247話 攻撃の代償
「ミズナの攻撃は確実に効いているな。」
遠くから様子を窺っていた櫓は、ミズナの壊霧がドラゴンに確実なダメージを与えているのを確認した。
既に命を失ったミズナを蘇らせる為の魔力は与えてある。
即復活とはいかない様なので、少ししたら腕輪から現れるだろう。
しかし今目の前で怒っているドラゴンは、それを待ってはくれない。
ミズナがいなくなったので、標的が櫓に向いている。
『精霊を何処に隠した!』
火炎吐息のスキルで口内に燃え盛る炎を生み出して放ってくる。
ミズナがいないので防ぐ事は出来ず回避するしか無い。
広範囲のブレス攻撃なので、普通の回避では逃げきれない。
雷帝のスキルで足に雷を纏って、その場から一瞬で移動する。
どんなに強力な攻撃であっても、当たらなければ意味が無い。
(ミズナが命を張ってダメージを与えてくれたんだ。それに続くしかないな。)
回避しながらドラゴンの距離を詰める。
櫓は逃げるばかりでは無く攻めに出る事にした。
ミズナのおかげでドラゴンは片翼を失い、飛ぶ事が出来無い状態だ。
厄介だった空中戦をしなくてよくなり、かなり戦いやすくなった。
『ちょこまかと小賢しいわ!』
ブレス攻撃を止めたドラゴンは無詠唱の魔法を使う。
ドラゴンの黒い身体全体が赤くなり熱を帯びる。
そして櫓の放電の様に全方向に向けて炎を放つ。
かなり近付いていた櫓に炎の波が物凄い速さで押し寄せて来る。
(これは躱せないか。)
素早い櫓に回避されない様に放ってきた魔法なので、範囲も速度も段違いである。
直ぐに躱せないと判断するとボックスリングから霊刀を取り出す。
腰を落として居合いの構えを取る。
鞘に収められている刀が雷を纏って、バチバチと音を鳴らし漏れ出ている。
「天剣十一式・霜月!」
迫り来る炎の壁を前に超速の居合いを放つ。
雷の斬撃が放たれ、視界一杯に広がっていた炎が真っ二つに分断された。
その奥には此方を向いているドラゴンの姿がある。
『ここだ!』
ドラゴンは魔法による攻撃も突破されると踏んで、次の攻撃の用意をしていた。
炎の壁が真っ二つにされたと同時に、その場所目掛けて飛び掛かった。
魔装された爪が櫓を抉り殺そうと迫ってくる。
「神速歩法・電光石火!」
ドラゴンすらも置き去りにする程の速度で移動して、爪による攻撃を回避する。
それと同時に櫓が持つ技の中で最高速であるこの速さを利用し、攻撃に転じる。
既にドラゴンはミズナの攻撃で飛行手段を奪われているので、地上の移動手段に使うであろう足を狙う。
今居る地面から巨大な足目掛けて飛び上がる。
最高速での移動状態なので、あまりの速さに飛び上がった部分の地面が爆ぜる。
足の横を一瞬で通り過ぎ、すれ違いざまに雷を纏わせた霊刀を一閃する。
周りの時間が止まったかの様に感じられる速度が上乗せされているからか、ドラゴンの硬い鱗でも斬り裂ける。
(まだだ。)
櫓は最高速を維持したまま両翼、尻尾、背中にも一閃ずつ放っていく。
ただでさえ魔力を大量に消費する移動方法なのだが、持続させての使用により魔力は殆ど無くなってしまった。
(これで最後。)
最初に斬った足とは逆の足に一閃する。
この間一秒も経ってはいない。
「天剣八式・葉月!」
速度を上乗せして火力を上げた六連撃を放った。
神速の移動が終わり、周りの止まっていた様に感じられた時が動き出す。
『ぐがあっ、な、なんだ!?』
ドラゴンは自分の身体の各六箇所の部位に鋭い痛みが走ったかと思うと、その場所から血が噴き出し困惑している。
自分が攻撃した瞬間に櫓の姿が一瞬で消えたかと思うと、身体の様々な場所に同時に痛みが走ったので、その困惑も当然だ。
痛みの原因は全て先程櫓が霊刀で斬った箇所である。
雷を纏わせた霊刀で斬ったものの、ドラゴンの身体の大きさに比べて遥かに小さい刀では、深くまでは斬り裂けていないので、致命傷とまではいかない。
だが櫓の神速移動は目で追うどころか反応すら出来ていなかったので、何をされたのかは分かっていない様だ。
(こっちもヤバいな。)
雷帝のスキルの乱用で魔力が尽き掛けていた。
頭がぼーっとしてきて身体が一度ふらついてしまい、このままでは危険だと判断して、ボックスリングから取り出したポーションを急いで飲む。
ポーションの効果で魔力が回復してくると、意識がはっきりと覚醒していく。
幸いドラゴンも無詠唱の光魔法で、櫓に受けた傷の治療をしているところだ。
血は止まっているが、櫓に斬り裂かれた箇所はぱっくりと開いていて、未だ治ってはいない。
(魔力も戻ったし、完治される前に追撃だ。)
ポーションの蓄えはボックスリングの中に沢山あるので、飲む隙さえあればまだまだ戦える。
櫓は治療に気を取られているドラゴンに追撃を仕掛けようと思ったが、その瞬間手元からバキッと言う不吉な音が聞こえてきた。
恐る恐る手元に視線をやると、霊刀が半ばから折れて刃先が地面に突き刺さっていた。
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