237話 肉を切らせて骨を断つ
地面を駆け抜けて黒尽くめの女に接近する。
肩に刺さった刀を抜き捨てて、新たに取り出したアクセサリーを巨大化させた。
先程使っていたスコップの先を巨大化させた様な武器を構えて、櫓を迎撃しようとする。
「遅い、閃拳!」
だが肩の痛みで動きが鈍く、先に櫓の素早い拳が武器を握る腕を殴る。
「なっ!」
殴られた衝撃で武器を落とし、櫓の前に無防備の状態を晒してしまう。
「吹底!」
情報源を殺す訳にはいかないので、魔装した掌底を腹に叩き込む。
「かはっ!」
掌底の衝撃で肺の空気が一気に吐き出される。
黒尽くめの女はそのまま勢い良く吹き飛ばされ、近くの木に叩き付けられた。
衝撃で木は半ばから折れ、黒尽くめの女はバタリと地面に倒れる。
「他も終わりそうだな。」
巨大化したアイアンアントと戦っている四人の方も優勢のまま終わりそうだ。
片方はミズナの水の壁の防御力で鎌を防ぎ、シルヴィーが槍で身体を穴だらけにしている。
動きが相当鈍くなってきており、もう決着がつきそうだ。
もう一方もネオンとカナタが連携して立ち回り、鎌を振るう腕が二本とも斬り落とされている。
主となる攻撃手段を失ったので、倒れるのも時間の問題だろう。
「くそが、死ね!」
仲間をやられて焦った貴族の男が短杖を、余所見をしている櫓に向ける。
魔力が注がれて火球が三つ放たれる。
魔力を流す事によって初歩的な魔法を繰り出す事が出来る魔法道具の様だ。
櫓がリュンの為に作った無色の剣の様に強力な魔法で無ければ、魔法を覚えた武器を作ると言った事も可能だ。
しかし初歩的な魔法しか使えない武器なんて、不意打ちか戦えない者が護身用として持つくらいしか役目が無い。
「こんなものは効かない、観念するんだな。」
魔装した腕を振るうだけで火球を全て消し飛ばす。
そのまま貴族の男を捕まえる為に歩いて行く。
「貴族の私に近付くな、死ね死ね死ね!」
水球、風の斬撃、石飛礫等往生際悪く様々な攻撃を放ってくるが、初歩的な魔法ばかりで威力が乏しく、櫓が手で払い除けるだけでダメージは全く無い。
その間にもどんどん距離が近付いていく。
「色々情報を聞かせてもらうぞ。」
「ふん、死ぬ貴様に聞かせる情報などない!」
手を伸ばして捕まえようとする櫓に対して、貴族の男が持っている短杖を投げ捨てた。
今の言葉から諦めた訳では無さそうである。
櫓の手が届くよりも先に指に嵌めていた指輪が光り輝く。
「タイミングバッチリよ!」
直後貴族の男が居た場所には、鉄塊の武器を高々と振りかぶっている黒尽くめの女が立っていた。
魔法道具であろう指輪の効果で場所を入れ替えたのだ。
あの衝撃で気絶したと思っていたのと、黒尽くめの女が櫓の死角に居たので起き上がっている事に気付かなかった。
「ちっ。」
場所が入れ替わった時点で、防御を捨てた両手持ちの全力で、思い切り武器が振り下ろされていたので、霊刀の無い櫓は大量の魔力で魔装した腕を頭の上でクロスした。
直後両腕に暴力的な重みがのし掛かってきて、その衝撃で櫓を中心に円形状に地面がヒビ割れ身体が沈む。
魔装して防御力を上げたのだが威力が凄まじく、クロスした時に上にしていた右腕に激痛が走り顔が歪む。
(くっ、ヒビ入ったか骨が逝ったな。)
少し動かそうとするだけで痛みが走るので、右腕は実質使えなくされてしまった。
だがやられてばかりでは無く、お返しにと地面に埋まった右足を引き抜き、体勢が悪いながらもガラ空きの相手の腹に膝をめり込ませる。
隙だらけになるのを覚悟した全力の攻撃だったのだろう。
黒尽くめの女が櫓のカウンターを受けて、武器を残して吐血しながら地面を転がり、乗ってきたキラーバードの方に吹き飛んで行く。
「痛ってえな、面倒な事しやがって。」
ポーションを飲んで治したいところだが、戦闘中に隙は見せれない。
黒尽くめの女もあれだけのダメージを受けているのによろよろと立ち上がる。
「・・ごほっ、これだけ遊べば、充分よね。」
黒尽くめの女は血を吐きながら指笛を吹く。
ずっと待機していたキラーバードが翼を広げて、貴族の男の方に向かって飛ぶ。
そのまま口で咥えて上空に飛びあがろうとする。
「逃がすか!」
「邪魔させないわよ。」
黒尽くめの女が今度は指を弾いて鳴らす。
その合図に従って櫓の居る場所と、それぞれ一纏まりにされていた騎士達と獣人達の居る地面から、丸呑みにするかの様に巨大な口が突き出てきた。
地面に潜んでいた魔物に合図を出したのだ。
「破脚!」
巨大な口の片側に魔装した回し蹴りを放ち、自分が通れるだけの穴を開け脱出する。
飛び出してきたのは十メートル程の巨大な鰐の様な魔物だ。
「雷撃!」
口に穴を開けられ血を垂れ流しているのだが、敵意剥き出しで櫓に向かってきたので左手で雷を飛ばして爆発四散させた。
だがその間に貴族の男を咥えたキラーバードは、雷帝のスキルの射程外まで飛び去ってしまい、取り逃してしまった。
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