた。
人間なんて自分にとっては無力な餌に過ぎなかった。
そんな相手に全力を出す方がおかしな事である。
常にドラゴンに狩られる立場にあり、稀に逆の事が起こるとすれば、何千人と言う大群で挑んできた時くらいのものだ。
なので強い力を持つ精霊と組んでいたとしても、人間と精霊の二人相手に圧倒的強者の自分がお遊びでも劣るとは全く考えていなかった。
しかし現状は羽ばたく手段を奪われ、身体の様々な箇所にダメージを受けている。
櫓を危険と判断して全力を出す事にしたのだ。
(このタイミングはヤバいか。一度ミズナが出てくるまで退却した方がいいな。)
これまで以上の力を出してくるとすれば、武器である霊刀が折れてしまった現状で対抗するのは厳しい。
体制を立て直すべく、雷帝のスキルで足に雷を纏い距離を取る事にする。
『そう何度も上手くいくと思うな!』
ドラゴンは櫓の足に雷が纏ったのを見ると、今迄の様に素早く動かれて逃げられてしまう前にと、魔法を使用する。
無詠唱で放たれた魔法により、櫓と十メートルを軽く超える体躯を持つドラゴンをも余裕で覆える程の巨大過ぎる魔法陣が地面に浮かび上がる。
あまりの大きさに櫓は地面を見ただけでは、魔法陣かどうか判断がつかない程だ。
その魔法陣によってドーム状の炎の檻が完成して、広いながらも櫓は完全に閉じ込められてしまった。
ドームを形成している炎は轟々と燃え盛っており、中の気温は徐々に高まっていく。
「ちっ、先手を打たれたか。」
それでも櫓は閉じ込められているドームの近くに一瞬で移動する。
閉じ込められたとしても、破壊して出ればいいと判断したからだ。
ボックスリングから鉄剣のロングソードを取り出す。
粗悪品であっても一度だけは、天剣の技に耐えられる事は実証済みだ。
『黙って見ていてやると思うか!』
ドラゴンはそれを見逃してはくれない。
新たに魔法を使用して櫓の足元に魔法陣が浮かび上がる。
櫓は一先ず攻撃を中断してその場を飛び退く。
直後魔法陣からは勢い良く火柱が噴き出す。
回避が遅れていたら飲み込まれて焼かれていたところだ。
だが安心したのも束の間、飛び退いて着地した場所にも新たな魔法陣が現れる。
「休む暇も無いか。」
この攻撃も急いで回避するが、次の着地した地面にも魔法陣が浮かび上がる。
ドラゴンが使った魔法は、櫓が地面を移動する毎に足を付いている場所に火柱を噴き出す魔法陣が浮かび上がる高度な魔法である。
無限では無いが暫くの間、同じ場所に留まる事は許されず、常に移動が強要される。
次々と地面から火柱が噴き出しており、櫓の体力と魔力が削られていく。
『足元ばかり見ていていいのか?』
ドラゴンは火炎吐息のスキルを使い口内から炎のブレスを広範囲に放ってくる。
地面の魔法陣に視線がいっていた櫓は、ブレスに対して反応が遅れてしまう。
「神速歩法・電光石火!」
やむを得ず魔力の大幅な消費を覚悟して回避する。
途中でドラゴンの魔法陣による火柱の攻撃を利用して、ドラゴンの下を潜り抜けて魔法陣を幾つも地面に設置しておく。
神速の移動が終わり、時が動くと一斉に火柱が噴き出し、ドラゴンに襲い掛かる。
『自分の攻撃にやられる阿保が何処に居る。』
火柱を受けながら平然としているドラゴンには、全くダメージが入っていない様である。
(化け物が。ポーションを飲む事が出来無いと本当にやばいな。)
一度はポーションで回復したものの、魔力がどんどん減っている事に走りながら思う。
火柱を高速で走りながら回避している現状では、ポーションを飲む暇が無い。
今は回避しながらミズナの復活か魔法陣の効果切れを待つしか無かった。
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