243話 チート構築
「なっ!?」
「方向変えた・・・。」
既にミズナにも視認出来る程の距離にドラゴンが来ている。
十メートルを軽く超える体躯が圧倒的な存在感を発している。
「ちっ、急いで向かうぞ。ミズナ、精霊の腕輪に入れ。」
櫓は左腕にミズナから貰った精霊の腕輪を付けている。
ミズナはこの腕輪の中に入る事で、櫓から魔力を受け取る事が出来る。
今回はミズナも一緒に移動したいので、抱き抱えて運ぶよりも腕輪の中に入ってもらった方が走りやすい。
ミズナが腕輪の中に入った事を確認して、雷帝のスキルで足に雷を纏わせ、ドラゴンの後を追い掛ける。
走っている間に少しでも情報を得る為、調査の魔眼で視ておく。
名前 ブラックドラゴン
種族 ドラゴン
年齢 七百二十六歳
スキル 火炎吐息 威圧 思念伝達 詠唱破棄 自動魔力回復 全攻撃耐性Lv三
状態 平常
ステータスのスキル欄を見ただけで絶望する様な内容だ。
この世界に来てから調査の魔眼で視れた者の中では、間違い無くトップのスキル性能である。
先ず火炎吐息はこの世界に来て初めて出会った魔王が持っていた、炎のブレスを吐く事が出来るスキルだ。
しかし同じスキルでも使用者が異なれば威力は変わるので、比べられるものでは無いだろう。
威圧は櫓も所持しているが、使用者の魔力量が多ければ多い程その効果は高まる。
ドラゴンの魔力量は人間の尺度で測れない程に膨大なので、先程の効果も頷ける。
思念伝達は思っている事を口に出さなくても他人に伝える事が出来る。
櫓達の頭に直接声が聞こえてきたのは、このスキルの効果だ。
テイムされた魔物であっても人と話す事は出来無いので、意思疎通を行うのに便利である。
詠唱破棄は魔法を扱う為の詠唱を必要としないスキルだ。
ユスギの持っている詠唱省略の上位互換で、スキルの様にノータイムで魔法を使う事が出来る様になる。
自動魔力回復と全攻撃耐性Lv三は名前の通りである。
魔力をスキルや魔法で消費すると、大気に存在する魔力を徐々に取り込んで回復するのと、武器・魔法・スキル問わず、攻撃のダメージを三割減少するスキルだ。
(やる気を無くす様な内容だが、逃げる訳にはいかないな。)
雷帝のスキルの効果もあり、飛びながら移動するドラゴンとの距離は縮まっていく。
『逃れられぬと言っただろう、大人しく我に喰らわれろ。』
ドラゴンが追い掛けている前方の馬車を見ながら言う。
思念伝達のスキルの効果で櫓達にもよく聞こえる。
その声と存在のせいか、馬車を引く馬達が驚いてしまい、操るのに苦労している様である。
それでもドラゴンを前にして気絶しないだけマシだ。
シルヴィーの実家であるフレンディア家で逞しく育てられた馬なだけはある。
「全員目を瞑れ!」
馬も含めて早くドラゴンの恐怖から解放してやろうと、速度を上げて追い付こうとした時に大声が辺りに響く。
声は馬車の前方方向から聞こえたもので、沢山の魔物の死骸が地面に横たわる中で一人立っているリュンだった。
櫓達を無事にフックの村に送り届ける為に、一人残って魔物の相手をしてくれていたのだ。
疲れている様ではあるが、怪我の類は無い。
叫んだリュンの両手には、眩く光る光球が一つずつある。
それを二つ共上に投げ飛ばし、空中で接触させる。
その瞬間光球は弾けて、辺り一面白一色となる。
『ぐっ、目が。』
ドラゴンは突然の眩しさに明らかに飛ぶ速度が落ちる。
リュンの言う通りに目を閉じたのだが、それでも眩しいと思える程なので、開けていたら暫く使いものにならなくなるところだった。
ちなみにリュンの意図を汲み取り、機転を効かせたシルヴィーが、障壁の魔眼を使って馬の目を守る様に障壁を展開したので、馬車はそのまま走り続けている。
「リュンさん、飛び乗って下さい!櫓さんに任せて我々は離脱します!」
シルヴィーの声を受けて、走る馬車にリュンが飛び乗る。
既に体力も魔力も殆ど使い果たしている様な状態なので、残って戦うのは無理だ。
最後の力を使ってドラゴンの足止めをしてくれただけでも櫓にとっては充分だ。
「よくやったぞリュン。お前の相手は俺達だ、極雷砲!」
櫓は雷帝のスキルで両手に大量の雷を纏わせて、真上に掲げる。
纏わせた雷をドラゴンに向けて、荷電粒子砲の様な極太のレーザーとして放つ。
リュンの光球で一時的に視界を奪われ、櫓の攻撃を認識出来無いドラゴンの腹に直撃する。
攻撃を受けてから櫓に気が付いた様で、ドラゴンが真下を向いた。
全力の攻撃であったのにも拘らず、ドラゴンの腹には多少の焦げ目が付いた程度で、ダメージは殆ど受けていない様子である。
『我に単身攻撃を挑むとは、人族は相変わらず愚かだな。度胸に免じて先に相手をしてやろう。』
視界を奪えたのも一時的なだけであり、回復したドラゴンがそう言って、周りに人間程の大きさの炎で出来た矢を複数作り出す。
詠唱破棄のスキルの効果で、詠唱を必要とせずノータイムで炎魔法を使ってきた。
その矢が一斉に櫓の居る場所に放たれた。
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