236話 巨大化
戦闘を得意としていないのか、突然櫓から放たれた雷に貴族の男は反応出来ていない。
「危ないわよ。」
黒尽くめの女が貴族の男の襟元を後ろから掴み、自分の後ろに下げる。
そしてアクセサリーくらいの大きさの物を手に持って前に出す。
雷が当たる寸前にアクセサリーが巨大化して、攻撃を防いだ。
スコップの先の部分が巨大化した様な見た目をしており、盾の様に攻撃を防いだが、取手も付いているので武器として扱う事も出来そうだ。
「貴様!貴族の私によくも・・。」
黒尽くめの女に助けられなければ、雷に当たっていた事に気付いて貴族の男が怒り狂って前に出ようとする。
「その気持ちは分かるけど下がってなさい。この子達相当な手練れよ。」
その言葉を途中で遮って忠告する。
向こうも敵と判断して警戒している様だ。
「しかし・・。」
「私が代わりに相手してあげるから、それに作戦の失敗は望むところでは無いでしょう?魔王様に迷惑を掛ける事になるわよ?」
「ちっ、分かった従ってやる。」
貴族の男は舌打ちをして忌々しそうにキラーバードの所まで下がる。
魔王に迷惑を掛けると言う言葉が効いた様だ。
この男も黒尽くめの者達と同じく魔王を崇拝しているのだ。
「少し相手をしてもらうわよ。」
地面に突き立てた巨大な鉄塊を片手で軽々と持ち上げて構える。
(分かっていた事だが調査の魔眼は効かないか。)
黒尽くめの女の情報を得ようと調査の魔眼で視てみたが、情報が隠蔽されていて分からない。
今迄の黒尽くめ達も同じだったので、期待はしていなかったが対策は完璧の様だ。
貴族の男も同様で何一つ分からなかった。
「全員で一気に攻めて終わらせるぞ。」
櫓の言葉に従ってそれぞれ得物を構える。
「その人数相手はきついわね。」
黒尽くめの女がそう言って武器を持っていない手で懐からクリスタルを二つ取り出して放り投げる。
中からはネオンと出会った時に戦ったCランクの魔物アイアンアントが二体出てきた。
「今更そんな雑魚じゃ相手にならないぞ。」
櫓の言う通りCランクの魔物に苦戦する様な者はこの中にはいない。
鋼鉄化と言う防御力を上げるスキルを持っているが、櫓達の攻撃力の前には意味を成さない。
「このままだとそうでしょうね。だから少しアレンジさせてもらうわ。」
黒尽くめの女が二体のアイアンアントに触れるとその身体が巨大化する。
元々三メートル程の大きさだったのだが、十メートルはあろうかと言う巨大魔物になった。
武器や魔物を巨大化させた事から、そう言ったスキルや魔法を所持しているのだろう。
「キシャア!」
片方のアイアンアントが元の身体程もある鎌を振り上げて櫓達に向けて振り下ろして攻撃してくる。
それに合わせてネオンが鎌目掛けてジャンプする。
「天剣四式・卯月!」
剣を引き絞ってレイピアの様に、鎌目掛けて勢い良く突きを放つ。
金属同士が激しくぶつかり合う音が響き、アイアンアントの鎌を押し返す事に成功する。
しかしネオンも鎌の威力によって物凄い勢いで吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「いててて。」
「大丈夫・・・?」
「はい、助かりましたミズナ様。」
ミズナが水帝のスキルでクッションの様に薄い水の膜をネオンの落下地点の地面に張っていたお陰で、大したダメージにはならなかった様だ。
しかしネオンの攻撃と互角と言う事は、巨大化されて攻撃力がCランクの枠をはみ出た様だ。
「櫓さんは黒尽くめを、魔物は私達に任せて下さいませ。」
シルヴィーが双槍を構えてアイアンアントに飛び掛かりながら言う。
「任せたぞ。」
櫓は霊刀を構えて黒尽くめに向かう。
強化されたアイアンアントの攻撃を見たが、一体に対して二人居れば対処は難しく無いだろうと櫓も判断した。
「貴方がリーダーの様ね。少し遊んでもらうわよ。」
鉄塊を振り被って叩き付けてくる。
スコップの先を巨大化させた様な武器なので、武器の周りは全て尖った刃になっていて斬れ味が良さそうだ。
霊刀で受け止めるが鈍器で殴られた様な衝撃を受けて地面を滑る。
「馬鹿力だな。」
「女性に対して失礼よ?」
黒尽くめの女は足元に落ちていた小石を幾つか拾い上げて、櫓の頭上目掛けて軽く放る。
投げられた小石は空中で巨大な岩石になり、櫓を押し潰そうと降ってくる。
「おまけよ。」
黒尽くめの女が持っていた武器を櫓に向けてブーメランの様に放り投げる。
巨大な鉄塊が回転しながら風切り音を上げて飛んでくる。
「天剣八式・葉月!」
霊刀に雷を纏わせて迫り来る岩石と鉄塊を、硬さを感じさせず豆腐の様に全て真っ二つに斬り裂いていく。
そして斬り終わると同時に次の攻撃に転じる為に刀を手放す。
「反撃だ、天剣三式・弥生!」
体勢を霊刀に合わせて、その柄頭を思い切り蹴り飛ばす。
霊刀は矢の様な速度で真っ直ぐに黒尽くめの女に向けて飛んで行き右肩に突き刺さり、ボタボタと血が流れている。
「ぐっ!?」
櫓の間合いの外だと安心していたところに、刀を蹴って攻撃してくるなどと予想が出来ず、反応が遅れてしまったのだ。
櫓は更に追撃をする為に走り出した。
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