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うっかり女神に邪神討伐頼まれた  作者: 神楽坂 佑
1章 異世界転生
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241話 囮役

「誰だ!」


辺りを見回しても声の主と思われる姿は見えない。

櫓達と獣人達全員に聞こえた様で、皆動きが止まっている。


「今は構っている余裕はありませんわ。急いで馬車に乗り込んで下さい!」


シルヴィーの声にハッとして獣人達が馬車になだれ込んでいく。

これでフックの村に居た獣人達は全て馬車に乗り込んだ。


「櫓様、全員乗り込みました。急いで出発しましょう!」


ネオンが櫓にそう声を掛けてくるが、櫓からの返答は無い。

ある一点に視線が固定されている。


「ご主人様?」


カナタが不思議そうに同じ方向を見るが、特に何も見えない。

人間よりも五感が優れている獣人のカナタに見えないものを、金色の目になった櫓には見えている。

櫓は神眼のスキルを使っている最中、黒目から金目に色が変化する。

頭に直接声が聞こえてきた時に、辺りを見回して何も居なかったので、噴火した山の方を遠見の魔眼で視たのだ。

最初は頂上の火口から溶岩が流れてきているだけの状態だったのだが、その火口から大きな黒いドラゴンが飛び出してきたのだ。

膨大な魔力の塊が一直線に櫓達の居る場所に向かってきている。

ドラゴンが飛んだ場所では魔物達がパニックを起こして、誰彼構わず暴れ回っている。

フックの村に来るまでに魔物が多かったのは、封印が解け掛かっていたドラゴンの影響だったのかもしれない。


「最悪だな、ドラゴンが此処に向かって来ている。」

「そんなっ!?」


雷の剣の面々とカナタが驚き固まってしまった。


『我から逃げようなどと考えても無駄だぞ。空の支配者からは何人たりとも逃れる事は叶わぬ。』


再び頭の中に声が聞こえてくる。

ドラゴンがなんらかの方法で言葉を話しているのだろう。

そして先程とは違い、言葉の後に巨大なプレッシャーが押し寄せて来る。

恐怖や絶望と言った負の感情を感じさせられる。

これは櫓の持つ威圧のスキルと同じ系統の様だ。

敵との魔力量の差で恐怖心を刺激したり戦意を挫いたりする効果がある。

実際に周りに居たネオンは地面に力無く座り込んでしまい、カナタとシルヴィーは目で分かるくらいには震えている。

これでは馬車の中に居る獣人達は全員気絶しているだろう。


(俺もビビってるな。)


手を見ると微かに震えているのが分かる。

これからSランクのドラゴンが襲いに来るのだ。

ハイヌやティアーナの森の村長に一度として勝つ事が出来無かったので、勝つビジョンが見えない。


(だが俺が取り乱す訳にはいかない。恐怖心を更に煽る事になってしまう。)


この場に居る者の中で最も強い櫓が怯えを見せてしまっては、全員が冷静でいられなくなってしまう。

そうなれば簡単に全員命を失う事になる。


「凄い速度だが時間はある。俺が足止めに残るから、お前達は馬車の護衛をしつつ少しでも遠くに逃げろ。」


微かに震える手を握り締め、平然を装ってドラゴンの来る方向に歩き出して言う。

どれだけ時間稼ぎ出来るかは分からないが、誰かが囮として残らなければ、強化した馬の走る速度でも直ぐに追い付かれてしまう。


「駄目です、櫓様。」


ネオンが震える腕を必死に櫓の方に伸ばす。

櫓の強さは知っているが、ドラゴンの凄まじいプレッシャーを感じて、このままでは死んでしまうと思ってしまった。


「心配するな、死ぬつもりは無い。雷帝のスキルを使えば、俺は誰よりも早く動けるんだからな。」


今ドラゴンが飛んで此方に向かって来ているが、距離的に後一、二分と言ったところだ。

だが櫓が雷帝のスキルを使って移動すれば、その距離を数秒で駆け抜ける事は出来る。

ドラゴンよりも移動速度だけで言えば勝っている。


「櫓さん、私も共に戦いますわ。」

「ご主人様、私もです。」


恐怖で震えながらもシルヴィーとカナタが言ってくる。

二人の強さは充分分かっているが、震えている今の状態では、今回は足手纏いになってしまうだろう。


「震えながら何を言っている。ネオン、カナタ、お前達は何の為に此処に来た?村人を守る為だろ?それにシルヴィー、お前は貴族だ。土地は違うが民を守るのが貴族の役目なんじゃないのか?」


三人が何を言ってきても一緒に戦わせるつもりは無い。

Sランクの魔物を相手に他の者達を気遣う余裕は無いと思われる。

危険な状態になっても助けに入れるかも分からないのなら、我が身一つの方が安心出来る。

しかし三人にしてみれば、櫓が自分達を逃す為に死にに行く様にしか見えない。

どうにかしなければと考えていると、御者台に乗って状況を見守っていたミズナが降りてきた。


「交代・・・。」


そう言ってミズナは座り込んでいるネオンの手を叩く。


「ミズナ、様・・・?」


訳が分からないと言った表情でネオンが尋ねる。


「足手纏いはさっさと逃げる・・・。」


辛辣な言葉に聞こえるがミズナなりの優しさだ。

ドラゴンのプレッシャーを受けても涼しい顔をしているミズナが、櫓と一緒に戦う為に代わりに残ると言い出したのだ。

ミズナは他の者達と違って、精霊なので命を失っても櫓の魔力で復活する事が出来る。

危険な戦いでも一番ノーリスクで挑む事が出来る。


「ご主人は代わりに任せる・・・。」


そう言ってミズナは櫓の方に向かって歩いて行った。

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