239話 親でも許さない
「ご主人様、ご無事ですか?」
「残念でしたわね。」
カナタとシルヴィーが駆け寄って来ながら言う。
右腕が使えない状態だが、この程度の怪我であればポーションで治療出来るので、飲んで回復しておく。
問題はシルヴィーが言っていた黒尽くめの女の件だ。
今回の騒動や魔王についての手掛かりと聞きたい事は山程あったのだが、自害されてしまいそれも叶わなくなってしまった。
「後は獣人達が目覚めるのを待つしか無いか。」
ネオンとミズナが気絶している獣人達の下で、どうにかして起こそうと頑張っている。
「それにしても気になりますね、敵の言っていた言葉。」
カナタが櫓とシルヴィーに言う。
「ああ、間違い無く俺達人間にとって良くない事が起きるだろうな。」
「言葉?何か言っていましたの?」
位置的に黒尽くめの女に一番近かったのは、直接戦っていた櫓だ。
他の者達は離れていたうえに魔物と戦闘中だったので、声が届かなかった様だ。
しかしカナタは人間よりも優れた五感を持つ獣人なので、戦闘中でも声を聞き分けられたのだ。
「時間稼ぎとか作戦成功とか言ってたな。命を捨ててまで俺達と戦っていたのは、何かの足止めだったんだろうな。」
櫓は噴火した山を見ながら言う。
遠くても噴火によって溢れた溶岩が赤々とはっきり見える。
黒尽くめの女が作戦成功と言ったのは、噴火した山を見ての事だ。
何かしら関係しているのは言うまでも無い。
「噴火したとは言え、フックの村には届きませんから村は関係なさそうですね。」
そもそも櫓達と言うイレギュラーが居なければ、騎士と魔物だけで充分にフックの村は落とせる。
なので村と言うよりは獣人達から奪った大量の魔力が関係しているのだろう。
「皆さん、目を覚ましました!」
黒尽くめの女の言葉について考察しているとネオンの呼ぶ声が聞こえてくる。
ネオンが支えている男性の獣人が目を覚ました。
両頬が少し赤くなっていたので、叩いて無理矢理目覚めさせた様だ。
「ここは・・。」
「しっかりしてお父さん、ネオンだよ分かる?」
そう言うネオンの目には涙が溜まっている。
奴隷落ちしてから久々に家族と再開して感極まっていた。
起こした人物はネオンと同じ狐の獣人で父親の様だ。
「ネ、ネオンなのか!?本当に!?」
目が覚めたばかりで頭が上手く回っていない様だが、久々に再開した娘の顔を忘れてはいなかった。
ネオンの父親も涙を流しながらネオンを抱き締めている。
父親も好きでネオンを奴隷落ちさせた訳では無いので、ずっと罪悪感を感じていた。
強く抱きしめられ苦しそうにしているが、久々の再開なのでされるがままだ。
「お父さん、気持ちは分かるけど今はそんな場合じゃないの。」
「っ!?そう言えば騎士は何処に?」
気絶する前の事を思い出して辺りを見回している。
自分達を道具の様に扱う騎士達が一人も居なくなっている。
「その辺の事も含めて色々教えて欲しいんだが。」
櫓が近付くと明らかに警戒した目を向けてくる。
騎士達とは違う見た目だが、獣人を迫害する人間と言う同じ種族には変わりないので、苦手意識は消えないだろう。
更に櫓の後ろで奴隷の首輪を付けて、従者の様になっているカナタが居るのも影響している。
同じ村出身のカナタの事を当然ネオンの父親も知っているので、目はどんどん鋭くなっていき睨んでいると言ってもいい。
「何の様だ!貴族の関係者か!これ以上村人を奪うと言うならば容赦せんぞ!」
勘違いしているネオンの父親は狐火のスキルで片手に轟々と激しく燃える炎を生み出し、今にも攻撃してきそうだ。
「だめー!お父さんいきなりなにするの!」
「クオンさん、ご主人様への無礼は許しませんよ!」
ネオンは父親のクオンが炎を生み出したのを見て、慌てて頭を引っ叩いて注意する。
カナタも両手を広げて櫓の前に出て、少しだけ怒っている様だ。
「ふ、二人共どうしたんだ?分かる様に説明してくれ。」
それからネオンとカナタが櫓達の事について説明してくれた。
フックの村を襲った貴族とは無関係で、多少盛っている様に感じたがお世話になっている命の恩人とまで言ってくれた。
「まさか娘の命の恩人とは知らず、いきなり失礼をした。」
話を聞いたクオンは土下座までして謝ってきた。
「誤解が解けたのだから気にしないでくれ。それよりも村で何があったのか教えてくれないか?」
櫓の質問に対してクオンが知っている事はあまり無かった。
カナタ達戦闘を得意としている者達が奴隷として連れて行かれた後、一度貴族達は引き上げて行ったと言う。
しかし翌日になると怪しい魔法道具である吸魔の柱を持って、またフックの村にやってきた。
そしてフックの村に残った獣人達を全て捕縛して、死なない様に順番に魔力を奪われ続けたのだと言う。
「すまないが我々から奪った魔力が何に使われたかまでは分からない。」
「魔力が関係しているのは多分あの山だと思うが、何かあるのか?」
黒尽くめの女が噴火したのを見て歓声をあげた山を指差して尋ねる。
その山を見てクオンは首を横に振る。
「いや、私には分からないな。だが村長ならば何か知っているかもしれない。」
クオンは立ち上がり、気絶している村長の下に向かった。
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