226話 妖霊酒の魅力
櫓が目を覚ますと訓練場の端に設けられているベンチで寝かされていた。
周りでは奴隷達が心配してそうに櫓の事を見守っている。
「お、目が覚めたね。」
ハイヌはポーションを渡しながら言ってくる。
魔法道具の効果で死ぬ事は無いが、戦闘で受けた痛みは残っており、魔力も減ったままなので回復しないと動くのも辛い状態だ。
苦い液体を一気に飲み干して、活動出来るくらいには回復する。
「完敗だったな。」
戦っている間の攻防一つ一つで、ハイヌとの実力差を感じた。
ハイヌの戦闘スタイルは櫓と似ている部分が多い。
短剣と言う武器を扱えて体術も出来、戦闘系のスキルや魔法も持っている。
学べる事は多そうである。
「いやいや、櫓が思っているよりも随分と追い詰められていたよ。」
ハイヌは最初から全力で戦っていた訳では無かった。
Aランクの中でも頭一つ抜けている櫓とは言え、Sランクの自分が全力で戦えばあっさり終わると思っていたからだ。
しかし気が付けば、手を抜けば危ない部分も多く、櫓に全力を出させられていた。
中々無い経験だったので、櫓へ対する評価は鰻登りである。
「そうだといいけど、それより待たせて悪かったな。」
櫓は付き合ってくれたハイヌに約束の酒を渡す。
欲しがっていたし、待っていたのもこれが理由だろう。
「やった!楽しみだよ。」
嬉しそうに受け取って頬擦りしている。
渡した妖霊酒と言う名前の酒は、エルフの里でしか作れない酒だ。
しかしエルフ達は奴隷狩りしてくる人間を恐れて、関わりを持とうとしない。
なので人間が妖霊酒を入手する事は非常に難しい。
オークション等で売りに出したとしても、高価な魔法道具並の値段が付くだろうとメリーも言っていた。
「お前達も待たせて悪かったな。」
奴隷達は気絶している櫓の傍でずっと見守ってくれていた。
本来奴隷は主人の命令が無ければ勝手な行動をしないので、気絶している間退屈な時間を過ごさせてしまった。
「私達の事はお気になさらないで下さい。それよりもご主人様、体調に問題はありませんか?」
奴隷達を代表してカナタが尋ねてくる。
ハイヌとの戦いで直ぐに敗れて気絶した自分達と違って、櫓は長時間激しい戦いをしていた。
疲労や怪我等がその分多いので、心配してくれているのだろう。
「ポーションも飲んだし心配無い、ありがとな。でももう少し休みたいから、お前達は自由に時間を潰しててくれ。」
全て回復した訳では無いが、動く事に関しては特に支障は無い。
ハイヌが渡してくれたポーションは、中々良い物だった様だ。
「分かりました。」
奴隷達は皆武器を持って訓練場に戻って行った。
ハイヌに指摘された事に注意しながら、訓練するのだろう。
櫓とハイヌの戦いも刺激を与えた様で、皆やる気に溢れている。
「真面目だな。」
「ご主人様の様に強くなりたいんじゃないかな?戦闘奴隷は誰かを守るのが仕事だからね。」
カナタ達を購入したのは、ドランや子供達を守ってもらう為だ。
更に強くなってくれるなら言う事は無い。
「俺も頑張らないと直ぐに抜かれてしまうな。」
「それなら私が稽古を付けてあげようか?」
自分を指差して言うハイヌ。
櫓が思っている以上にハイヌは櫓の事を気に入っているのだ。
「ハイヌが?」
「Sランクの冒険者に稽古を付けてもらえる機会なんて中々無いよ?」
それは言われるまでも無い事だ。
世界に数える程しか居ない、化け物とまで言われる冒険者達。
その中の一人であるハイヌに稽古を付けてもらえれば、更なる成長に繋がるだろう。
「断る理由は無いが、ハイヌにメリットはあるのか?」
櫓に一方的にメリットがあるだけで、ハイヌにそれ程メリットを感じ無い。
ハイヌにとって少し丈夫な対戦相手くらいにはなれるが、強くなる手助けとまではなれないだろう。
「これだよこれ、未だ持っているんだろう?」
ハイヌは大事そうに持っている妖霊酒を指差す。
未だ櫓がボックスリングの中に妖霊酒を持っているとふんで、狙っている様だ。
渡した妖霊酒は酒瓶一本分しか量は無いので、酒場での呑みっぷりを考えると味わって呑んでも直ぐに無くなってしまうだろう。
「そう言う事か、どうするかな。」
酒を好んで呑まない櫓としては、妖霊酒の使い道は売るかあげるかしかない。
売ればかなりの値段になる事は分かるが、お金を稼ぐ手段であれば他に幾らでもあるので、金で解決出来ず妖霊酒の希少性を活かせる場面で使いたいと思っていた。
妖霊酒はエルフ達にとっては一般的な酒なので、メリーの言う通り大量に購入してきたので在庫は沢山ある。
「せっかくだし頼むとするか。」
ハイヌも期待に満ちた目で見ていたし、悪い取引でも無いと感じたので了承する事にした。
「よし!任せておきなよ!」
嬉しそうにガッツポーズをして良い笑顔でハイヌが言った。
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