245話 苦渋の決断
『ぐうっ、なんだ!?』
ドラゴンは突然背中に攻撃を受け、炎のブレスを吐き出すのが止まる。
これによってミズナはギリギリ炎を防ぎきる事が出来た。
強力な魔法による攻撃だったので、先程とは違いダメージは与えられている。
雷が落ちた部分から大きな鱗が砕けて、地面へと落下していく。
「ごほっごほっ、受け身も取らずに攻撃してもこんなものか。」
櫓は地面に倒れている状態から起き上がりながら言う。
ドラゴンの爪に弾き飛ばされた時に、ミズナがなんとかしてくれる事を信じて、受け身を考えずに魔法の詠唱をしていたのだ。
後ろから攻撃されるとは思っていないだろうと考えての攻撃だったが、予想通り直撃だった。
『小癪な真似をしてくれる。』
ドラゴンは再び無詠唱の魔法で炎の矢を作り出し放ってくる。
炎で出来た矢が雨の様に櫓達に降り注ぐ。
「芸がない・・・。」
ミズナも再び櫓と自分を水の箱で覆う。
先程と同じ炎の矢では水の中に居る櫓達に攻撃は届かない。
『貴様もな!』
ドラゴンも炎の矢で倒せ無い事くらい理解している。
魔法を使いつつ大きな翼を羽ばたかせながら、櫓達目掛けて急降下してきた。
そして凶悪な爪が生えた手を丸ごと魔装して、振り下ろしてくる。
魔法が通じないので直接叩き壊そうとしてきたのだ。
更に炎の矢を広範囲に放って、逃げ道も塞ごうとしてきている。
「ミズナ、技を解け!」
迫り来るドラゴンを見て、ミズナの防御壁では防げないと判断して櫓が言う。
ミズナは直ぐにそれに従い解除する。
水の防御が無くなった櫓達にドラゴンよりも早く炎の矢が迫るが、雷帝のスキルで足に雷を纏い、ミズナを抱えてその場から一瞬で離脱する。
移動速度においては櫓もSランク並の実力がある。
迫り来る炎の矢を見ながら、当たらない様に避けつつ移動する事も朝飯前だ。
既に櫓達がいなくなった場所に炎の矢が次々と着弾して、爆発しながら火を撒き散らす。
その後魔装されたドラゴンの手が地面に突き刺さる。
辺り一帯の地面が大きなクレーター状に陥没した。
硬い地面は衝撃でバラバラに砕けながら舞い、ドラゴンの手の下に当たる地面は消し飛んでいる。
クレーター状に陥没したのはただの余波で、威力の殆どが真下にそのまま突き抜けていた。
底が見えない大穴が地面に空き、ドラゴンの凄まじい攻撃力を物語っている。
更にその衝撃で先程山が噴火した時と同じくらいの揺れが起こる。
立て続けにこんな揺れが起こっているので、近くにある町や村は大混乱だろう。
「なんて攻撃力だ。まともに正面から受けたら即死だな。」
櫓がミズナを地面に下ろしながら言う。
随分と攻撃された場所から距離を開けたのだが、櫓達が居る直ぐ近くの地面にまで亀裂が入っている。
「ご主人、私にスキル使わせる・・・。」
目の前に広がる凄まじい光景を見ながらミズナが言う。
「スキル?なんのだ?」
「壊霧のスキル・・・。」
ミズナが言っているのは魔法都市マギカルの近くにあるダンジョンで、パーティーメンバーのスキルを恩恵の宝玉で強化した時に取得したものだ。
取得してから一度として使っていないので、櫓も頭から抜け落ちていた。
一度も使っていないのは、スキルの効果のせいだ。
発生させた霧に触れている物全てを自壊させると言うとんでもない内容なのだが、代わりに使用者は命を落とす。
「そう言えばあったな、すっかり忘れてた。それでドラゴンを倒そうって事か?」
「そう・・・。」
使用した事が無いのでどれ程の効果があるかは分からないが、命を取れないまでもダメージは相当与えられると予想出来る。
「壊霧か・・。」
本当であればこのスキルをミズナに使わせる気は無かった。
精霊である事を利用して、スキルの効果で死んだとしても櫓の魔力で蘇れる。
だがスキルを使えと言う事は、ミズナに死ねと言っている様なものだと感じてしまったのだ。
「考えてる事分かる・・・。気にしない・・・。使わないとご主人も死ぬ・・・。」
櫓が躊躇する理由をミズナは分かっていた。
仲間を何よりも大切にする櫓にとっては、蘇れるとしてもその手段を取りたくないと考えてしまう。
だがミズナの言う通り、このまま戦って櫓とミズナが死んでしまえば、ミズナの復活にも時間が掛かり、仲間達も悲しむだろう。
それどころかシルヴィーやクロードは、この場に戻って来ると櫓に宣言している。
櫓が死んだ事を知って無茶な戦闘をドラゴンに挑む事も考えられる。
Aランク冒険者と言える実力を皆持っているが、このドラゴン相手では何人いても無駄死にするだけだ。
それだけは避けなくてはと考えて渋々決心した。
「・・悪いなミズナ、頼りない相棒で。絶対に復活させるから頼まれてくれるか?」
櫓はミズナの事を真っ直ぐに見て頼み込む。
「期待する・・・。」
ミズナはニヤリと笑ってドラゴンに向き直った。
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