227話 大量の傀儡子
「訓練は櫓が暇な時に合わせるよ。私は大体ギルドの酒場に居るからさ。」
今日も公爵家の依頼の時も冒険者ギルドの中に設けられている酒場でハイヌは呑んでいた。
いつ見ても浴びる様に酒を呑んでいて、細い身体のどこに入るのか謎だ。
「分かった。」
いつ頃暇になるかは分からないので、時間を合わせてくれるのは有り難い。
都合が合えば奴隷達の様にパーティーメンバーも稽古に誘いたいところだ。
「じゃあ、先に帰らせてもらおうかな。ゆっくり楽しみたいしね。」
妖霊酒を嬉しそうに抱いて帰ろうとする。
初めて呑む手に入りにくい貴重な酒なので、楽しみで仕方が無いと言った感じだ。
「その前に一つだけ質問させてくれ。」
聞きたいことがあったので嬉しそうな背中に向けて呼び止める。
「なんだい?時間掛けないでよ?」
一応無視して帰らず止まってくれたが、振り向いた顔は明らかに不機嫌だ。
「傀儡子ってスキル知ってるか?」
ミーシャの件で問題となった傀儡子のスキルの件について、ハイヌに聞いておきたかったのだ。
ミーシャの様に自分達にも被害がくる可能性はあるので調べておきたかった。
Sランク冒険者のハイヌであれば、様々な情報を持っているのではと櫓は考えた。
「知ってるよ、厄介なスキルだからね。」
ハイヌは傀儡子のスキルの存在も能力も知っていた。
やはりSランク冒険者でも厄介だと感じる程のスキルの様だ。
「そのスキルを持っている奴に心当たりがあったら教えてくれ。」
誰か知っておければ、事前に警戒する事が出来る。
「傀儡子のスキル絡みで何かあったのかい?」
ハイヌはその場に居合わせていなかったので、テトルポート伯爵家のミーシャが操り人形のスキルを持っていた事を説明する。
「成る程ね、一応知ってるけど犯人かは分からないな。それに探したとしても犯人を見つけるのは難しいと思うよ?」
心当たりはある様だがはっきりしない回答だった。
「なんでだ?」
「傀儡子のスキルを持っている人が多いからだね。」
ハイヌが説明してくれた内容は、奴隷都市の中にあるダンジョンから、傀儡子のスキルが入った恩恵の宝玉が大量に見つかると言う事だった。
なので恩恵の宝玉を使って傀儡子のスキルを得た者が大量にいる。
その為今回の事件の犯人を特定出来無いのだ。
「そんな危険なスキルを持っている奴が大量に居て大丈夫なのか?」
傀儡子のスキルを持った者が操り人形のスキルを持った者を自由に操る事が出来る。
ミーシャの時のアンクレットの様に、操り人形のスキルを簡単に与えられる魔法道具があれば、都市が簡単に大混乱に陥るのではないかと思った。
「それは大丈夫、傀儡子のスキルを持っている者に操り人形のスキルは付けられないんだ。」
ダンジョンから手に入った恩恵の宝玉を使って多くの者が傀儡子のスキルを得た。
だが傀儡子のスキルを持っている者は、操り人形のスキルを覚えられないので、傀儡子が傀儡子を操る事は出来無い様だ。
「自衛の為にも取得しているって事か。だが都市の全員が覚えている訳じゃ無いだろ?」
奴隷都市は五大都市の一つだ。
今迄に訪れてきた五大都市は何万人、何十万人と言う単位の多くの人達が暮らしていた。
ダンジョンから恩恵の宝玉が沢山見つかるからと言って、暮らす人達全てに行き渡る量は無いだろう。
「櫓は奴隷都市に行った事が無いみたいだね。あそこで暮らしている者は殆どが奴隷なんだよ。元々奴隷は道具みたいな扱いをされるからさ、操り人形のスキルを与えられても誰も構わないみたいだね。」
操り人形のスキルを持っている者に、傀儡子のスキルを持っている者であれば誰でも干渉出来る。
なので奴隷商人や貴族等の奴隷を従える立場にいる者達が傀儡子のスキルを持っていれば何も問題は起きない。
「酷い都市だな。」
櫓も奴隷を沢山購入しているが道具の様に扱った事は無い。
一人の人として接しているので、奴隷達からも最初は戸惑われるが印象は最高だ。
「でも無いと困るのも確かさ。労働力として奴隷は無くてはならない存在。多くの場所で必要とされているからね。」
奴隷は奴隷の首輪を付けているので、主人に逆らう事が出来無い。
言う通り動いてくれる人が近くに居る生活が当たり前の世界なので仕方が無い事だ。
「必要とされているのは分かるが、今回の様な問題が起きてるのは不味いだろ?」
奴隷では無く貴族の娘が傀儡子のスキルを持つ誰かに操られていたのは、かなりの問題である。
「本来であれば奴隷都市外に傀儡子のスキルは持ち出せ無い様になっているんだ。門のところで魔法道具によって傀儡子のスキルを消されたり、恩恵の宝玉のチェックをされたりしてね。」
奴隷都市内では特に害の無いスキルとなっているが、都市外では害しか齎さないスキルだ。
検問して厳しく調べている様である。
「つまりイレギュラーな事が起きたって事か。」
「そうなるだろうね。奴隷都市のダンジョン以外で傀儡子の恩恵の宝玉が見つかったか。或いは不正な手段で奴隷都市から持ち出されたかだ。後者だと相当まずい状況と言えるね。」
それ以上の情報は無く、まずい状況にも関わらずハイヌは妖霊酒を抱き足取り軽く去って行った。
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